ベースボール
三〇、練習試合 (つづき)
ミスターZは、ボールから目を離すなと私に指示した。紅白戦やシート・バッティングでは木製のバットを使用していたが、そのときは金属バットを選んだ。当時、日本の高校ではまだ木製のバットを使用していた。しかし、ジョン・ドローベックの球を木製のバットで前に飛ばすことは、非力な私には無理だと思った。私は躊躇なく金属バットをつかみ、グリップに滑り止めを塗った。
打席に向かいながら、とにかく三振だけはまずいと思った。私はバッター・ボックスに入ると、深呼吸をしてピッチャーのジョン・ドローベックを睨んだ。そして、できるだけホームベースに近いところに立って、打つ構えに入った。ドローベックは、セット・ポジションから一球目を投げた。彼のファスト・ボールは、高めに外れてボール。思ったより速い。そこで私は、バットを少し短めに持ち替えた。ドローベックは牽制もしないし、ランナーをあんまり見ていないようだ。彼も私と同様、調整中だと思ったし、押し出しだけは避けたいと思うだろうから、私は二球目もファスト・ボールに違いないと思って、投球を待った。ドローベックが投げたボールは、まるで定規で線を引いたように真っ直ぐストライク・ゾーンの真ん中に下りてきた。彼のボールは、地面とほぼ平行に飛んでくる体育館にあるバッティング・マシンのボールと違い、上から落ちてくる感じがした。彼の身長が約二メートルで、腕を上に伸ばすと三メートル弱、そしてマウンドの高さを加えると三メートル以上の高さになる。
私は彼の投げたボールにバットを当てることだけを念じて、バットを振った。彼のボールは予想以上に速くて重かった。しかし、私のバットは彼の球威に押されながらも、ボールをライト前に弾き返した。三塁と二塁にいたランナーはホームインし、一塁にいたランナーもスタート良く三塁まで達した。私は一塁上で、ベンチを見た。ベンチのみんなは大喜びだ。次に私は、三塁のコーチャーズ・ボックスにいたミスターZを見た。ミスターZも微笑みながら、拍手をしてくれている。
つづく・・・
三塁のコーチャーズ・ボックスに立つミスターZ。ベースボール・チームにおいて、彼の存在は絶対だ。彼の指示通りにすれば、勝てるとチームのみんなが思うようになったとき、チームは強くなり勝ち始めるのだが・・・。
注意: 『十六歳のアメリカ』は、私の体験を基に書いていますが、フィクションです。