天国から来た大投手 九、インターミッション 144 | 六月の虫のブログ

六月の虫のブログ

ブログの説明を入力します。

森次郎達は、モントレーのピアにあるシーフードレストランに行った。森次郎は、先日食べたダンジャネスクラブを薦めた。生牡蠣やエビのカクテル、あさりの唐揚げを前菜として注文した。裕香やスタッフはビールのつまみにそれらを注文した。森次郎は、ここは居酒屋じゃないのにと思った。ウエイトレスも森次郎を知っていて、「モリ、今夜はにぎやかね」と言った。「うん、ネイサンと僕の取材に来た人達なんだ。チップもはずんでくれると思うよ」。ウエイトレスは、ウインクするとテーブルを離れた。裕香が「吉野君、ここにはしょっちゅう来るの」と尋ねた。森次郎が「いいえ、今夜で三度目ですけど」と答えると、サンフランシスコに駐在している記者は「モントレー界隈で、ネイサンと吉野君を知らない人はいないよ」と説明した。森次郎は「僕はからだも大きいし、東洋人ということで、すぐに分かるみたいです」と付け加えた。

ロバートソン高校バスケットボールチームは、金曜日の試合に快勝した。取材陣も、チアリーダーのパフォーマンスや観客の盛り上がりに驚いていた。スポーツは高校レベルでもエンターテイメントになっている。彼らは、日本の高校スポーツとは違う新鮮さを感じていた。裕香達はネイサンやメグと一緒に応援することで、あらためてネイサンの陽気さに感心した。

翌日の土曜日、メグ達のアパートで、森次郎とネイサン、メグのインタビューをした。ネイサンは、春には野球に挑戦することを楽しそうに話した。メグは、今でも全米からそして日本からもネイサンの治療費の寄付や励ましの手紙がきていることにカメラの前で感謝の意を表した。森次郎は、ネイサンとメグのことが純粋に好きだから、こういう付き合いができるのだと説明した。

裕香は、最後にネイサンに日本の子供達に何かメッセージを贈ってくれるよう頼んだ。ネイサンは笑顔で裕香の要求に応えた。「日本の皆さん、僕は今最高に幸せです。モリと出会うことができて、僕もママも本当に良かったと思っています。ねえ、ママ」と言ってメグにウインクした。「モリのおかげでタッチダウンを決めることができたんだ。野球を始めるのも楽しみにしている。僕は、僕の病気のおかげでこういう取材を受ける機会が多いんだけど、僕は普通の九才半の男の子だよ。言っとくけど、僕は自分が可哀想だとは思ったことはないよ。僕にはこの素晴らしいママと親友のモリがいるんだもん」と二人の方を見て微笑んだ。「もちろん、僕が、病気のことをまったく考えないと言うと嘘になる。たまに、頭が割れるほど痛くなることがあるから。ママがさっき言っていたように、僕は表彰式の後、注目されるようになって、多くの人達から励ましの手紙をもらうんだ。辛い時でも、皆が応援してくれていると思えば、力が沸いてくる。このような取材を通して、病気と闘ったり、その他の障害と闘っている人達に勇気を与えられたらいいな。それが、多くの人からいただく励ましの手紙へのお返しだと思っているんだけど。日本の皆さん、春には元気に野球している姿を見せるよ。もちろん、学校の勉強も頑張るよ。あまり好きでない教科もあるけど、僕達、小学生の仕事は勉強だからね。ねぇ、お姉ちゃん」と裕香に同意を求めた。裕香は声が出ず、ただうなずくだけだった。

インタビューを終えると取材陣は野球のシーズンが始まったら再び取材に来ると言い残し、帰国する為にサンフランシスコへ向かった。裕香は森次郎と二人きりになりたいと思ったが、その機会はなかった。森次郎は、裕香と二人きりにならなくて、ホッとしていた。浩輔は、裕香の顔を見ることができて、嬉しそうだった。ただ、浩輔は二ヵ月後に始まるベースボールシーズンのことと残りのバスケットボールシーズンのことで頭が一杯だった。


ロバートソン高校のバスケットボールシーズンは、満足できるものだった。州大会出場は、逃したものの地区チャンピオンには輝いた。デニスとルースターが地区オールスターに選ばれた。





            フリー画像より