「本日はおめでとうございます」

「ご招待頂きありがとうございます」


何度も繰り返される挨拶にも飽きてきた智は
ぐったりと休憩所のベンチに座り込む

缶コーヒーを片手にネクタイを緩め、着慣れないスーツに嫌気がさす


数年ぶりに国内で開催された智の個展は
親交のある人、新たなるファンの人、たくさんの来場に感謝はするものの、畏まった場が苦手な智には嬉しい気持ちと面倒臭い気持ちが半々だ



「あー、やっぱり頼めば良かったなぁ…」


個展の開催中はなかなか会場を離れる事が出来ない智の為に、いつも潤が愛情を込めてお弁当を持たせてくれる

美味しい潤のお弁当が唯一の癒しと言っても過言ではない

今回もそのつもりでいたのだが、数日前から体調を崩して寝込んでいた潤にお願いするのは無理な話で、どうにか適当に済まそうと思った

そういう時に限って、なかなか会場から離れるタイミングが掴めず、ズルズルと空腹と疲労が重なり更に潤の手料理が恋しくなる


「智さーん、お客様ですよー」

遠くから受付のおばちゃんに呼ばれ、残った缶コーヒーをグッと飲み干し重い腰をあげた智

とぼとぼと歩く更に猫背に拍車がかかった後ろ姿は哀愁が漂う


会場に辿り着き自動ドアを潜ると見慣れた姿


「智っ!」


そこにはさっきまで思っていた弟がお弁当片手に待っていたのだ


「じゅ~~~~ん」


「ごめんっ、遅くなって」


自分より背の高い弟に駆け寄り抱き着く

「体調大丈夫なのか?」

「大丈夫!この日の為にしっかり休んだんだからっ」

「じゅ~~~~~ん」




愛情弁当に癒され、弟の気遣いに幸せな気持ちになった智の個展は大好評で幕を閉じた