天国から来た大投手 九、インターミッション 142 | 六月の虫のブログ

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メグは大きなグラスに入ったミルクとお手製のチョコレートチップクッキーを、森次郎に持ってきた。メグは、もう何も言わなくても森次郎の欲しいものが分かるようだ。ネイサンが「モリはいいな。僕なんか、食事の前にクッキーを食べると、ママに叱られるのに」と言うと、メグは「モリは練習してお腹が空いているのよ。それに、ネイサンも知っているように、モリの食欲はすごいでしょ」と微笑んだ。森次郎が「メグ、ごめん。家計を圧迫するほど食べて」と言うと、「大丈夫よ。ロバートソン高校は、結構待遇いいんだから」とメグが笑った。

ダンジャネスクラブは、食べ応えがあった。エビフライもハチミツやメグお手製のソースにつけて食べると、美味しい。ネイサンも久し振りの、シーフードに満足しているようだ。森次郎は、ネイサンの検査の結果を早く知りたいと思っていたが、メグはその話題に触れない。ネイサンも何も訊かない。デザートが終わると、三人でお皿を片付け、食器洗い機に入れた。その後、スクラブル(英語綴りゲーム)をした。九時になると、ネイサンは「おやすみ」と言って、自分の部屋に行った。森次郎がネイサンを見送り、寮に戻ろうとすると、メグが引き止めた。彼女は、森次郎をソファに座るように言った。

メグは、森次郎にネイサンの検査結果を説明した。ネイサンの腫瘍は、大きくなっていないが、手術をするには難しいところにある。ネイサンは、長くてあと一年生きられればいいとのことらしい。森次郎は涙を流しながら「それじゃあ、モントレーの医者の言っていることと何も変わらないじゃないか」と訴えた。メグは「ドクター・マッケンジーは、治療法をいろいろ検討してくれたらしいわ。私は、ドクターに感謝しているの。ネイサンも分かってくれたし」と言った。森次郎は「ネイサンはもう検査結果を知っているの?」とメグに尋ねた。彼女は「ええ、帰ってきたらすぐに説明したわ」と答えた。森次郎は、信じられなかった。ネイサンは、死の宣告を受けても、笑顔でメグの料理を手伝っていた。スクラブルをしている時も、笑顔を絶やさず普通にしていたのだ。森次郎は、声を出して泣いた。ネイサン、あの小さな、まだ九才半のネイサンが、自分の死と向かい合いながら、あんなに気丈に振舞っている。メグは、涙を浮かべているが、泣いてはいなかった。「ドクター・マッケンジーに言われたの。お母さんがいつも泣いていると、ネイサンはどう思うかな。ネイサンは、大好きな母親を泣かすなんて、自分は何と親不孝な子供だと思わないだろうか。ネイサンのためにも、もっと強く気持ちを持って、笑顔を絶やさないようにした方が良いとアドバイスしてくれた」とメグは言った。「だから、モリも今までどおり、あの子に接して欲しいの」と続けた。森次郎は、涙を拭きながら「分かった。でも今夜は泣かせて」と言うと、メグを抱き締めた。






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