トムの話 [下] | 六月の虫のブログ

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親戚が飼っていた柴犬の雑種犬、トム。アメリカから一時帰国していた私は、トムが姿を見せないので、心配していました。


当時、1970年代、田舎では犬を放し飼いにしている人が多かった。トムも鑑札付きの首輪をしていたので、飼い犬だということはすぐに判ります。トムは昼間は外で自由に遊び回って、夕方うちに寄って鶏の骨を食べてから親戚の家に戻っていました。


トムは絶対に人は噛まないし、知らない人に近寄って行くこともなく、ほとんど吠えることはありませんでした。おとなしくて、とにかく賢い犬でした。


親父はなぜトムがもう来ないのか、私に説明してくれました。


「お前がアメリカに行ってまもなくのことだったと思う。野良犬が多くなって、保健所が野良犬の捕獲に力を入れ始めていたのは知っているだろう。野良犬や放し飼いにされている犬を見かけたら、保健所に電話する人がいるんだよ。ある日、トムも保健所に捕まったんだよ」。


私はそう言う親父に「でも、トムは首輪を付けているから、飼い犬だってすぐ判るでしょう」と訊いた。


「そうなんだ。保健所はすぐに親戚の家に電話したらしいんだ。すぐに保健所に迎えに来るようにね。でも、親戚はトムはもう年だから処分するように保健所に頼んだんだよ。だから、もう、トムはうちには来ない」。


私の横にいたおばあちゃんは、涙を浮かべて落ち込む私を見ていました。


先日、この話を二人の娘にしました。


6歳の娘は「えっ、トムって殺されたってこと?」と私に尋ねました。私がうなずくと、娘は私のひざに乗って抱きついて号泣しました。


10歳の娘も涙を浮かべながら、もし、犬を飼ったら”トム”って名前にすると言いました。