乳がん 早期発見で元気になれる…和歌山の取り組み

 10月は、乳がんの早期発見や早期治療を促す「乳がん月間」。女性が最もなりやすいがんで、16人に1人が発症するとされる。

 和歌山県内の現状や患者、専門家の声、啓発の取り組みなどを紹介する。

 ■検診大切娘に伝えたい

 「自分は大丈夫」と思っていませんか。乳がんを発症した県内の女性2人が、自らの経験を語った。

 福祉関係の仕事に従事する女性(44)は、40歳で受けた検診では異常はなかったが、42歳の時、右胸にがんが見つかった。明るい性格で、職業上、がんに関する基本的な知識もあったものの、「死んでしまうのではないか」と不安で涙が止まらなかった。ショックで乳房再建まで考えが及ばず、「温泉に行けなくなる」とすぐに家族旅行を計画。温泉でも涙があふれてきた。

 発見から1か月後に手術を受け、乳房を自家再建した。「見るのは怖いという気持ちが強かったが、思った以上にきれいで、喪失感はそこまで抱かなかった」と振り返る。7か月間療養した後に職場に復帰した。

 抗がん剤治療を受けるなどしており、体力に不安を抱えていたが、職場には乳がんを経験した先輩もおり、周囲の理解と協力を得られたという。現在は2か月に1度通院しながらフルタイムで働く。

 左胸もがんになるかもしれないという不安はぬぐえないが、「早期発見でこんなに元気になれることを証明したい」と仕事に励む。

 小学生の長女には、余計な心配をかけまいとこれまで黙っていたが、いずれは伝えようと思っている。「同じ女性として、検診をきちんと受ける必要があることを伝えたい」と力強く話す。

 がん患者の不安や悩みに耳を傾けるピアサポート(仲間による支援)のボランティア活動に取り組む主婦(46)は2006年、検診で右胸にがんが見つかった。

 医師のあまりに他人事のような告知と、専門用語を多用した治療の説明に「頭がついていかなかった」という。生活は一変。悩みを打ち明けようにも、乳房を全摘出しなければならない喪失感は想像以上で、「(乳房を)とったの?」という何気ない質問に傷つけられた。

 不安でいっぱいだったが、セカンドオピニオン(別の医師の意見)を求めて受診した病院で、患者会の貼り紙を目にし、すがる思いで電話をかけた。

 会で出会った先輩の患者たちに乳房再建の方法を相談すると、自分の手術痕を見せながら体験談を聞かせてくれた。手術後も、下着のサイズが合わなくなるといった日常生活の悩みに丁寧に答えてくれた。次第に前向きな気持ちになり、日常生活が安定して、ボランティアを始めた。

 発症から8年目。「一生付き合っていかないといけないですが、がんを受け入れ、生き生きと生きる先輩のように、同じ悩みをもつ人の役に立てればうれしい」と話す。

 ■患者会で不安解消を

 医療法人南労会紀和病院(橋本市)の乳がん専門診療科「紀和ブレスト(乳腺)センター」の梅村定司センター長(47)に、原因や治療法について尋ねた。

 毎年5万人以上の女性が乳がんになっているとされ、罹患(りかん)者数、死者数とも増加傾向です。40~50歳代が発症のピークですが、20歳代や60歳以上でも罹患します。

 発症に関わっているとされるのが「エストロゲン」という女性ホルモンです。初経年齢が早い人や閉経年齢が遅い人、出産経験が無い人などは発症しやすいとされます。高脂肪な食事や習慣的な飲酒も要因の一つと考えられます。

 主な治療は、乳房の一部を切除する「乳房温存手術」と、全部を切除する「乳房切除術」です。全部を切除した場合、希望者は乳房再建術を受けます。腹部や背中の筋肉や脂肪を移植する「自家再建」と、シリコーン製の人工物を使う再建があります。

 他のがんに比べ、手術後かなりの年月が経過してからも再発するため、10年間は要注意。通院し、異常がないかチェックすることが大切です。

 がんと長い付き合いになるので、治療のパートナーとなる医師選びは非常に重要です。医師の説明に納得できない場合は、積極的にセカンドオピニオン(別の医師の意見)を聞く機会などを活用すべきです。患者会などに参加し、不安を解消して情報交換することもお勧めします。

 「忙しい」などの理由で検診に行かない方が多いようです。だが、しこりが自分で発見できる2センチ程度まで大きくなっていると、他の臓器に転移が疑われる時期にさしかかっていると言えます。発見が遅れるほど、体への負担は大きく、治療のために疲弊してしまう場合があります。異常がないと思っても、この機会に検診を受けて下さい。(落合宏美、梨木美花)

(2013年10月28日 読売新聞)


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