第14話
何人かの親戚と美奈子の親友の宮下舞だけの出席で、通夜と葬儀が静かに執り行われた。
警察の見解で美奈子は事故死ということでは処理された。
しかし、美奈子の夫、松村伸輔の頭から、どうしても“自殺”という2
文字が離れなかった。
それは、親戚の者達も表だって言わないが思っていることだった。
伸輔は職場の病院関係者に知られることを一番恐れていた。
出世の道から外れたことへの失意が
、まだ、伸輔の心につきまとっている。
そこに、さらに妻が自殺したかもしれないと、いう好奇な目で見られることが、伸輔のプライドを傷付けることになる。
伸輔は耐えられないと、思った。
密葬という形で妻を葬りたかった。
そんな静寂を破って、美波たちがやってきたことに、伸輔は腹を立てていた。
美波たちが帰った後、伸輔は列席者の一番前のいすに座っている賢介の隣りのいすに舌打ちをしながら座った。
「身内でするからと、断ったのに」
それは独り言のようでもあったが、賢介の学校の関係者だということで、賢介を責めているようにも聞こえた。
賢介は美波たちが来た時、振り向きたい気持ちを抑えていた。
どんな顔をして、航平に会えばいいのか、分からなくて賢介はためらっていたのだ。
航平は昨日、母が死んだ経緯を黙っていてくれるのだろうか。
多分、美波には話してしまうだろうと、推察出来た。
美波に尋ねられたら、航平は黙っていることは出来ない。
なぜなら、航平は美波が好きだからだ。
好きな人に尋ねられたら、教えない訳がない。
もし、どうして教えたんだと、質問したとしたら、好きだからだと、いう返事は立派な理由として、成立する。
美波の前髪が真ん中から少し、浮き上がったように分けられている。
その生え際が14歳の幼さを残す顔にバランス良く、大人ぽっさを加えていた。
美波の変に媚びない態度は、賢介も好感が持てた。
しかし賢介は、何でも人より抜きん出ている美波が苦手だった。
6年生の時、算数の問題の百分率を美波に教えたことがある。
素直に教えてもらっている美波の姿
に、賢介は満足出来る優越感を得ていた。
隣りに座って、母の美奈子の遺影を見つめている父の伸輔に厳しく、学力でも運動でも一位を取るように、言われて育った。
賢介は美波がいなければ、自分が一位になれるのにと、美波のことが疎ましかった。
賢介が中学校に入学したころ、美奈子がパニック症候群になり、睡眠剤を服用するようになって、階段の上に座り込むようになった。
それは、決まって、朝、賢介が登校する時刻だった。
父はいない。
賢介は美奈子を見張るという、言い訳を自分にして、学校を休んだ。
4月の終わりの札幌はまだ寒い日がある。
初めて、賢介が学校を休んだ日も寒い朝だった。
これで、美波に負けてもいい。
もう、一位にならなくてもいい。
自分を楽にすることが出来た。
賢介は冷えたフローリングに座り込んだ。
つづく
最後まで読んでいただき、感謝いたします。