ゲゲゲのブラック次元 -81ページ目

ゲゲゲのブラック次元

コッペパンと妖夢が好きなゴクウブラックと
罪のない人間と海砂に優しい夜神月と
色物揃いで最強の部下たちを従えるリボンズ・アルマークが
存在するカオスな次元です

 とある財閥の屋敷で起きた密室殺人事件、警察が捜査に難航する中、助っ人として呼ばれたのは、名探偵シャーロック・ホームズのような服を身にまとった高校生の少年だった。少年は、名探偵さながらの観察眼と推理力を駆使して、密室殺人の謎を解き明かした。
「犯人は……あなたです!」
 名探偵の少年が指さした先にいたのは、屋敷の主人である老紳士だった。
「なっ……違う!私が犯人だって?確かに彼には恨みがあった。しかし殺すつもりはなかったんだ!」
「いいえ、動機はあるんですよ」
「動機?」
「あなたが彼の息子であることは事実です。しかし、あなたは養子でした。」
「ああ、その通りだ。」
 老紳士は苦々しげに頷いた。
「あなたは彼の実の息子ではない。しかし、息子同然に育てられたのです。」
 少年は続ける。
「彼は実の息子が病気で亡くなってしまったため、あなたを引き取ったのです。しかし、彼はあなたを本当の子供のように愛していたのでしょう……だからこそ、あなたには彼を憎む理由があったんです。」
「どういうわけだ?」
「彼はあなたを引き取る時、こう言ったそうです。『お前の本当の家族は、あの屋敷に住む者全員だ。そしてお前は、俺の唯一の息子だよ』と……」
 老紳士はハッとした顔をした後、悲しげな顔で俯いた。
「……そうだったのか。私はずっと勘違いをしていたのか……」
 そんな彼に、名探偵の少年はさらに追い打ちをかけるように続けた。
「あなたは彼を憎み続けました。しかし、同時に彼はあなたの実の父でもあったのです。」
「そんな……じゃあ私は……」
 老紳士は、その場に泣き崩れてしまった。
「彼はきっと、あなたにも幸せになって欲しかったのでしょう。」
 少年はそう言うと、静かにその場を立ち去った――――
 
 
 数日後、新聞の見出しやネット上にこの少年の記事が載った。
 『現代のシャーロック・ホームズ『白馬光』大人顔負けの名探偵、またも事件を解決!』
 ニュースにも取り上げられ、街行く女子高生たちの間でも話題の中心となっていた。
「ねぇ、白馬光って知ってる?最近話題の高校生探偵!」
「知ってる!めっちゃイケメンなんでしょ?」
「それで頭もすごくいいんだもんね!」
「えー!すごい!会ってみたい!」
 そんな女子高生たちの後ろを歩く二人の高校生(少年少女)がいた。
「現代のシャーロックホームズ……少し大袈裟な気もしますけど、わざわざ新聞に取り上げられるぐらいだから敏腕なんでしょうか?」

 外海金奈子(15) エクシア学園高校1年
 
「あ?たかが高校生の分際で何が現代のホームズだよ……」

 黒羽晴斗(16) エクシア学園高校1年

「そう言えば晴斗様のお父様が言ってましたよね」

(「現代のシャーロックホームズと呼べる奴なんて、オレの知る限りじゃ一人だけだからな」)
 黒羽快斗 奇術師

「しかしこうも言ってたぜ?探偵はただの批評家だってな……」
「まぁ犯人を捕まえる為に警察に協力してくれてるんだからそう悪くは言えないないですよ。最近事件が多いらしいし警察だけじゃ大変だと思いますし」
 晴斗は、金奈子の言葉に「そういうもんかね…」と言って納得していない様子だった。
「その点、怪盗は鮮やかに獲物を盗み出す創造的な芸術家なんだぜ?探偵なんかより大胆不敵な怪盗の方が魅力的に決まってんだろ」
「晴斗様、ドロボウ好きですよね」
 金奈子は微笑みながら言った。
「泥棒じゃねーよ!怪盗だよ!か・い・と・う!」
「あー…すみません……」
「ったくよ……」
 晴斗は呆れた様子でため息をつくと、再び歩き始めた。
「お前はどんな怪盗が好きなんだ?やっぱ有名なフランスの大怪盗アルセーヌ=ルパンとかか?」
「うーん…あっ、怪盗キッドがいいです。30年前に月下の奇術師って言われて大人気だった!」
「おお!なかなか分かってるじゃねえか!俺もキッドが一番好きなんだよ。なんせ父さんが怪盗キッドの大ファンだったからなぁ」
 前のめりになって話す晴斗に対し、金奈子はニコニコと笑いながら話を聞いていた。
「フフ、そうでしたね」
「オレも一度でいいから本物を見てみたかったぜ」
「え……?」
「ん?どうしたんだ?」
 金奈子は一瞬、晴斗の言葉に疑問を感じた。
「あ、いえ……なんでも……」
「そうか?ならいいけどよ」
 晴斗は不思議そうに首を傾げると再び歩き始めた。
「でもなんで急に姿を消したんでしょうね…海外に行っちゃったのかな?」
「さぁな。その辺はよくわかんねーけど、怪盗キッドの話題はめっきり聞かなくなったらしいぜ。たぶん完全に足洗ってんじゃねえか?」
 晴斗が言うと金奈子も頷いて同意する。
「消息不明なんでしょうけど怪盗キッドはまだ生きてるかもしれませんね」
 金奈子は明るく微笑む。
「あぁ、そうだな……」
 晴斗も少し嬉しそうな表情をしていた。
「でも、もし生きてたとして、晴斗様はその正体を知ったら……」
 金奈子はそこまで言って言葉を止めた。そして何かを考えるように俯いてしまったが、すぐに顔を上げて再び微笑んだ。
「いえ、やっぱりなんでもないです」
「あ?相変わらず含みのある言い方する奴だな……」
 晴斗は不思議そうに首を傾げるもそれ以上追及することはなかった。
 その後、二人は他愛もない会話をしながら歩いていた。しかし突然、金奈子が何かを思い出したかのように立ち止まった。
「あっ、そうだ」
「ん?どうした?」
「ニュースの事ですっかり忘れてたけど、30年前に地球を通り過ぎたボレー彗星が起動を変えてまた地球に向かってるらしいですよ?」
「彗星?あぁ、そういやなんか新聞に書いてあったな……それがどうかしたのか?」
「いえ、ただ気になって……それだけです」
 金奈子はどこか不安そうな顔で空を見上げた。すると晴斗は何かを思い出す。
「あぁ、そういやお前昔にそんな事言ってたっけな」
「えっ?」
「ほら、ガキの頃の新聞で彗星の事について話してたろ?たしか周期的に地球に接近したり遠ざかったりするって話してたよな……それでその彗星がどうかしたのか?」
 晴斗の問いかけに金奈子は俯いて黙ってしまった。そして黙ったままゆっくりと歩を進める。その顔はどこか悲しげだった。
 そんな金奈子の様子を見て、晴斗は不思議そうに首を傾げると再び歩き出した。しかしすぐに足を止め、金奈子の方を振り返ると少し遠慮がちに言った。
「おい、大丈夫か?顔色悪いぞ?」
「……あ……いえ、大丈夫です……」
 金奈子は慌てて笑顔を作ると再び歩き出す。しかしその表情はどこか無理をしているように感じられた。そんな金奈子の様子を見て晴斗は心配そうに声をかけた。
「なぁ本当に大丈夫なのか?お前最近ちょっとおかしいぜ」
「え?そうですか?」
 金奈子は意外そうな表情を浮かべ、晴斗は神妙な顔つきで頷いた。
「……ああ、結構昔から変なときはあったが最近特にな」
「……」
「なんか悩みでもあるのか?」
 晴斗が尋ねると、金奈子はしばらく黙っていた後、ゆっくりと口を開いた。
「いえ…!お見苦しい姿をお見せして申し訳ありません……」
 その声はどこか震えていた。そして何か思い詰めたような表情を浮かべていた。そんな金奈子の様子を見て晴斗は心配そうな表情を浮かべる。
「どうした?何かあったのか……?」
 そんな晴斗に金奈子は首を横に振ると、寂しそうに微笑んだ。
「いえ……ただ……」
「ん?なんだ?」
「……もし晴斗様が泥棒になったらって想像したら少し怖くなって……」
「……っ!?」
 思いがけない言葉に、晴斗は言葉を失った。そしてしばらく沈黙が続いた後、ようやく口を開いた。
「な……何言ってんだよ急に……」
 しかしその声はどこか震えていた。
 金奈子は相変わらず悲しげな表情で、まるで自嘲するかのように静かに笑った。
「……そうですよね、何考えてるんだろう私……ごめんなさい」
「いや……別に謝る必要はねーけど……」
 晴斗がそう言うと、金奈子は俯いたまま黙ってしまった。そして再び沈黙が流れる。しかししばらくすると金奈子が口を開いた。その声は先ほどよりも少し大きく感じられた。
「でも……私は晴斗様がどんな道を選んでも付いていくつもりです」
「え……?」
 突然の告白に、晴斗は戸惑った表情を浮かべた。しかし金奈子は構わず続ける。
「私は、晴斗様の事が好きですから」
 躊躇いもなく発したその言葉に、晴斗は驚きの表情を浮かべながらもすぐに照れくさそうにしながら口を開いた。
「……な、なんだよ……今更んなこと……ガキの頃から聞き飽きたっつんだよ」
「すみません…!でも、私は本当に……」
 金奈子の言葉に、晴斗は顔を赤くしながら頭を掻いた。そしてしばらく考えた後、ゆっくりと口を開く。
「……まぁ……その……なんだ……ありがとよ」
 その言葉に、今度は金奈子が驚いたような表情を浮かべた。しかしすぐに嬉しそうな笑顔に変わり、大きく頷いた。
「はい……!」
 そんな金奈子の様子を見て晴斗も笑みを浮かべると空を見上げた。
「……なぁ」
「はい?」
「さっき言ってた彗星ってよ……30年前に通り過ぎたんだよな…………?」
「え?はい……そうみたいですけど……」
「30年か……」
 晴斗はしばらくの間、何かを考えるように黙っていた。やがて顔を上げると真剣な表情で口を開いた。
「そう言やぁキッドが突然姿を消したのも30年前だったよな……」
「ええ、そうらしいですね……」
 金奈子も真剣な表情で答える。晴斗は再び空を見上げると、どこか期待に胸を膨らませているような表情をした。
「何だか知らねえが、面白ぇことが起きそうな予感がするぜ!」
「……そうですね……」
 金奈子は、そんな晴斗の表情を見て心配そうな顔を浮かべる。そして心の中で祈った。
(どうか……晴斗様の望みが叶いますように……)
「あ?どうした?」
 突然立ち止まった金奈子に、晴斗は不思議そうに首を傾げる。しかし金奈子は何も答えず、ただ黙って微笑んでいた。その笑顔はまるで何かを決心したかのように見えた。
「ん?まぁいいや、行こうぜ!」
 晴斗はそう言うと再び歩き出した。そんな晴斗の背中を金奈子は黙って見つめると、ゆっくりと後を追いかけたのだった。
 そして二人はそのまま家路についたのだった――――
 
 
「ただいまー」
 晴斗は玄関の扉を開けると、靴を脱ぎながら誰もいないと分かってはいるが家の中に向かって声をかけた。
「お帰りなさいませ、坊ちゃま」
 すると突然、目の前に一人の紳士が現れた。紫色の髪は綺麗に整えられていて、スラリとした体型でスーツ姿が良く似合う若い男性だ。
 そんな紳士を晴斗は驚いた様子で見つめた。そしてそのまま固まってしまう。そんな様子を見て紳士は少し困ったような表情を浮かべた。
「どうなされました?私をお忘れですか?私です、セバスチャンです!あなたの御父上の弟子であり付き人のセバスチャン外海にございます!」
 
 セバスチャン外海(37) 外海財閥総帥
 
 必死に自己紹介をする彼を見てようやく我に返ったのか晴斗が口を開く。
「いや、あの……なんでアンタがいんの……?」
「お!そうでした……突然のことで申し訳ございません。私は今朝日本に着いたばかりでして……」
「いや、そうじゃなくて……なんでここにいんだよ?」
 晴斗が尋ねるとセバスチャンはハッとしたような表情を浮かべた。
「あぁ!これは失敬……そうでしたね、まずは説明をしなくてはなりませんね」
 セバスチャンは姿勢を正すと話を続けた。
「実は……快斗様から、一刻も早く坊ちゃまにお伝えしたいことがあると、使いを任されまして」
「父さんから?」
 晴斗は不思議そうな顔をした。そしてセバスチャンに促されるままに書庫を訪れると、奥の他と比べて何の変哲もない本棚へ案内される。
「おそらく、ここでございます」
 セバスチャンはそう言うと、ゆっくりと本棚の左端の本を引き出す。すると本棚が振動を起こしながら床へ沈んで行き、地下へと続く階段が現れた。
「おお……!」
 思わず感嘆の声を上げる晴斗をよそにセバスチャンが口を開いた。
「さぁ坊ちゃま……お先にどうぞ」
「……わかった」
 晴斗はごくりと唾を飲み込むと、緊張した面持ちでゆっくりと階段を降りていく。
「隠し通路か……父さんってばいつの間にこんなもん造ってたんだ?」
「くれぐれも奥さまや坊ちゃまにはバレないようにと快斗様から申しつかっておりまして、極秘に建造させていただいた物です」
 そして長い通路をひたすら進むと大きな扉が見えたので立ち止まった。どうやらここが目的地らしい。
「どうぞ坊ちゃま、お開け下さいませ」
 セバスチャンに促されて扉を開くと、そこはまるで博物館のように怪盗キッドに関する物が飾られてある部屋だった。
「怪盗キッド!?な……なんだここは……」
 晴斗が呆然とした様子で部屋の中を見回していると、セバスチャンが説明を始めた。
「坊ちゃま、30年前に姿を消し行方不明になった、月下の奇術師と呼ばれ、莫大な人気を誇った怪盗の名を覚えておられたのですね」
「ああ、この怪盗キッドだろ……それがどうした?」
 晴斗が首を傾げるとセバスチャンは少し神妙な表情を浮かべた後、再び話し出した。
「実は、その怪盗キッド…いや正確に言うと2代目怪盗キッドは……坊ちゃまの父上である快斗様なのでございます」
「……!?」
 突然の告白に、晴斗は大きく目を見開いた。
「……マジ?」
「ええ」
 暫くの沈黙を経て、やがて晴斗は狂ったように笑い始めた。
「フッ……ハハッ……ハハハハハ!アッハハハハーーーッ!!」
「……坊ちゃま!?」
 セバスチャンが心配そうに声をかけると、ひとしきり笑い終えた後、晴斗はようやく口を開いた。
「ハァ……なるほどなァ。どおりでキッドのことを話してる時の父さんはやけに自慢げだったわけだ。そういうことなら説明がつく」
「で、では坊ちゃまは最初から――?」
「ああ。なんか怪しいとは思ってたよ。けどよ、2代目ってどう言う事だ?」
「それは私の口からは言えません……。申し訳ありません」
 セバスチャンが申し訳なさそうに頭を下げると、晴斗はしばらく黙り込んだ後、再び口を開いた。
「ハッ……隠す意味ねえだろ。父さんが2代目ってことは、俺の爺さんが…初代の怪盗キッドなんだろ?」
「……はい、その通りでございます」
 セバスチャンが頷くと晴斗は納得したように頷いた。
「へへっ、ウチは泥棒一族だな……それで?」
「え……?」
「いや、だからなんでその事を今になってオレに?って聞いてんだよ」
「あ、あぁ……そうですよね……」
 セバスチャンは少し慌てた様子で答えた。
「では、その事について詳しくご説明いたします。まず最初に、ボレー彗星という彗星が地球に現在接近しているという事は坊ちゃまは知っておられますか?」
「えっ?ああ知ってる、金奈子からさっき聞いた」
「……っ!?金奈子…ですか……」
 一人娘の名を聞いた瞬間、セバスチャンは一瞬青ざめた表情を見せ、冷や汗も掻いているようだった。
「そうですか……あの子が…彗星のことを……」
 セバスチャンはボソッと呟いた。
「坊ちゃま……金奈子は…私の娘の様子は、最近いかがでしょうか?」
「は?どうって言われてもな……妙なこと言ってんのはいつものことだしな」
「そうですか……」
 セバスチャンは再び黙り込んでいたが、晴斗が本題について催促を求める。
「で?その彗星がなんなんだよ?」
「いえ……申し訳ありません。話が逸れてしまいました」
 セバスチャンは一呼吸置いてから説明し始めた。
 ボレー彗星の接近に備え、30年前に命の石パンドラを狙って快斗と争ったイタリアンマフィアとは別の組織が動き出した事。彼らのボスは不老不死を求めており、命の石パンドラを使ってそれを得ようとしている事。
 その陰謀は30年前に快斗がパンドラを破壊し阻止したが、この星にはもう一つ…命の石パンドラと対を成し、同じ力を持ったビッグジュエルが存在するらしい事を語る。
「なるほど…つまりオレは、忙しくて泥棒なんてしてる暇がねえ父さんの代わりに、ソイツらにその宝石を手に入れさせないように邪魔してくれって事か?」
「いえ!なにも強制なさっているわけでは……!ただ、この話を聞いて坊ちゃまがどうなさるのかには、快斗様も大変興味が御有りのご様子で……」
 セバスチャンは焦ったように言った。
「もちろん私といたしましては、坊ちゃまの身の安全も考えて、このような危険なことに関わっていただくのは非常に心苦しいのですが……」
「ハッ!父さんはオレに怪盗キッドになってくれって言ってんだよな?」
 晴斗の言葉にセバスチャンは大きく目を見開いた。
「えっ?い、いや……その……」
「おいおい、まさか違うって言わねえよなァ?この話の流れでよぉ」
「……っ!」
 セバスチャンは言葉を詰まらせる。晴斗はニヤリと笑みを浮かべた。
「面白ぇじゃねぇか!そんな話を聞いたからには引き下がれねえ。かつて世間を騒がせた伝説の大怪盗になれるんだ、こんなチャンス願ってもないぜ!」
「で、ですが坊ちゃま……!先ほども申し上げたように、キッドとして活動していくには危険が付き纏います。無闇にお命を危険に晒すような真似はなさらないほうが…」
 セバスチャンは必死に説得を試みるが晴斗の意思は変わらないようだ。
「ハッ!なに日和ってんだよ。命の危険?上等だ!それに、父さんがオレならやれると信じて託してくれたんだろ?」
 晴斗の言葉にセバスチャンはハッとした表情を浮かべた後、ゆっくりと頷いた。
「ええ……そうでございますね」
「だったらその期待に応えるだけだ!」
「……かしこまりました。では、私も微力ながらお手伝いさせていただきます」
「ああ!黒羽快斗…未完成の奇術(やり残しのマジック)…!このオレが超えてやるぜ、父さんを!」
 こうして3代目怪盗キッドが誕生したのであった……。
――――
 そして数日後……警視庁宛に怪盗キッドを名乗る謎の人物から予告状が送られて来た事で、警視庁は大混乱に陥った。
「中森警視!!」
「なんだ?騒々しい……」
 中森銀三(64) 警視 晴斗の祖父
「怪盗キッドから予告状が届いたんです!」
「なにぃ!?すぐに見せろ!」
 中森は部下の持ってきた予告状に目を通すと、額に青筋を浮かべた。
「……これは……キッドの予告状じゃないか!!しかもご丁寧に30年前の物と同じ手口だと!?」
 そして中森の中でアドレナリンが急速に分泌され始めた。
「奴だ…帰って来たんだ、奴が…奴が帰って来たんだ!!」
 あまりの興奮に年甲斐もなく思わずガッツポーズをしてしまう。
「お前たちなにをしている!キッドだ!あのキザな悪党が帰って来たぞ!!総員出動用意だ!!」
「はっ!はいぃ!!すぐに準備しますぅ!!」
 部下たちは一斉に動き始めた。そして数時間後には機動隊が臨戦態勢を整え始める。
「……ついにこの時が来たか……さぁ来い怪盗キッド……今度こそこのワシが捕まえてやるからな……!」
 そんな意気込みを胸に中森も現場へと向かって行くのだった――――
 夕暮れ時、黒羽邸ではセバスチャンが晴斗のサポートへ向かうべく、車に機材を積み込んでいた。
「よし、そろそろ行くか」
 セバスチャンはそう言って車に乗り込もうとした時、後ろから背筋が凍りつくような悪寒を感じた。
「っ!?」
 慌てて振り返ると、その視線の先には、突き刺すような冷たい目で自分を睨みつける実の娘・金奈子の姿があった。
「かな……こ……!?」
「…………」
 全く口を開かぬまま、金奈子はただじっとセバスチャンを虚ろな目で見つめている。その姿を見てセバスチャンは背中に冷たい汗が流れるのを感じた。その異様な雰囲気にセバスチャンは危機感を覚え、思わず後ずさった。
「……ひぃ……っ」
 あまりの恐怖に、実の娘を前にして情けない声を漏らしてしまうセバスチャン。
「な……なんだ……?なにが言いたい……!?」
「…………」
 震えた声で問いかけるも金奈子は何も答えない。しかし父親であるセバスチャンにはなんとなくだが彼女の意思が読み取れた。『何故帰ってきたのですか……?』と、彼女の目はそう言っていた。
「や…やめろっ……そんな目で…そんな目で私を見るなぁ……!」
「はぁ……」
 やっと口を開いたかと思えば金奈子が溢したのは深いため息だった。しかしそのため息にはどこか失望と怒りが込められているように思えた。
「あっ……」
 そのまま踵を返すと家の中に戻って行ってしまった。心なしか舌打ちをしていたようにも見えた。
「……っ……!」
 その姿を見た瞬間、セバスチャンは恐怖を感じた。そして慌てて車に乗り込むと全速力で走り出す。そして、その時の彼の顔はとても青ざめており怯えていた――――。

 キッドが予告状で示したレイチェル博物館では、既に厳重な警戒態勢が敷かれていた。
「あれ、お爺ちゃん!」
 その時、野次馬に混ざっていた晴斗が中森に話しかけてきた。
「おお、晴斗か!お前も来たんだな」
「おう!だってあの怪盗キッドだぜ!?俺も一度見てみたかったんだ!お爺ちゃんも、この歳になってまた戦える機会ができて良かったな!」
「ガハハハッ!まったくだ!」
 中森は豪快に笑うと晴斗の頭をガシガシと撫でた。
「ちょ、やめっ!子供じゃねえんだからさ!」
「ハッハ!すまんすまん!つい嬉しくなってなぁ」
 そして中森は改めて周囲を見回して言った。
「しかし……まさかこの歳になって再びキッドの現場に立つことになるとはな」
「お爺ちゃん、なんか嬉しそうじゃん?」
「ああ、何と言ってもヤツとワシは…宿命のライバルだからなぁ……!」
 中森が懐かしそうに言うと晴斗は少し考え込んだ後、口を開いた。
「なあ……お爺ちゃんさ……」
「ん?どうした?」
「……やっぱいいや」
 そう言って気まずそうに首を左右に振る晴斗に、中森は特に気にする様子もなく笑う。
「そうか!それより、お前もキッドの現場に来るのは初めてだろ?折角だから記念に展示してある物でも見てきたらどうだ?」
 中森が提案すると晴斗は目を輝かせて頷いた。
「おう!そうする!」
 2人は博物館の中へと入ると早速様々な宝石や美術品を見て回った。そして最後に訪れたのが、今回の予告状の標的である『命の石パンドラ』に該当するかもしれないビッグジュエル『一筋の流れ星』と名付けられたダイヤモンドだ。
(コイツが目当ての宝石か……へっへっへ……お爺ちゃんもまさか、これからこの宝石を搔っ攫うのがオレだとは夢にも思わねえだろうな!)
「ああそうだ晴斗!お前はお父さんに似て頭がいいからな。一つ、ここの警備が十分かどうか確認してみてくれんか?」
(マジかよ!警備システムまで見せてくれんのか?ヒヒヒ、こりゃオレのデビュー戦は楽勝になりそうだな!)
「おう、任せとけ!」
 晴斗はそう言うとさっそく警備の状態を確認し始める。そして一通り見終わった後、中森の元に戻っていった。
「どうだ?」
「へへっ…楽勝だぜ……」
 自信満々に答えた晴斗を見て中森は満足気に頷いた。
「そうか!やっぱりワシの目に狂いはなかったようだな!流石はワシの孫だ!」
「ああ!……あ……」
 思わず肯定してしまったことに気づき、しまったという表情を浮かべるが既に遅かった。そんな孫の様子には全く気付かず中森は来たるべき宿敵との対決に向けて闘志を燃やすのだった――――。
 博物館から出てきた晴斗はセバスチャンの待機している車に戻ってきた。
「あっ、坊ちゃま!いかがでしたか?」
 セバスチャンが尋ねると晴斗は満面の笑みで答えた。
「へっへ〜……完璧だぜ!なんせこのキッド様に警備システムを全部調べさせてくれちゃったんだからなぁ!こりゃもう楽勝だな!」
「あー、そう言えば坊ちゃまのお爺様は警視庁の中森警視でしたか。なるほど、通りで……」
「え?なに?」
 晴斗が首を傾げるがセバスチャンは真面目な顔を崩さない。
「いえ、何でもございません。ですが坊ちゃま、いかに相手が御身内とはいえ、侮ってはなりません!」
「平気平気!アンタは知らねえだろうが、お爺ちゃんは何度も父さん…キッドと戦ってるが捕まえれたことは一度もないんだぜ?心配ねーって!」
「はぁ……ですが、快斗様と違って坊ちゃまは今回がキッドとしての初仕事!万が一ということもございます……」
 セバスチャンは複雑そうな表情を浮かべる。
「そんなに心配かよ?」
「ええ、そうです」
 晴斗の言葉にセバスチャンが頷く。
「じゃあこうしようぜ!俺がもし何かヘマしちまったら、次からはアンタの指示に従ってやる。これでどうだ?それなら問題ねえだろ!」
「……わかりました。坊ちゃまがそこまでおっしゃるなら……」
 予告された時刻が迫り、博物館の周りには警察や報道陣、そして野次馬など数多くの人で溢れていた。
「ぬおぉ……キッドめぇ!今度こそ必ず捕まえてやるぞ!」
 中森は博物館の外で腕時計を見ながら興奮して叫んでいる。その様子を横目で見ていた晴斗は少し呆れたような表情を浮かべている。
「……まったくお爺ちゃんってばまだ来てねぇのに張り切り過ぎだぜ。じゃ、そろそろおっ始めるとすっか!」
 晴斗は懐からキッドの衣装に着替えると、堂々と博物館の出入り口へ歩いて行く。セバスチャンはその姿を物陰からこっそりと覗き込んだ。
「坊ちゃま……ご武運を!」
 一方、中森は予告時間の到来を手に汗握りながら今や遅しと待ち構えていた。
「あの予告状が本物だとしたら奴は来る…奴が予告状を出して盗みに来なかった試しは1度もないのだから……!」
(あと15秒……来い!必ず来い!ワシの前に姿を現せ!!)
「それでは皆さん!10、9、8……」
 観客のカウントダウンが始まる。するとその時……突然照明が落とされた。
「ぬおっ!?」
 中森は驚愕して辺りを見回していると――
「7!」
 何処からともなく聞こえてきたカウントを数える声に、警官達が動揺する。
「6、5、4…」
「こ、この声は……‼」
「3、2、1……」
(来る!)
 中森は期待に胸を高鳴らせながらその時を待った。そして……
「0!!」
 カウントがゼロになった瞬間、博物館の照明が再び点灯すると周りからは大歓声が聞こえ始め――
「か…怪盗キッド!!」
 中森の叫び声で警官や観客達が慌てて周囲を見回すと……そこには白いマントを纏いシルクハットを被り、モノクルを付けた人物が立っていた。
 キッドの衣装に身を包んだ晴斗は堂々たる身のこなしで屋上の方へと歩いて行き、身を乗り出して言った。
「Ladies and Gentlemen……It\\'s show time!!」
(き……キッド!ついに姿を現したか!!)
 中森は興奮を抑えきれずに歓喜の声を上げる。
「キッドだ……!!」
「本当にいたんだ!」
 周りから歓声が上がる中、晴斗はマントを翻して高らかに宣言する。
「予告通り、ビッグジュエル『一筋の流れ星-メテオワン-』は確かに頂きました」
 そしてそんな晴斗見下ろした先には、歓喜に満ち溢れた表情で彼を見上げていた祖父・中森の姿があった。
「お……おぉ……!」
 中森は感極まったように声を漏らした。彼は初代の頃から怪盗キッドを追い続け、遂に捕まえる事が出来なかったらしい。晴斗の昔からの印象では、祖父は常日頃から元気が足りない様子だったが、どうやらキッドがまた長期間姿を消していた事が原因だったと思われる。
(仕方ない、新生怪盗キッド誕生記念に少しサービスしてやるとするか)
「お久しぶりです中森警部……いえ、中森警視殿」
 晴斗は30年前に姿を消した二代目怪盗キッドである父・黒羽快斗の声で祖父達に語り掛けた。
「30年も何処で何をしていたんだ!」
「フッ…私は泥棒です。故に逃げ隠れしていただけの事……」
 今度は初代怪盗キッドである祖父・黒羽盗一の声で語り掛ける。
「その声は……最初の……」
 中森は声を震わせて呟いた。そして晴斗は一旦地声に戻し――
「そして今の私は、あなたが30年前まで追い続けた怪盗キッドでも、37年前に姿を消したキッドでもありません」
「えっ!?」
 晴斗の言葉に、中森は目を白黒させた。
「全く新しい新世代の大怪盗…」
 盗一の声…。
「怪盗キッドの3代目を継ぐ者…」
 快斗の声…。
「すなわち、KID THE THIRD……キッド三世!!」
 そして最後に声を戻し、新たな怪盗キッドの襲名を高々に宣言する。
「キッド…三世だと……!?」
 驚愕に目を見開く中森。そんな様子を見て晴斗はにやりと笑みを浮かべた。そして改めて盗一と声を合わせて言った。
「では中森警視、またいつか…月下の淡い光の下でお会いしましょう。世紀末の鐘の音が、鳴り止まぬ内に……」
 そう言うとスモッグと共にその場から消えた。キッドが姿を消すと同時に観客達からの歓声が上がった。一方博物館の中は大混乱に陥っていた。突然照明が落ちたかと思えば、ビッグジュエル『一筋の流れ星』が消えていたからだ。
「な……!?嘘だろう!?」
 中森はすぐさま展示ケースを確認しに行くが、やはり『一筋の流れ星』は消えていた。
「ぬおぉぉぉ!!キッドめぇぇ!!」
 中森は怒りに任せて叫んだ後、すぐに部下に指示を出して捜索を始めた。しかし館内には大勢の警官や観客達がおり、とてもじゃないが短時間で全てを探し出す事など不可能だと思われた。
「くそっ!一体何処へ消えたんだ……!」
 だが実際は晴斗は屋上から一歩も動いてはおらず、盗んだ宝石を確認していた。
「えっと……確か月の光に翳すんだっけか?」
 晴斗は月の光に『一筋の流れ星』を翳してみる。すると、まるでダイヤモンドの中に宇宙が広がっているように見えた。
(おお、すげえ!けどパンドラってのは中の宝石が赤く光るんだよな?じゃあコレは綺麗だけど外れってことか)
「まあいっか!お目当てのもんじゃなくても、こんだけでけえ宝石なら高く売れるぜ!」
 晴斗は宝石を懐にしまうと、屋上から飛び立とうとしたが、その時……。
 バンッ! 
 晴斗の足元に何者かが発砲してきた。
「誰だ!」
 するとそこに現れたのは全身を黒い服で覆ったガタイの良い男だった。
「ひさしぶりだな怪盗キッド…この日が来るのを待ちに待っていたぞ!30年前の恨み、今こそ晴らさせてもらうぜ!」
 男はそう言って銃を構えた。
「お、おい!いきなりぶっ放つことはねえだろ!あんた誰なんだ?」
(もしかして、コイツがセバスチャンの言ってたパンドラを狙っている組織の人間なのか……?)
「『マンティス』だ。忘れたとは言わさねぇぜ」
「ほう、カマキリ男ですか……」
(忘れたも何も初対面だしな……)
「それで?私になにかご用ですか?」
 晴斗が挑発的に問いかけると、マンティスは不敵に笑った。
「俺の目的はただ一つ……」
 そして拳銃をおもむろに掲げると宣言するかのように声高らかに言い放った。
「お前の命だキッド!!」
「なっ!?」
 自分に向かって発砲してきたマンティスに驚きつつ、晴斗は素早く避けた。
「おいおい!オレはキッド三世だっつっんてんだろ!?アンタが言ってんはオレの親父だ!」
「この期に及んでわけのわからねえことを……見苦しいぜキッド!」
 そして再び銃を構えると立て続けに乱射してくる。
「うおっ!?」
(コイツ……!マジで俺を殺す気なのか?)
 晴斗は慌てて銃撃を躱してトランプ銃を構えるも、マンティスはそれを銃で弾いてくる。
「げっ……!?」
「へっへっへ……万事休すだな怪盗キッド」
マンティスは勝利を確信して嘲笑う。
(こりゃマジでやべえぜ……どうする……?)
 パシュ
 しかし次の瞬間、どこからともなく針が飛んできてマンティスの首筋に命中する。
 プスッ
「のおっ……!」
 するとマンティスはよろめき、身体がふらつき始める。
「あ?え?」
「な、なんだこれは……?麻酔針か!?どっから飛んで来やがった……!」
 マンティスは慌てたように周囲を見渡すがそこには自分たちの他に誰の姿も気配もない。そんな二人の様子を蜂のように小さなスパイロボットが監視していた。
「ちっ……命拾いしたな怪盗キッド!勝負はお預けだ!」
 マンティスは舌打ちをして、そのまま屋上から飛び降りて逃げていった。
「な、なんだったんだ……?アイツ……」
 その場に残された晴斗は呆然と立ち尽くしていた後、セバスチャンの待つ車へと戻って行った。
 そしてとあるコンピュータールーム、仕事が終わって車で帰る晴斗たちの様子を、スパイロボットを通してモニターで確認している者がいた。
「あなたは、私が御守りします……」
 モニターに映る晴斗の姿を見ながら、彼女は小さく呟いた。
「……晴斗様」
 やがて黒羽邸へ晴斗を乗せたセバスチャンの車が戻ってくる。車から下りた晴斗はホクホク顔で盗んだ宝石をセバスチャンに見せた。
「見ろよ!初仕事でこんなでけえダイヤを手に入れちまうなんて、さすがオレだぜ!」」
「あの……晴斗様、その宝石はパンドラではなかったのですよね?」
「ん?ああ。それがどうかしたか?」
「でしたら、博物館に返却はなさらないのですか?」
 セバスチャンの疑問に晴斗は笑って答えた。
「バーロー!あんたの言いてえことは分かるぜ。父さんは目当ての宝石じゃなかったら置いて帰ってたのかもしれねえが、オレはそれまでのキッドじゃねえ!キッド三世だ!」
「は、はぁ……」
「キッド三世はなあ、せっかく盗んだ宝石を返すなんて無意味なことはやらねえんだよ。んな一文にもならねえことはなぁ!」
「でしたら、これからどうなさるおつもりで?」
 セバスチャンが尋ねると、晴斗はにやりと悪戯っぽく笑って答える。
「決まってんだろ。コイツを大金はたいてでも欲しいって奴はごまんと居るんだ。ソイツらに高く売りつけてやんだよ。これから盗む宝石も全部な!それがこのキッド三世様のやり方よ!」
「…………」
 セバスチャンは晴斗の答えに、言葉を失って立ち尽くしていた。
「じゃあ、早速ブラックマーケットでオークションを始めるとするかな!」
「あ、あの……坊ちゃま」
 だがセバスチャンの声は聞こえていないようだった。
「そうだ!これから商売していくわけだから、スポンサーも決めとかねえとな!へへっ、やる事が山積みだぜ」
「あの……」
「ん、そういやセバスチャン、金奈子にはもう会ったのか?」
 晴斗はセバスチャンに視線を向ける。
「へ……!?」
 その名を聞いた瞬間、セバスチャンは雷に打たれたような衝撃を受けた。
「おん?どうしたんだよそんなぼーっとした顔しちまって……ん?」
「い、いえ……会ったと言えば会ってはいるのですが……その……」
「?」
 歯切れの悪いセバスチャンの様子に晴斗は首を傾げる。
「いいから、数年も留守にしてんだから娘と話しぐらいしてやれよな」
 同じ敷地内の外海邸に親指を向けて言う晴斗を見て、セバスチャンはとても気まずそうにコクンと頷く。
 そして先に家の中に入っていく晴斗を見送り、セバスチャンは自宅であり今は金奈子が一人で住んでいる外海邸に視線を向ける。
「はぁ……話ぐらい、と仰られても……」
 セバスチャンは長い溜息をつくと、若くして他界した自分の妻にして金奈子の母である外海紫苑が亡くなった日のことを思い浮かべる。
 それは嵐の夜のことだった……。
 
 外海邸の寝室で、ベッドに横たわる紫苑。その傍らには幼い金奈子の姿があった。そんな娘を見て紫苑は優しく微笑みながら言った。
「金奈子……あなたは、あなたが大切に想う人の傍で……最後まで、その人を見守ってあげなさい」
 そしてそのまま静かに目を閉じ……二度と目を開けることはなかった。母親の死にまったく口を開くことなくただその顔を見つめて黙している金奈子。そんな我が子にセバスチャンはかける言葉が見つからなかった……。
「金奈子、紫苑は……母さんは――」
「亡くなられましたよ」
 セバスチャンが意を決して口を開きかけたその時、金奈子は初めて口を開いた。その口調はまるで他人事のように淡々としていて冷たかった。
「あ、ああ……。お前それを――」
「悲しい事だとは思っていますよ」
 セバスチャンの問いを遮り、金奈子は言った。
「か、金奈子……お前……」
「ご心配なく……私は大丈夫ですよ、お父様」
「金奈子、私は……」
 だが金奈子はセバスチャンの言葉を再び遮るように言った。
「この先、貴方にできることはなにもありませんよ」
「な……」
 冷たい言葉をぶつけられ、セバスチャンは愕然とした。
「お母様の遺言通り、私はこの世界で最も、誰よりも愛しいお方……晴斗様を、御守りします」
 そう振り返って淡々と宣言する金奈子の表情は氷のように冷たく、その目はまるで何かに取り憑かれているかのように暗く澱んでいた。
「……ッ!?」
 そんな娘を前にして、セバスチャンはまるで時間が止まったかのように動けなくなっていた。
 その夜のことはセバスチャンの記憶にトラウマとして深く刻まれていた。
 
 そして今……セバスチャンは、金奈子を前にどう接していいのか分からずに苦悩していた。
「はぁ……一体どうすれば……」
 そう呟きながら、結局外海邸には近づかず、まるで逃げ込むかのように黒羽邸へと入って行くのだった――――
 
 その後、キッド三世の出現はさまざまなメディアで取り上げられ、たった一夜の出来事ではあったが、世にその名が知れ渡るには十分なインパクトがあった。
 『名探偵・白馬光に続いて彗星の如く現代に蘇った今世紀最大の怪盗! その名は“キッド三世”‼』『今や世界が注目する“怪盗キッド”の再来! その目的とは一体何なのか!?』
 新聞や雑誌、テレビ番組、ネット上でも彼の話題で持ちきりだった。

 
「ねぇ昨日のニュース見た?」
「見た見た!今世紀最大の大怪盗だって‼」
「ちょおかっこよくない⁉」
 一度の盗みで世間の話題を掻っ攫った晴斗の通うこのエクシア学園生たちの間でも、男女問わずその話題で盛り上がっていた。
「だよなっ!マジカッケェ!!」
「あれ、お前もキッドのファンなの?」
 男子生徒は目をキラキラと輝かせて頷いた。
「だって今どき予告上なんか出してド派手な演出で現れたんだぜ!?カッコいいじゃん!」
 周りの生徒たちもうんうんと頷いているその様子を眺めていた晴斗は得意げな顔だった。
「みんなとても盛り上がっていますね、晴斗様」
「まぁな。て……オメーまたその呼び方しやがったな?学校で“様”はやめろっていつも言ってんだろ。あと敬語も!」
「あっ……ごめんね、晴くん」
「ったく……まぁいいや、それより……なかなかタイムリーだったよな」
「そうだね。昨日帰りに丁度キッドの話をしてたらその日に復活するなんて」
「ハハハ、そうだな」
「キッド三世、格好良かったね」
「そうかそうか!そりゃあったりめぇだろ。なんてったって奴は、あの月下の奇術師の名を継ぐ者なんだからよ!」
 晴斗は誇らしげに自画自賛するが、そのすぐ後に怪訝そうな顔で携帯を見返した。
「だけどよぉ、この記事……」
「ふぇ?」
「ここおかしくねぇか?」
 そう言って晴斗は携帯の画面に映し出されているネットニュースの記事を指差した。
「なんでキッドの話題なのに白馬光の名前が出てくんだよ!?全ッ然関係ねーだろ!」
 同じく最近話題になっていた高校生探偵について触れられている見出しに、晴斗は納得のいかない顔をしていた。
「アハハ……仕方ないんじゃないかな。彼が世の中で注目されてるこの時期にキッドが現れたから、ライバルとして引き合いに出されてるだけだと思うよ」
「だからって!同業者と比べられるならまだしも、探偵ごときと比べられるのは納得いかねぇよ!」
「大丈夫だよ。晴くんのこれだけ推してる大怪盗なんだから、白馬君が埋もれちゃうくらい、これからもっともっと人気が出るって」
「ま、それもそうか。探偵なんか仕事の依頼が来なきゃ無職と変わんねぇけど、怪盗は鮮やかに盗むだけで大人気だからな」
 晴斗は得意げな顔で話していたが、隣でその様子を見ていた金奈子はどこか浮かない顔をしていた。
「でも……あまり無茶なことはしてほしくないよね……」
「ん?どうした金奈子」
「……あ、ううん。なんでもないよ」
 金奈子は慌てて笑顔を作って首を振った。
「そうか?ならいいけどよ」
 晴斗はそんな金奈子の様子に少し違和感を覚えたが、特に気にも留めず再び新聞記事に目を落とした。
(セバスチャンの話によると命の石パンドラは月に照らすと赤く光って、対になる宝石も赤く光るらしいけど、あの宝石は照らしても光らなかったからな……)


※イメージボイス
-CAST-
・黒羽晴斗/キッド三世   CV:石川界人
・外海金奈子      CV:田村ゆかり
・白馬光        CV:宮野真守
・セバスチャン外海   CV:子安武人
・外海紫苑       CV:水樹奈々
・黒羽快斗       CV:山口勝平
・黒羽盗一       CV:池田秀一
・中森銀三       CV:石井康嗣
・マンティス      CV:玄田哲章