十六歳のアメリカ Vol.124 | 六月の虫のブログ

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ベースボール


三〇、練習試合 (つづき)


 そして、ミスターはいろいろ試すと言った言葉どおり、ノーアウト一塁、三塁のこの場面で、「ボーク・スチール」のサインを出した。完全に押せ押せの場面だ。(ピッチャーの)ドローベックは相変わらずランナーに気を配っていない。私はドローベックがセット・ポジションに入ると、コーチのサインどおり一塁を飛び出した。私は二塁ベースの手前で、走るスピードを落としてドローベックを見たが、彼は二塁にボールを投げようとしていない。私は仕方なく、二塁ベースを踏んだ。私は二塁上からミスターを見たが、彼は手を叩いているものの顔は笑っていなかった。ミスターのやりたかった「ボーク・スチール」は、成功しなかった。この後、ノーアウト二塁、三塁のチャンスは続いたが、結局追加点は奪えなかった。

 ベンチに帰ると、チームメイトたちは二点打を放った私を祝福してくれた。あの二塁への盗塁も、チームメイトたちには「うまい走塁」に見えたのかもしれない。みんなが次のイニングの守りに散った後、ミスターは私を呼んだ。ノーアウト一塁、三塁のあの場面、一塁ランナーは一、二塁間で挟まれなければならない。したがって、一塁と二塁の間で止まって、相手ピッチャーにボールを二塁に投げさせるのが私の役目だった。私が一、二塁間で挟まれている間に、三塁ランナーがホームを突くのが「ボーク・スチール」だ。私はミスターにそう注意された。私も「ボーク・スチール」の意味は承知していたが、あの場面ではつい興奮して冷静さを失ってしまい、それに気がついて走るスピードを落としたときには、二塁ベースの二メートル手前にいた。ここからは一塁の方へ引き返せないと思ったので、そのまま二塁ベースへ歩いてしまったのだ。

 ミスターには、まずい走塁で注意されたが、チームメイトたちの私に対する評価は上がっていた。彼らが噂したのか、授業の前などに「エースの登場だ」などと普通の生徒から冷やかされた。私自身も、もしあの後、走塁についてミスターに注意されていなかったら、完全に有頂天になっていたに違いない。


 つづく・・・



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 プロ野球では、滅多に使われることのない作戦だが、高校レベルでは効果的かもしれない。



注意: 『十六歳のアメリカ』は、私の体験を基に書いていますが、フィクションです。