『ぬおおお~~っ!!!!』
由紀ちゃんと京ちゃんが水飲み鳥の様にウトウトしている時、激しい崩壊音と共に決まって外れるオンボロシート。
こうなるともう狙ってるとしか思えんな、どっかにスイッチでも取り付けてんのか、ええっ?ポンコツ車掌。
『ブハッハッハッハッハッハッハッハッ!!あるある、オレも今まで何回もそんな目に遭ったよ。ウハッハッハッハッハッ!!』
『笑えへんってコレ、ああ~もう3回目やんかこれで~。何とかならへんのやろか?』
何とかしようとしても、何ともならへんのがタイの三等列車である。
タイ国鉄が使用している車両というのは、そのほとんどが日本国鉄時代に使っていた古い車両、要するにお下がりを使用しているのだが、その車両というのが昭和30年代や40年代に造られた物ばかりで、とにかくボロい。ボロいと言うよりゴミだ。
鉄道オタクからすれば垂涎の乗り物かもしれないが、そうじゃない者からすればとにかく不快なだけの代物である。

無造作に積まれた花々。夢も希望も無い。
『あ、ほら京ちゃん。そこに山積みしてある花って、よく車のバックミラーなんかにお守りとして飾ってあるヤツを見るやろ?あれに使うヤツだわ』
オレ達が座っている席の隣に山積みされた無数の花。
こんなクソ暑い中の長時間移動でよく萎れないもんだと感心させられるが、日本と違ってタイは花まで強いのだろうか?
『おっ、一番上のヤツは蘭やないか。ウハハハ!こんなとこに新聞紙で巻かれて置いてある様なヤツが機内のお土産って知ったら、耳に飾ったりしてる姉ちゃん達もドン引きするやろうなぁ♪』
関空から出る便ではすっかり見掛けなくなったが、成田発のタイ航空なんかでは今もあるらしい機内で配られる蘭の花。
その可愛いらしさに記念に取っておく人も多いのだが、それが元々はこんな小汚い扱われ方をしていると知ったら誰も有り難がらないだろう。
スマン、ばらしてもうた。
ガタンッ!
『ああ~もう!またやんかあああっ!!』
『ウハッハッハッハッハッ!!災難やなぁホンマに。ウハハハハハハ!』
目の前で繰り広げられる他人の不幸に爆笑するオレ。
が、そのツケはカンボジアの安宿にてキッチリ返って来る事になる。
『よ~っしゃ!ついに着いたぞ、アランヤプラテート!』
『ふあ~~っ、やっと着いたかぁ…』
『…ぃしょっと。ふう…意外とピッタリで着きましたね、7時間は覚悟してたんですけど』
『わーい♪着いた着いた~♪』

やっとの思いで到着したアランヤプラテート。
日本を発ってから12時間が経過中。
予定時刻通りの到着に、やや呆気に取られるキャプテン婚活。
そりゃそうだ。以前、オレと京ちゃんは2時間で移動出来るロッブリー~アユタヤー間を、8時間以上も掛けた苦い思い出がある。
それもこれも全てタイ国鉄といういい加減な組織のせいなのだが、今回は空港からここに到るまで万事順調なのだ。
これはおかしい、何か絶対にしっぺ返しが待っているはずだ。
『パイナイパイナイ?(どこへ行く?)』
アランヤプラテートのプラットホームで一服していると、「今しかない!」とばかりに声を掛けて来るトゥクトゥクの客引き。
ま、一日に二本しか無いバンコクからの列車だ。これを逃すと、次は夜到着の列車しか観光客を乗せて来ないのだから、実質的には今しか稼ぐ手段が無いとも言える。
そう考えると、タイの田舎というのは本当に仕事に困る場所である。
『国境』
『4人だな、200バーツでどうだ?』
『アホか』
『じゃあ180バーツ!』
『ふざけんな、行こ』
絵に描いた様なぼったくりオヤジを無視して駅を出る。
と、そこにはやはり当然の如く同じ様な連中がウヨウヨしているのだが、何と言うかこう…アユタヤーなんかと違い、客引きにもクドさが無いと言うか、とにかく交渉が軽すぎて肩透かしを喰らったような気分になるのだ。
(来るならもっとガツガツ来んかいっ!)
カンカン照りの太陽の下、トゥクトゥクの交渉ごときでいつまでも時間を無駄にするつもりは無い。
が、そこを折れてまで利用するほど寛容なオレでも無い。
駅から国境までの距離はトゥクトゥクで約10分。歩けん事も無いと感じるかもしれんが、普通の人なら確実に熱中症になるだろう。
『80バーツ!80バーツで行くからっ!』
駅を出た時からやんわりと尾けて来ていたオッサン。
よほど客が無いのだろう、4人で80バーツは悪くない。
『嫌だ』
『いくらならいいんだ?』
『60』
『んな無茶な!ガソリンだって値上がりしてるんだぞ!』
『それじゃあサイナラ』
オッサンを無視して、国道を走るトゥクトゥクをつかまえようとするオレ。
が、こんな田舎では流しのトゥクトゥクなんてそう滅多には走ってないらしい。
『分かった!じゃあこうしよう。60バーツでいいから10バーツはチップとして俺にくれ!な?いいだろ?頼むよ!』
『ウハッハッハッハッハッ!何じゃそりゃ!?まあいいか、その返しはなかなか笑えるな』

田舎のトゥクトゥクというのは割かし座席が広く見える。
が、乗ってみればこの有様。
基本的にオレはコイツらの事が大っ嫌いだが、こういう面白くも正直なヤツというのは大好きだ。
「チップとして10バーツ…」
別にチップだろうがそうじゃなかろうが一緒なのだが、こんなアホみたいな返しを思い付くヤツに根っからの悪人はいない。
『さ~て!いよいよ本日のメインイベント、歩いて国境越えやな』
『わ~い!めっちゃ楽しみ~♪』
何もかもが順調だった。
ここまでは。

タイ側から望むカンボジア国境。
ゲートがアンコールワットを模してあるが、要するにそれ以外売る物が無い。























