黒い衣装の彼女 | jun2980さんのブログ

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 何にでも興味をもっています。今、ミステリー小説の連載中です。また、韓国ドラマ、良い加減料理や難病の膠原病をテーマに写真なども載せながらつぶやいています。皆さんのペタやコメントが励みになります。どうぞよろしくお願い致します。



地下鉄のホームで、私は電車を待っていました。

すると、一人の女の人が、私の1メートル前で立ち止まり、かしこまって一礼をしました。

私は、訝しく思いながらも、頭を下げました。

なぜなら、彼女は、全身真っ黒づくめの衣装に身を包んでいたからです。

まだ太陽の日差しの強いこの季節に
その黒い衣装はそぐわない感じがしました。

顔も真っ黒なサンバイザーを目深にてかぶっていたので分かりません。

なおも、訝しく見ていた私の前でやっと、サンバイザーのひさしを上げて、顔を見せてくれました。

目鼻立ちがはっきりした若くて、綺麗な顔が現れました。

化粧気のない白い顔の中の黒く縁取られた瞳が、真っすぐ、私を捉えていました。

けれども、私は彼女が誰なのか、どうしても分かりませんでした。

きっと、私の知らない人なんだ、と思ったほどです。

彼女は少し私に近付くと、小さな声で、でも、はっきりと

「前に、同じ部屋に入院していたことがあるんです」

そう、伝えました。

そう言われても思い出せません。

入院生活4か月半の中で、たくさんの病友と話し、笑い、寝食を共にしてきましたが、ほとんどの人のことは覚えています。

でも、彼女のことは分かりません。

私は彼女の顔をじっと見ました。

こういう時は、誰かの名前を言わないと失礼かなと、思った私は、若い子で一緒だった子の名前をとりあえず、懐かしい気持ちで呼びました。

「ああ、K子ちゃん!」

「いいえ、K代です」

「ああ、K代ちゃん!」

それでも、思い出せない私を察してくれたのか、彼女は話しを始めてくれました。

「あの時、私は3日間しか入院していなくて、カーテンを締め切っていたんです」

そこで、私はやっと思い出しました。

そうそう、そういう変わった子がいたっけ。

私の向かいの真ん中のベッドで、一日中カーテンを締め切っていた子だ


私が思い出していると、彼女が続けてその時のことを話しました。

「本当は、私もカーテンを開けて、みなさんとお話ししたかったんです。でも、ちょっと、あの時は出来なくて」 

彼女はカーテンをほんの少し開いて出て来る時も、伏し目がちにて、誰とも目を合わせようとしませんでした。

「おはよう」と、声をかけてもあいさつを返さない彼女に、誰も何も言わなくなくなりました。

私の隣りのベッドのAちゃんが、どう対応していいのか、看護師に相談
しました。

「何も話しかけなくていいよ。看護師も必要以外のことは話しかけないように言われているの」

そう言われて、納得したものの、彼女の両側は暗い。

特に廊下側の人は、暗い。

それにみんなの顔を見られないので、話しもままならない。

明るかった部屋に陰気な空気が流れました。

それでも、彼女の私達の印象はとても楽しそうだったそうです。

「私が入院した時、ちょうど手術の前の日でしたよね」

と、彼女に同意を求められても私は
覚えているはずもなく、答えに窮していると、

「手術の日は食べられないからと、前の日に甘い物をたくさん、食べていましたよね」

確かに、その通りでした。 

カーテンの向こう側で、彼女はしっかり、話しに参加していたんだ。

やがて、電車がきて、乗ることになりました。

彼女の下車する駅より前の駅で、降りる私に付き合って、彼女も「急いでいないから」と途中で降りてくれました。

そして、ホームでメールアドレスの交換をしました。

それから、少し話しをして彼女をホームに残し、手を振って別れました。

彼女は、太陽光アレルギーを持っている病気だと教えてくれました。

あの3日間の入院は、太陽光をどのくらいまで浴びて大丈夫なのかと、いう検査入院だったと、教えてくれました。

彼女は黒い衣装を格好良く着こなしていました。

今、トレンドのトレンチワンピースのベルトをウエストで縛っていましたが、そのウエストの細さが強調されていました。

だった3日間だけの病友でした。

しかし、彼女はカーテンを締め切っていました。

一度も話しをしていません。

「よく、私のことが分かりましたね」

「憧れていました。いつか会いたいとずっと願っていました」

照れくさい言葉でしたが、嬉しかったです。

何に憧れてくれたのか知りたかったのですが、さすがに、聞くことは、はばかれました。

それはともかく、人の出逢いとは、
本当に不思議なものです。

もし、同じ病室にならなかったら、こんなことは、有り得なかったでしょう。

しかも、私にとっては、言ってみれば、ただの通りすがりの人です。

こんなこと、ついさっきまで、私の人生に起こることだとは考えもしませんでした。

「元気になって良かったね」

と、言うと、

「これから、元気になります」

微かに笑っていました。

彼女の心の闇は、きっと、私には計り知れないものでしょう。

彼女から、直ぐに可愛いメールが届いていました。

その時、その場で親しくならなくても、こんな再会の仕方もあるのだなと、本当に不思議に思いました。

太陽の日差しが強いその日、私は病院の帰りでした。

彼女も病院の帰りでした。

これから、病院で会えるねと、しっかりと顔を合わせて、笑いました。