天国から来た大投手 四、佐々木裕香 30 | 六月の虫のブログ

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 いよいよ夏の甲子園を目指した野球のシーズンが始まる。対外試合第一戦は、厚木高校だ。早慶高校のグランドで行われる第一戦の先発に指名されたのは、沢口だった。池崎は、最初の五イニングは沢口に投げさせ、残り四回を森次郎が投げることになっていた。沢口も池崎が指示したウエートトレーニングで身体が一回り大きくなっていた。球速も速くなり、もともとコントロールが良い沢口の球を、厚木高校の選手たちもそう打てないだろう。森次郎は四番でライトを守ることになった。キャッチャーは克也だ。
 「プレイボール」、主審が大きな声で宣言した。森次郎は非常に緊張していた。野球の試合に出るのは中学校以来初めてだ。沢口は慣れているせいか、落ち着いている。一回を三者凡退で切り抜けた。一回裏、早慶高校の攻撃は、一番、二番打者が凡退した。三番は、克也だ。克也は初球を打って二塁打。克也は森次郎の球を捕るための特訓で、百五十キロの速球に対応できるようになっていた。克也の動体視力は、相当向上したに違いない。いよいよ四番、森次郎の出番だ。打撃に自信がある森次郎は、ほど良い緊張感の中、打席に立った。森次郎も初球をいきなり打った。打球は打った瞬間それとわかるホームランだった。浩輔と出会ってからよく見るようになった衛星放送の大リーグ中継で見る大リーガーのように、森次郎はガッツポーズもせず淡々とベースを回った。次の打席でもホームラン、三回目もホームランと森次郎のバットは絶好調だ。守備はあまりパッとしなかった。右打者が沢口の速球に振り遅れたライトフライを二塁打にしてしまった。球が思ったより右に切れたためだった。沢口は後続を打ち取り、森次郎のミスは得点に結びつかずにすんだ。沢口が投げる予定の最後の五回、厚木高校の先頭打者を三振に打ち取った後、二番目の打者が三本目のヒットを打った。ワンアウト、ランナー一塁、三番目のバッターがライト前にヒットを打った。森次郎は二塁を回って三塁を狙った一塁ランナーを余裕でアウトにした。森次郎はゴロを捕ると、すかさず三塁に送球、ボールは低い弾道でダイレクトに三塁手のグラブに納まった。ランナーは、スライディングするまでもなくベースの2メートル手前でタッチアウトになった。沢口はアウトを確認すると森次郎の方を見て、右手とグラブで拍手した。また、二塁を狙った打者ランナーも二塁でアウトになった。沢口は自分の責任回数を無失点で切り抜けた。いよいよ森次郎の出番だ。


           イチローのレーザービーム(フリー画像より)