第17話*小説『冬のカケラ』 | jun2980さんのブログ

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 何にでも興味をもっています。今、ミステリー小説の連載中です。また、韓国ドラマ、良い加減料理や難病の膠原病をテーマに写真なども載せながらつぶやいています。皆さんのペタやコメントが励みになります。どうぞよろしくお願い致します。



       第17話


僕は萌子さんのことを考えながら、眠ったふりをしているうちに本当に眠ったらしい。

「秀ちゃん、秀ちゃん、起きて」

誰かが揺すっていると思ったら、実亜だった。

呼ばれて、薄目を開けると、実亜の不服色に満ちた目があった。

「もう~。秀ちゃんってば」

ベッドの縁に腰掛けて、僕の腹を軽く叩いた

僕はその腕を掴むと、そのまま実亜を倒して、僕の腕の中に包んだ。

「起きてるよ」

「秀ちゃん、お風呂。朔ちゃんたちがあがったから、早く入ろうよ」

そう言って、僕の腕の中からすり抜けてベッドサイドに立った。

「今、何時?」

「4時ちょっと過ぎ。秀ちゃん、1時間眠ったのよ」

実亜の唇が尖る。

「ごめん。実亜は何していたの?」

そう言って、僕は起き上がった。

「下のリビングで、萌子さんと話してた」

屈託なく言う実亜に「そう」と軽く受け流した。

浴室は3畳ほどあったが、家庭風呂のような感じだった。


浴槽は一畳ほどあり、2人で入っても、広々としていた。

実亜は大はしゃぎだった。

「いいなあ。こんなお風呂。お家に付いていたら最高よね。毎日、温泉なんて夢だよね」

クロレラ温泉らしい。

お湯の色が濃い藻のような色をしている。

洗い場の蛇口からも、温泉の湯が出てくる。

実亜の身体はまだ若い。

でも、湿疹の後が色黒く身体全体に残っていた。

「ねえ。秀ちゃん、このシミ消えるかなあ」

不安そうに言う。

「時間がかかるけれど、消えるって医者が言ったんたから、大丈夫だよ」

当たり前の受け答えをしながら、実亜の背中にボディソープの泡をフカフカにして洗って流してやった。

萌子さんのいる空間で、夫婦になった実亜とこうして風呂に入っている


複雑だった。


約束通り、6時から食事会が始まった。

萌子さんのご主人の作った料理は完璧で、まるで、本格的なレストラン
の雰囲気を醸し出していた。

「ご主人、本当のコックさんみたい」

実亜と早苗さんがはやしたてた。

ご主人の仕事は普通の会社員と聞いている。

「萌子が病気になっちゃって、僕がやらざる得なくなってしまって」

そう言って、みんなのワイングラスに白ワインを注いでくれた。

「それにしてもすごいわ」

実亜と早苗さんが、異口同音で褒めている。

「秀、何か耳が痛いなあ」

朔が僕に同意を求めてくる。

僕は薄く笑った。

「さあ、いただきましょう」

ご主人がみんなを誘う。

「ワー!!みんなの出会いを祝してカンパーイ」

実亜の音頭につられて、みんながそれぞれグラスを傾け合った。

僕は萌子さんと目を合わせないようにして、グラスを軽く合わせるふりだけした。

「この、白老牛、美味しい!」

「ワインと合いますねえ」

みんな、楽しそうだ。

僕はせっかくのワインも白老牛のステーキもサラダもポタージュも、ただ、喉を通過させて胃袋に押し込んだだけで、味わうことなど出来なかった。

何で、僕は、萌子さんのご主人の手料理を、こうやって食べているんだ。

僕は可笑しくなって、声あげて笑った。

みんなも僕の笑いに違和感なく笑った。

萌子さんも笑っている。

どんな理由で笑おうと、この場は笑いが疑われない食事会だった。

後片付けは僕と朔が受け持った。

この旅行は、妻達に慰労の意を示して、夫達が働く流れになっていた。

萌子さんのご主人だけを働かす訳にはいかない。

そんな暗黙の了解が僕と朔の間で出来上がっていた。

「秀、もっと自然にやれよ」

朔が皿を洗剤で洗い、僕がお湯で洗剤を洗い落としていた。

「そんなこと言ったて、無理だよ」

僕は低く叫んだ。

「もう、諦めろ」

「分かってるさ」

そこに、実亜と早苗さんがやって来た。

「何、コソコソ話してるの」

実亜がわざとらしく咳払いして、僕に身体を押し付けてきた。

不意をつかれて、よろめいた僕は朔に慣性の法則のようによろめかしてしまった。

「助っ人登場~」実亜と早苗さんは大げさなリアクションをした。

2人は皿拭きと食器棚にしまうのを手伝いにきてくれたのだった。

対面式のキッチンから、萌子さん夫婦がソファーに並んで、何か語り合っているのが見えた。

「萌子さんとご主人、本当にお似合いの夫婦ね」

実亜が憧れの目をして言う。

「本当に微笑ましいわね」

早苗さんも反芻している。

僕は無言だった。

朔もおとなしかった。


後片付けも終わり、蜜柑をみんなで食べた。

普通はもっとアルコールを飲んだり
、タバコを吸ったり、夜はいつまでも続きそうなものなのに、何だか妙に地味だった。

一応、主宰者である萌子さんのご主人の意向なのだろう。

正直言って、ありがたかった。

萌子さんの蜜柑の皮でもさえ、ご主人が剥いてあげている。

実は僕はずうっと、萌子さんの手を見て見ぬふりをしていた。

萌子さんの手は、すでに、不自由になっていた。

膠原病の強皮症という病気が、萌子さんの手を不自由にしていたのだ。

「萌子さん、握力が全然ないの。だから、あたしが、ペットボトルの蓋を開けてあげていたの」

入院していた時の萌子さんの様子の話しを実亜から聞いていた。

指も曲がっていた。

その様相を鷲の手に似ているので、鷲手と言うそうだ。


10時で解散になった。

高校の修学旅行より早い。

萌子さん夫婦は、これから風呂に入ると言っていた。

僕達はそれぞれ、夫婦の部屋に戻った。

さっきまで、元気だった実亜は、はしゃぎ過ぎて疲れたのか、ベッドの端に座って、ぼーっとしていた。

「どうしたの?」

僕は実亜の隣りに座って覗き込んだ。

「ううん。別に」

頭を横に振ってから、

「来なきゃ良かった」

と、つぶやいた。

僕は実亜のこの言葉をもっと真剣に受け止めるべきだった。

僕もそう思っていたし、萌子さんのことが気になって、実亜の言葉に心非ずだった。

それが、僕達夫婦の人生が狂うことへのつぶやきだったとは、思いもしなかった。

          続く

最後まで、読んで下さりありがとうございます。

コメントをいただけたら嬉しいです

 
    
          愛川るな


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