十六歳のアメリカ 英語が空を飛ぶ 8 | 六月の虫のブログ

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 ボクは靴を履いたまま家の中に入った。これは、生まれて初めての体験だった。床には分厚いじゅうたんが敷き詰められている。掃除機で掃除するのも大変だろうと思えるくらい毛の長いじゅうたんだ。アメリカの掃除機は巨大で、吸い口が日本の三倍以上あるし吸引力もありそうだ。とにかくアメリカのものは掃除機だろうが洗濯機だろうがソファだろうが、なんでもデカかった。

ボクは畳三十帖ほどもあるリビングルームに通され、アイスティーと自家製クッキーをいただいた。しばらくすると、六〇才前後の夫婦らしきカップルが席を立った。玄関までみんなで送り、彼らの車が走り去るまで見届けた。スチュワート夫人がスーツを着ているボクに服を着替えてくることを勧めたので、チャックに部屋まで案内してもらった。部屋は二階にある大きな部屋で、ベッド、チェストと机が二つずつ置いてあった。チャックと一緒の部屋らしい。チャックは、どれとどれがボクの使うものかを教えると部屋を出た。

 服を着替えたのは良いが、履き替える靴がない。しかし、幸運な事にスーツケースの中にスリッパが入っていたのでそれを履くことにした。スリッパを履いてみんなのいるリビングルームへ降りていった。まず、アンがボクの足元を見て、「ナイス・シューズ!」と叫んだ。すると当然、みんなの視線はボクのスリッパに集中した。ボクは何とか運動靴を忘れたことをみんなに説明した。彼らには、スリッパが珍しいらしく、スリッパという単語を知らないのかボクのスリッパを「シューズ」と呼び続けた。

 翌日、歯ブラシなどの日用雑貨を買いにスチュワート夫人と街に車で出掛けた時も、スリッパを履いて行った。街の人達には東洋人が珍しいらしく、まず顔を見る。そして、スリッパを履いていると、どうしても足をすり気味に歩くので、次にボクの足元に目がいく。これが日本だと笑われることは間違いないし、恥ずかしくてできないが、ここアメリカだと平気なのが不思議だ。スチュワート夫人は、ボクを店の人、一人ひとりに紹介した。ボクはそのひとりひとりと握手した。何という気さくな人達だろう、みんな笑顔で挨拶してくれる。みんないい人たちばかりだ。スリッパで街に出て、ようやくアメリカにいることを実感したボクだった。


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          カンカキーのダウンタウン(自作の絵)