天国から来た大投手 Vol.57 | 六月の虫のブログ

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第二部 吉野 森次郎


四、佐々木裕香 (つづき)


 土曜日の朝、浩輔が現れると、森次郎は不安な気持ちを打ち明けた。昨日までは楽しみにしていた試合だが、当日になると心配事が湧き出てくるものだ。森次郎は、今まで一時間以上マウンドにいたことがない。つまり、森次郎は浩輔抜きで、試合で投げたことがないのだ。森次郎は自分の力を試せることに期待もあるが、不安の方が大きくなっていた。浩輔は、森次郎のムービングファストボールとサークルチェンジで、高校生レベルは完全に抑えられると思っていた。二人とも夏の甲子園予選までには、カットボールとスライダーにも目処を立てたかった。森次郎も試合でカットボールとスライダーを試してみたかった。それが不安のもとだった。

 試合が始まると、森次郎は開き直り試合に集中した。先攻の早慶高校、先頭バッターは四球で出ると、二番打者のセカンドゴロで二塁まで進んだ。三番の克也は痛烈な打球をレフト前に放った。これでワンアウト、ランナー一塁、三塁。森次郎は大きく深呼吸すると、二人のランナーと相手の守備位置を確認して打席に立った。森次郎はとりあえず外野フライ狙いで、一点を取りたいと思っていた。森次郎は、相手ピッチャーの初球を叩くと打球は軽くフェンスを越えた。スリーランホームラン。早慶高校は、早くも三点を先制した。森次郎の集中力に、浩輔はあらためて感心した。

 初回の早慶高校の攻撃が終わると、浩輔は森次郎に乗り移った。浩輔のピッチングは、格の違いを見せつけ六回まで十八人のバッターを抑えた。パーフェクトピッチングだ。浩輔が乗り移ってからもう一時間が経つので、次の七回からピッチャー森次郎のデビューとなる。バッター森次郎は、絶好調で三安打五打点と大活躍だ。試合は一方的に十一対ゼロで早慶高校がリードしているが、練習試合なのでコールドゲームはない。浩輔は「フォースが守ってくれますように」と森次郎に言うと、彼から離れた。


 つづく・・・



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