天国から来た大投手 四、佐々木裕香 32 | 六月の虫のブログ

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 『ニュース二二』のディレクターは森次郎の発言に番組としての手応えを感じた。彼は裕香に「吉野が活躍して、早慶高校が甲子園に出場したら、番組としたら最高だよ。彼が大リーグ級の選手ならなおさらだ。明後日の試合で、それがある程度わかるだろう。うちの元プロ野球選手の解説者も同行させるつもりだ」と言った。裕香も森次郎との出会いは、大きな意味があるように感じていた。彼女は森次郎に、事故で失ったフィアンセ、浩輔を感じていた。
 森次郎は浩輔に「キャスターの佐々木さんて、美人ですね」と言って微笑みかけた。浩輔は「そうだね」と素っ気ない返事を返した。浩輔はジミーに裕香とのことなど余計なことを森次郎に言わないよう釘をさされていた。森次郎は「大人の女性って、やっぱりいいすね。明後日の試合で活躍して、佐々木さんに認めてもらいたいな」と呟いた。浩輔は聞こえなかった振りをして、明後日の試合についての注意事項をアドバイスした。「横浜高校は、アメフトでいう関立高校と思えばいい」、横浜高校は今まで対戦した高校とはレベルが違うということを、肝に銘じるよう森次郎に言った。
 試合の前日、先発予定の森次郎は練習を軽めに済ませると、弘子と帰途に着いた。森次郎の弘子に話す話題は佐々木裕香に集中した。最寄りのマクドナルドで、バーガーを食べている最中も、森次郎は裕香との再会をいかに楽しみにしているかなど、話すことは裕香のことばかりだ。最初は大人しく聞いていた弘子だが、森次郎の無神経さにぶち切れた。「何よ、佐々木、佐々木って。彼女は森次郎なんて眼中にないわよ。今日はもう帰る。明日、駅に九時ね」と言うと怒って、一人でマクドナルドを出て行った。森次郎もあんなにヒステリックな弘子を見たのは初めてだった。浩輔は森次郎が一人になっても、彼に声を掛けなかった。
 浩輔は少し不安になった。彼はジミーに森次郎が裕香のことを好きになったらどうしようと呟いた。ジミーは、「将来のことはゲートマスターのトーマス様やサプリームマスターにも分からない」と言った。浩輔は「神様は何でもご存知だ」と思っていた。ジミーは「我々は未来を予測できないが、未来をより良い方向に変えるお手伝いはできる。現に今、モリを幸せにしようとしているじゃないの」と言い、「浩輔、君の夢がモリを通して叶えば、モリもそれに他の多くの人たちも幸せになると思うから、君に下界で手助けするように時間を与えているのだよ。ただ、モリたちが幸せになるかどうかは、結局モリ次第だけどね」と続けた。


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