第13話*小説『冬のカケラ』 | jun2980さんのブログ

jun2980さんのブログ

 何にでも興味をもっています。今、ミステリー小説の連載中です。また、韓国ドラマ、良い加減料理や難病の膠原病をテーマに写真なども載せながらつぶやいています。皆さんのペタやコメントが励みになります。どうぞよろしくお願い致します。

        第13話


バロンは焼酎を美味しく飲ませてくれるスナックバーだ。

南5条通りから、少し南へ行き、地下に続く階段を降りた。

朔が先にたち、ドアを開けた。

久しぶりだった。

一年ぶりぐらいだ。

ここはマスターの青春時代の思い出の曲、1970年代、1980年代のフォークやロックが流れている。

それは僕たちにとって青春の思い出の曲にも繋がる。

マスターが「お久しぶりです」と、親しみを込めて迎えてくれた。

カウンターの奥の席がちょうど空いていた。

僕と朔はそこへ落ち着いた。

その時、聞こえてきたメロディーに僕は少し戸惑った。


フェアリー ウウウゥゥ~
フェアリー ウウウゥゥ~

あの横顔が忘れられない


おしぼりを手にして、焼酎のロックを注文した朔が僕を見て言った。

「懐かしいなあ。甲斐バンドの『完全犯罪』だ」

「ああ、俺達が16、17のころに聞いたなあ」

僕と朔は懐かしむ目をした。

「甲斐さん、格好良かったよな。左利きでギター弾いていた」

僕は朔と共有出来る思い出の話しに心が緩んだ。

「萌子さん、秀をペテンにかけたんだろ」

朔は『完全犯罪』の詩の一部のようなことを口にした。

僕はカウンターに置かれた焼酎のグラスを持つと、一気に飲み干してしまった。

「そう、思うか」

僕は自虐的に朔に言って、焼酎のおかわりを注文した。

「愛して苦しいなら、止めろよ。秀には守らなきゃならない実亜ちゃんがいるだろ」

「分かっている」

ーー分かっているさ。だから、理性で抑えている。

「萌子さんだって、病気になっているのに、今さら…。ええと、何という病気だっけ?」

「膠原病の強皮症というらしい」

「どういう病気なんだ?難病らしいが」

「ネットで調べたけれど、俺もよく解らないんだ」

「難しいんだな。だから、難病か」

朔が薄く笑う。

「俺、天気のことは詳しいんだけどな。医学は解らんな」

「人間は髪の毛や爪以外は、全て細胞で出来ているだろう」

朔は「うん、うん」と、相づちを打っている。

「その細胞と細胞をのり付けしている結合組織内に膠原繊維というのがあって、それに異常が起きるのが膠原病というらしい」

「ふーん。よく分からんな」

「医者にも分からないから、国の特定疾患になっている」

僕は焼酎を煽った。

「なあ、秀。今さら、萌子さんと男と女の関係になっても仕方ないだろ


朔が窘めるように言う。

「そんなことは望んでいない」

それは偽ざる僕の気持ちだった。

「萌子さんは、秀にとって初めての女だものな。初めての女は忘れられないさ」

朔は心得顔でうなずく。

「だけど、ほんの瞬間の恋愛に惑わされているだけじゃないのか。思い入れだけの恋愛じゃないのか」

僕は黙って、5杯目の焼酎を煽った。

「それに…」

朔は少し言いよどんでから、言葉を繋げた。

「萌子さんのご主人、悪い人じゃないんだろ?」

「ああ、そうらしい。すごく優しい人で、萌子さんとはとても仲がいいって、実亜が言っていた」

僕はこの話しを実亜から聞いた時、
嫉妬のようなものに支配された。

そんな自分にうんざりしたのだった。

「萌子さんと実亜ちゃんが友達付き合いしたって、無視しろよ。お前には関係ないだろ。俺なんか、早苗の友達とは別に関係ないぞ」

「実亜に隠していることが苦しいんだ」

「隠し通せばいいじゃないか。過去のことだろ。秀に疚しさが無ければ
、気にすることないさ」

僕だって、頭では分かっている。

でも、簡単には割り切れない。

僕も他人のことだったら、おそらく朔のように言えるだろう。

「秀、自己陶酔じゃないのか」

「そうかもしれない」

すでに、7杯目のグラスを空けた。

でも酔えなかった。

「秀。俺、秀の抜け殻状態は、もう見たくないからな」

僕は何かモヤモヤしたものを抱えながらも微苦笑するしかなかった。


それから、一週間して実亜の退院が決まった。

退院の前日、一応一通りの検査を受けることになった。

プレドニンは魔法の薬だが、副作用も恐ろしい。

僕はまだ入院している萌子さんに話しをする最後のチャンスだと思った。

ほっとけばいいのかも知れない。

朔の言うように知らない振りをすればいいのだ。

それなのに僕は仕事を休んだ。

実亜が検査に行っている時間帯を聞いていた僕は、その時間帯に合わせて、実亜のいない部屋に入って行った。

萌子さんは起き上がって、本を読んでいた。

本から目を上げて僕を認めると、顔を綻ばせた。

僕は息を飲んだ。

そこに、萌子さんがいた。

20年前と変わらない萌子さんがいたのだ。

「秀治君、お久しぶり」

僕は呆然とした。

「可愛い奥さんをもらったのね」

萌子さんは僕に笑いかけている。

「…萌子さん」

僕の声は消え入りそうだった。

ーー僕は何を話したくてここへ来たんだ。

僕は強気に出た。

「実亜と関わらないでくれ」

冷たく言い放ったのだ。
そう言ってごまかさないと、僕の気持ちが再燃しそうだった。

「友達付き合いは止めてほしいんだ


萌子さんの顔から笑いが消えた。

そして、萌子さんの目が僕を捉えた。

「私も来週、退院なの」

「それで?」

僕は無関心を装った。

「みんなで遊びに行くのよ」

「みんな…?」

「秀治君夫婦と朔風さん夫婦。それに私達夫婦の6人とよ」

「…?」

僕は狐につままれたような気持ちになった。

僕の知らないところで、運命が狂わされていくのだった。


最後まで読んでいただき、ありがとうございます。

コメントをいただけたら嬉しいです。


          愛川るな


小説(ミステリー) ブログランキングへぽちっとしてくださいね。




アクーのお見合いパーティーでは、

「20代限定」「30代限定」「非喫煙者限定」など、

多数の企画をご用意



合コンならコンパde恋ぷらん