十六歳のアメリカ ベースボール 三一、シーズン開幕 113 | 六月の虫のブログ

六月の虫のブログ

ブログの説明を入力します。

 ハーシャー高校と対戦する土曜日がやってきた。試合開始は午後二時で、試合の一時間前にグランド集合することになっていた。ボクは、午前十一時に早めのランチを食べると、ユニフォームに着替えてブライアン・ジョンソンとゲイリー・バーの迎えを待った。カーシャウ夫妻は、試合開始の午後二時には間に合うように、グランドに行くとのことだった。十二時半を少し回った頃、ドライブウエイからクラクションの音が聞こえた。ボクが荷物を持って立ち上がり、外に出た。カーシャウ夫妻はボクを外まで見送ってくれ、ボクが車のドアの取手を握ったところで、ボクに「グッド・ラック!」と声を掛けてくれた。

 ブライアンたちは、ボクに特に意識させないためなのか、車の中でも登板の話しをしなかった。グランドに着くと、ランニングやストレッチで身体をほぐし、早速ブルペンでゲイリーを相手にピッチング練習を開始した。ここから、プレーボールまで練習に集中し、相手チームが到着したことにも気付かなかった。試合開始前、みんなを集めて例のごとく特別なルールの説明を行った。ボクが気を付ける事項は、イニング毎の投球練習の回数だけで、特に他にはなかった。みんなが集合した時、ハーシャー高校チームのプレーヤーの一人が、ボクの名前を呼んだ。ボクが声のした方向を見ると、プレーヤーの一人が帽子を取って、微笑んだ。声の主は、ボクがSAAダンス・パーティーに連れて行ったデビ・リンレーのボーイフレンドのブライアンだった。彼もまた、フットボール、バスケットボール、そしてベースボールをこなす、スポーツマンだった。ダンスの夜、ピザ・ハウスで彼と雑談した時、彼もベースボールをすると聞かされていたが、彼が声を掛けてくれるまで、そのことを完全に忘れていた。ブリーチャーズには、カーシャウ夫妻やデイヴ、ボブ、リックやアルが座っているのが見えたが、デビの姿は見当たらなかった。ボクはブライアンと握手をして、お互いの健闘を誓い合うと、ベンチに戻りスパイクの紐を結び直して、グラブとロージンバッグを持ってマウンドに向かった。

 体調もほぼ絶好調で、マウンドに上がっても、不思議に落ち着いていた。この落ち着きは、自信からきているものではなかった。まあ、なんとかなるだろうという気楽な気持ちでいただけで、技術的な裏付けはなかった。ボクが規定の三球を投げ終わると、相手チームの一番バッターが打席に入り、審判がプレーボールを宣言し、試合開始となる。ボクは、マウンドに立っている喜びと、ブリーチャーズでゲームを観戦している人々に注目されていると思うと、興奮で鳥肌が立った。この記念すべき第一球目、ゲイリーのサインはファスト・ボール。望むところだ。ボクは、ゆっくり振りかぶると、ゲイリーのミット目掛けて投げ込んだ。「ストライク!」。審判の右手が上がった。球も走っている。体調と同様、ピッチングも絶好調だ。バッターは二球目のカーブを見逃した後、カウント、ワン・ワンからファスト・ボールを打って、平凡なショートゴロでワン・アウト。二番バッターも内野ゴロに打ち取り、ツー・アウト。順調な滑り出しだ。



              フリー画像より