第12話*小説『冬のカケラ』 | jun2980さんのブログ

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       第12話 

「萌子さん、膠原病の何という病気なの?」

僕は実亜に訊ねた。

「…うーん。確か『強皮症』だったと思うな』

「強皮症…」

萌子さんの病気が現実のものとして
、僕に迫ってきた。

「なあに、秀ちゃん。萌子さんの病名なんか気にしちゃって」

上目使いで実亜は僕を見てくる。

「…いや、別に」

実亜はいたずらっぽい目をして笑う


「あまり、聞かない病気だから、気になっただけさ」

ただ、病気のことを訊いているだけなのに後ろめたさを感じる。

「巨人の終身監督の長嶋さんの奥さん、亜希子さんも膠原病だったんですってよ」

「へえ~、そうなんだあ?」

実亜は萌子さんからの情報を教えてくれているのだろう。

僕が病室に入ると、萌子さんはこの日も出て行った。

実亜は腫れも収まってきて、蕁麻疹の皮がボロボロと剥けていた。

僕は2日から仕事に出ていた。

新年も5日目だ。

この3日間、僕は実亜の見舞いに来ていなかった。

仕事が忙しかったこともある。

だが、僕は実亜を見舞うことに気が引けていた。

萌子さんと会うことをなるべく避けなければならないと、そう思ったのだ。

「今日これから、久しぶりに朔と飲むよ」

「朔ちゃんと?」

「うん。『実亜のお見舞いに早苗ちゃんも来たがっている』と、言っていたけれど、実亜が女心とて、象さんのような顔や体を見られるのを嫌がっているからと断ったよ」

「そうよ。嫌よ。こんな姿を見られるのは」

プウーとほっぺたを膨らませる。

「実亜はどんな風になっても、かわいいよ」

「うん。秀ちゃんにとってはね。知っているよ」

実亜は得意そうに胸を張る。

僕は実亜の鼻の頭を撫でてやった。


僕は病院から大通りに出て、地下街のポールタウンをすすきのに向かって歩いた。

あの日、20年前、喫茶店で萌子さんに口づけした後、僕たちはこのポールタウンを歩いた。

「札幌の地下街はつまらないわね」

萌子さんは独り言のようにつぶやいた。

「…つまらないって、どうして?」

僕は萌子さんの顔を覗き込んだ。

萌子さんは綺麗な二重の目で僕を捉える。

渋い紫色のコートが似合っていた。

「だって、直線だもの。しかも、正確に直交しているし」

「その方が、通行も便利だし、防災の点でも都合がいいって聞いたけれど」

「確かにそうだけど。直線の道には意外性がないじゃない」

「ん?」

僕は鈍感だったのかも知れない。

萌子さんが何を言っているのか、よく分からなかった。

萌子さんは僕を見上げると微笑んだ


「曲がった道だと、曲がった後に何があるのかという、未知への期待があるじゃない」

僕に同意を求めるかのように、萌子さんは僕を寂しそうに見つめた。

僕はその蠱惑さに息を飲むと思わず立ち止まった。

萌子さんは2、3歩進んでから振り向いた。

僕がカットした短い髪の萌子さんが
そこにいた。

額にかかっている前髪が少し乱れている。

近寄ると、僕は前髪を手の指を櫛変わりにして揃えてあげた。

萌子さんは僕のその手を両手で包むように取ると、

「秀治君、綺麗な手ね」

再び、萌子さんは深い瞳で僕を見つめた。

僕は愛おしい気持ちでいっぱいになった。

右手の人差し指で「この目が…」と、言いながら、萌子さんのまぶたを軽く抑えた。

「この目が僕を夢中にさせる」

そう言いたかったが、続きは告げられなかった。

告げてしまえば、僕は理性を失ってしまいそうだったからだ。

僕はやるせなかった。

萌子さんが人妻と知っても、どんどん惹かれていく。


朔とすすきの地下鉄駅で待ち合わせを6時にしていた。

5分前に着いたが、ラフィラの入口の壁にもたれて、人待ち顔の若者の群の中に朔がすでにいた。

端正な顔立ちが若者の群の中にいても、引けを取らなかった。

僕たちはお互いに軽く右手を挙げた。

近寄ってきた朔に僕は「待ったか?」。すると「いや、俺も今、来たばかりだ」と答えた。

僕は朔に「今日は焼酎をロックで飲みたい」と提案した。

「じゃあ、バロンに行こう」

ということになった。

僕たちは南5条通りの地上に出た。

すすきの繁華街は不思議なところで
、この盛り場は若者で行き交っている。

目新しいファッションに身体を包み闊歩している。

「寒いなあ」朔がコートの襟を立てて、身体を小さくした。

「今日から『寒の入り』だからな」

早速、朔の天気の話しが始まる。

僕は朔に萌子さんの話しをしようと思っていた。

1人で抱え込めなくなった僕は、昨日、朔に電話をして誘ったのだった。

昨日の電話で、簡単に朔に話してある。

朔はすかさず僕に釘を刺した。

「実亜ちゃんを絶対に傷つけるな」

しかし、そんな朔を巻き込んで、僕は実亜を傷つけてしまう。

           続く

最後まで読んでいただき、ありがとうございます。

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          愛川るな


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