第34話
常盤靖子からの告白は、私に衝撃を与えた。
常盤靖子の話しによると、松村のお母さんは事故でも自殺でもなく、殺されたことになる。
それも真犯人は息子である松村だ。
松村は本当に母親を殺したのだろうか。
私は頭を振った。
あの松村がそんなことをするはずがない。
信じたくなかった。
いや、私は信じない。
常盤靖子は「助けて」と、私にすがってきた。
浅井刑事に、松村が母親の背中を押したことを言ってしまいそうだと。
浅井刑事は常盤靖子にあの日の朝、
松村と一緒にいたことを、突き止め
、常盤靖子にどのように松村の母親が落ちていったのか、聞いたらしい。
どうやって、浅井刑事はそんなことを調べたのだろう。
父がよく言っていた、刑事の勘というものか。
父に相談したい気もしたが、管轄も違うし、私が関わろうとしていることを知ると、母がうるさい。
それもまた、めんどくさい気がした。
松村が母親の背中を押したとなると、松村は殺人罪で逮捕されるのだろうか。
でも、松村はどうして、母親を殺したのだろうか。
そんな恐ろしいことをあの松村は、本当にしたのだろうか。
今さらになって、私を頼ってきた常盤靖子。
常盤靖子が私にしたことを思い出すと許せるはずもなかった。
でも、頼ってきたのは松村についてのことだ。
私はうろたえていた。
私の初恋の人が殺人を起こしたなんて。
しかも、自分の母親を殺したなんて。
私は松村に会いたかった。
松村のあの綺麗な顔を見たかった。
百分率を教えてくれた松村。
比べられる量÷もとにする量=割合
松村がお母さんの背中を押したとすることを100としてもとにすると、
松村がそんなことをしないことを0として比べられたい。
だから、松村がお母さんを殺したのは0%。
意味のない馬鹿らしいことを考えて、頭の中のパニックを何とか収めようとした。
「くだらない」
微苦笑すると、西の窓の方に向かって、私は寝返りを打った。
夏の夜明けは早い。
西の窓からでも、白々と明るむのが分かった。
そういえば、宵の西の空のオリオン座を最後に見たのはいつだったろう
。
松村のお母さんが亡くなった日は、
すでに見えなくなっていたような気がする。
それっきり、オリオン座は夜空から
、姿を消してしまった。
冬の夜空でオリオン座を初めて認めたのは、松村を初恋の相手として意識したころだったろうか。
小学校6年の冬だったような気がする。
冬の夜空に君臨しているオリオン座が、巨人の漁師として神話に登場しているのを知った。
オリオン座の三つの星がベルトと見立てているとのことだったけれど、
私は上に大きく広げている2つの腕が、どうしてもイメージがつかめなくて、それがなければ、砂時計のようだと思った。
その三つの星が、7月の今ごろ、東の空に太陽より少し前に姿を見せて
いるはずだ。
そして、太陽が昇ると、三つの星はすっぽりと青空の中に姿を消してしまう。
松村のことを考えたくないという思いから、違うことを考えたりするのだが、すぐに疑念が私を襲った。
松村が階段の上からお母さんの背中を押したということは、お母さんを殺したかったのだろうか。
私は眠っていない頭のまま、学校へ行かなければならなかった。
昨日の常盤靖子の電話で、今日、学校で話す約束をしたからだった。
そして、立場が逆転したことを、クラスのみんなに知らしめてやりたかった。
杏に対しても、常盤靖子の弱さを見せつけて、けれど、私のところに簡単に戻って来させるものかという、私の意地が働いていた。
そして、吉永君のことを救いたい気持ちはあった。
少なくとも、吉永君は松村を信じてくれている一人だ。
太陽がすっかり明け離れた時、スマホの電話の呼び出しバイブ音が鳴った。
名前の表示を見て、私は心臓が飛び跳ねた。
松村からだった。
つづく
最後まで読んでいただき、感謝いたします。
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