俺たちに翼はない~AnotherStory~伊丹伽楼羅編 第四章『栄えある王の愛染だ! 後編』 | ゲゲゲのブラック次元

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俺たちに翼はない~AnotherStory~(アナザーストーリー)

 

動画版


 伽楼羅と美咲は翔のいる飲食店へ向かっていた

 

「姫、寒くはありませんか?」

「えっ、いえ、このくらい全然だいじょぶです」

「無理はなさらずに」

 

 伽楼羅は美咲を抱き寄せる。

 

「っ…♡…あったかい…」

「抱かせてください、グレタガルドでは姫にお会いすることもままならず、姫に心細い想いをさせてしまいました」

「プリンセス・リンダって人は、伽楼羅さんのことが好きだったんですか?」

「ええ……あの世界において私のことを唯一愛してくれた方でした」

「両想いっていいですね……一人の寂しさに慣れてしまうほど、辛くて悲しいことはありませんから。いつもいつも追いかけるだけの悲しさ…大好きな人に手を伸ばしても、他の人と一緒にどんどん遠くへ行ってしまうんです。夢にまで見て泣いてしまうほどです。どれだけ伸ばしても、先輩に私の手は届かない。渡来さんのようなあの大きな翼に連れ去られてしまうから」

「私も貴女と同じです」

美咲「えっ?」

「奈落、あの暗闇の底からは王の力を持ってしても抜け出せない。あれから私は何度手を伸ばしたことか…暖かい天射す光を目指して、ただひたすら手を伸ばす…ファルコンという怒れる弟の存在がなければ、おそらく私は永遠にあの闇から抜け出ることはできなかったでしょう。美咲様、貴女の伸ばした手がホークに届かないのであれば、私がその手をつかみます」

「……」

「諦めずに手を伸ばしてください。どれだけ遠くても、私にならその手は届きます。私も手を伸ばします…手が届くのに手を伸ばさなかったら、死ぬほど後悔しますから」

「伽楼羅さん、いなくらないでくださいね…こんなに幸せな想いをしたら、それを失ったときの反動が大きすぎて、もう二度と私は手を伸ばせなくなります」

「もし、私が消えてホークが戻ってくるとしても…ですか?それでも、私との別れを惜しみますか?」

「例え誰が戻ってきても、伽楼羅さんほど私のことを大切に思ってくださるはずないです。私だけじゃありません、貴方が消えたら、きっと鳳さんも悲しみます」

「フェニックス…」

「伽楼羅さんのことを話してる時の鳳さんはすごく楽しそうでした」

(回想)

「すごいんだよ、アイツが俺の前に再び現れてから、世界がガラリと変わっちまったような気がしてさァ」

(回想終了)

「グレタガルドの王ガルーダ様、貴方のことを必要とする人たちの為に、どうかこの場に収まりください」

伽楼羅「……?!」

「そして、我が愛しき王ガルーダ様、貴方は闇になんてなってはいけません。今貴方といられる時間がもし夢なら、永遠に覚めることのない夢を見せてください。愛しております…ガルーダ様」

「プリンセス…リンダ⁈」

「えっと、こんな感じでよかったでしょうか?」

「……」

「お姫様言葉って難しいですね。あ、あの、やっぱりだめですか?」

「姫、私も貴女を愛しております。もう2度と、貴女を失いたくない…」

「えっ」

 

 美咲は伽楼羅の言葉が成す意味がよく分からなかったが、あえて何も問わなかった。

「伽楼羅さん、あのクレープ屋さんのクレープ美味しそうですね!」

「クレープ屋?」

 

 伽楼羅は美咲の目線に合わせる。

 

(ぱ、パルクレープ⁈)

「姫、クレープをお召し上がりになりたいのでしたら別の店にしましょう」

「えっ、なんでですか?美味しそうなのに」

「あのパルクレープという屋台は夜の戦士ファルコンが事務所代わりにしていた店です。顔の同じ私がいれば何かと面倒なことになります」

「なるほど、成田さんでしたっけ。じゃあ私が買ってきますので、伽楼羅さんはお店の人に気付かれないとこで待っててください」

「あっ、ちょ、姫!…止むを得ん。とにかく姫の仰る通り、ここにいてはマズい」

 

 伽楼羅は春恵に気付かれなくて美咲にはかろうじて分かる木の陰に隠れた。

 

「ぬふん…姫のお戯れにも困ったものだ」

「ワタシにはわかる。」

「む?」

「今日のドラはなんか変…」

「なっ⁈」

「ドラちゃん見たわよ~」

「ぬっ⁈」

「また新しい子連れてるじゃないの、もぅやだわ~私という者がありながら!」

(しまった、この周辺はこやつらの占領下…‼)

 

 伽楼羅は即座にダイヤルを隼人に合わせる。

 

「わ、悪ィな、今日のとこはお前らに構ってる暇ねぇんだ、んじゃ‼」

「あっ逃げる気⁈」

 

 伽楼羅は美咲を目指してアリスとマルチネスから逃亡を計る。

 

「あっ伽楼羅さん、そんなに焦った顔してどうなされたんですか?」

「ん…あんたドラかい?」

「あっ…」

 

 春恵と目が合った。

 

「そんなヅラ被って何してんだい」

「ああ、こ、これは深い事情があんだよ。悪ィけど今日はちょっと勘弁な!」

「行きましょう姫!」

「あわわっ⁈」

 

 伽楼羅が強引に美咲の手を引きパルクレープを去る。

 

「悪ィって…ドラが謝ったよ。今日は大雪でも降るのかい?……それより、誰だいあの子」

「待てー‼」

 

 後ろからアリスとマルチネスが伽楼羅と美咲を追いかけてくる。

 

「か、伽楼羅さん、もしかしてあの人たちも成田さんのお知合いですか?」

「ええ、やつの知り合いはまともに話が通じない者がほとんどなので関わらない方が身のためなのです!とにかく今はやつらから逃げましょう!」

「どこまでです?」

「逃げ切れるまでです!おっ…?」

 2人の前に白いワゴン車が止まった。

 

「伽楼羅ぁ~、迎えに来たよ~」

「フェニックス!ん……」

 

 伽楼羅が後ろに振り向くとアリスとマルチネスが尚も追って来ていた。

 

「姫、お乗りください」

「えっ、私が乗ってもよろしいんですか?」

「当たり前です、今日という日は貴方の為にあるのですから」

「乗るんなら早く乗りなよ、『お姫様』」

「あっ…で、では失礼します」

 

 美咲を乗せた後、すぐに伽楼羅も乗り込み翔の白いワゴン車はその場を去る。

 

「あ~あぁ、逃げられちゃった…」

「遅いぞフェニックス!最初から馬車をよこせばよかったものを」

「そうしようと思ったんだけどさぁ、校門の前に車止めるわけにもいかねぇじゃん」

「むむ…」

「俺が来なかったおかげでお姫様とデートできたんでしょ?」

「フェニックス、貴様まさかそれを見越して」

「別に~、俺ただ伽楼羅たち探すのに手間取って遅れただけだし」

「いやはや、私と姫に二人っきりの時間を与えてくれるとは良き計らいであったぞフェニックス。にしても、さっきからこの車、煙の匂いがするのだが…」

 

 伽楼羅は運転席の翔から細い煙が出ていることに気付く。

 

「フェニックス、貴様今何を口にしている」

「ん?煙草だけど」

「たば…煙草だと⁈」

 

 伽楼羅は翔の口から煙草を取り上げる。

 

「あっ、ちょっと何すんの」

「それはこっちの台詞だ。姫の前で有毒ガスを撒き散らす愚か者がどこの国にいるというのだ!」

「あぁ……わかった」

 

 翔は車の全ての窓を全開にする。

 

「うう……うん?」

「姫、お目覚めですか」

「あれ、私寝ちゃってたんですか?」

「ええ、大夫お疲れになったのでしょう。おかげで素晴らしいものが見られました」

「へっ?」

「姫の美しい寝顔が」

美咲「あっ…お、お恥ずかしいものをお見せしてすみません!」

「はて、私は感謝をしているのですが」

「ハッハッハッハ。2人ともずっとそんな感じなの?」

「そんな感じとは?」

「だからそんな感じ。伽楼羅のマシンガントークに、お姫様ついていけてないじゃん」

「おっと、これは失敬。そうとは知らず私は自分のペースで話を進めてしまっていたのですね。申し訳ありません。これからは姫のように穏やかなペースで話すことにします」

「ああ、いえ、お気になさらずに!私、伽楼羅さんのそういう積極的なところも好きですから」

「おぉ…何と御心の広い…」

「キミ、思ってたよりいい子だね」

「はい?」

「柳木原は結構変わったやつが多いから、珍しいよ、キミみたいな純情系は」

「グレタガルド出征の貴様にはわかるようだなフェニックス。何故美咲様のような美しい方の存在が際立たずにあんな外装だけの道化が学園のプリンセスなどともてはやされているのかまったくもって理解できぬ」

「仕方ないですよ、私地味な子ですし、あの人はすっごく美人ですから」

「もっははは、またまたご冗談を」

「世界の全てを見通す伽楼羅の眼には本当の真実しか映らない。目に見えるものの全てが真実とは限らないってこと」

「さよう、私の眼にはあのエセプリンセスは言葉を喋る血に飢えた悍ましい獣のように見えるわ」

「えっ、あの人そんなにひどいんですか⁈」

「ええ、やつは七つの大罪の中でも強欲や嫉妬に並んで特にたちの悪い傲慢の感情が濃く現れています。姫は色欲、フェニックスは怠惰。まぁ欲のない人間などもはや人間ではありませんし、民の個性を尊重することも王の立派な役目です。姫とフェニックスは至って正常レベルなので全く問題はないでしょう。ですが、その感情が行き過ぎている者は、あのような行動に出るわけです」

「じゃあさぁ、その子のことはどう見えてる?」

「ふむ…『ガルーダニック・アイ』‼…ぬおおっ⁈ま、まぶしいっ!何という神々しさだ!まるで天使、いや…女神のようだ‼グオッ…ばふんばふん…」

「か、伽楼羅さん大丈夫ですか⁈」

「眼が焼き尽くかと思いました。」

「そ、そんなにひどいものが見えたんですか……?」

「いいえ、むしろ逆です。天から舞い降りた女神の如く光り輝いておりました」

「め、女神⁈」

「美咲様、まさしく貴女はプリンセス・リンダそのものです。ん…何か姫の懐から甘い香りが…」

「あっ、忘れてました!」

 

 美咲は懐からクレープを取り出す。

 

「それは」

「さっきの可愛いお店で買ったクレープです、伽楼羅さんのもちゃんとありますよ。あっ…伽楼羅さん甘いものお嫌いだったりします?」

「いえ、甘いものは私の好物ですが?」

「では、どうぞ」

翔「うっわ…甘ったりィ…」

「どうしたフェニックス」

「いや、いいからさ、食うんならとっとと食ってよ。車ん中にその匂い充満しちまうから」

「鳳さん、もしかしなくても甘いの…」

「苦手だよ。マジで早く食ってくんない?あとちょっとでゲロ吐きそうなんですけど。つうかこれから食いに行くっツうのにんなもん買うなよ」

「す、すいません…」

「ったく、だから女は…」

「口を慎めフェニック!姫に非などあるはずなかろう。食べればいいのであろう食べれば‼うっ、うおおぅ…」

「伽楼羅さんクレープを一気に一飲みなんかしたら気持ち悪くなっちゃいますよ!」

「はぁ…こんなんじゃ先が思いやられるね。まぁ、面白いけど」

「着いたよ~」

 

 伽楼羅たちは車から降りる。

 

「へぇー、柳木原にこんな洋食店があったんですね」

「うむ、このように巨大な宮廷を見ると、かつて王族のみが食事を許されたツヴァインヘルツを思い出す」

「でも何で駐車場に車が全然止まってないんでしょう」

「2、3台ワゴン止まってるけど」

「でもいま丁度夕ご飯の時間ですよね、それにしちゃ少なすぎませんか?」

「入ってみればわかるよ」

 

 パカッ パカッ

 

 3人が店の中に入ると天井に設置されていた2つの久寿玉が開き紙吹雪が舞う。

 

「ウェルカム・トゥ・エンプレェースッ‼」

 

 いらっしゃいませ皇后陛下

 

「こ、これは⁈」

「ほぅ、なかなか悪くない出迎えではないか」

「お姫様が来るっつうから全員張り切っちゃってさぁ、この店貸し切って飾り付けして食いもん並べて、もう大騒ぎ」

「店を貸し切った⁈」

「他のやつらがいたら邪魔だし」

「だから駐車場に車が止まってなかったんだ…ってこれ全部私のために用意してくださったんですか?」

「いや、キミと伽楼羅のため…かな?」

「ヘイこのメリーゴーランドで回しまくりゃアンタも童貞卒業トップギアだぜ、成田君」

「見ててください、俺のトップギア」

「ファルコンではない、ガルーダだ。ん…貴様は確か私に射精の方法を教えてくれた…」

「えっ?」

「貴様は今日から射精丸と呼ばせてもらおう」

「あの…そういうこと忘れてくんない?ていうかそんな名前じゃTV出れねぇよ‼」

「ロスで百人ヤり倒したのであろう?その功績をたたえての名だ。喜べ射精丸よ。もはははっ」

「ひゃくにん……乱れだ…とんでもない性の乱れを感じる…」

「何言ってんのこの女」

「いや、それは言葉のあやというか、出任せというか…」

「す、スゲェ、LRさんが完全に素になってる。流石陛下、スゲェ気迫だぜ‼」

「でまかせ?でまかせとはなんだ」

「ふぅー……『嘘』」

 

 翔が煙草をふかしながら答える。

 

「嘘?嘘だと?貴様俺に嘘をついたのか⁈」

 

 伽楼羅はLRの胸ぐらをつかみあげる。

 

「いや、ありがたく使わせていただきます」

「そうか」

 

 伽楼羅は手を放す。

 

「貴様に最もふさわしい名だ。この王ガルーダから直々に名を与えられたことを誇りに思え射精丸よ」

「ああ、嘘なんだ。よかったぁ~この国はまだ歪んでない!」

「もう十分歪んでると思うけど」

「鳳さんは女性の方からお誘い来たりとかしてないんですか?」
「あ?」

「イブの夜なんだから、本当は女性からのお誘いがいっぱいあったんじゃないんですか?」

「なんで」

「ほら、鳳さんって雑誌とかでモデルやったりしてるじゃないですか。だからファンの方たちからのメールとかたくさん来てるんじゃないかな~と思いまして」

「ああはいはい、どんだけ来たんだろねー。めんどくせーから三桁超えた時点でぜんぶ着拒したわ」

「さ、さんけた……」

「んまぁ自業自得っつうことで…あれ?」

 

 バニィDが膝を床につけて落ち込んでいるLRの肩をたたき慰める。

 

「俺もう町中歩けねぇよ……」

「落ち込み用ハンパないんスけど」

「伽楼羅ぁ~突っ立ってないでそろそろパーティ始めよ。もうちょいでライターのオイル切れそうだから」

「フェニックス、姫の前でタバコを吸うなと申しておろうが!貴様グレタガルドを滅ぼす気か」

「ああゴメンゴメン」

「成田っち~早く食べないと肉とか冷めちゃうよ~ん」

「ぬ、それはいかん。よく聞け者ども!この方をどなたと心得る」

「伽楼羅さん水戸黄門じゃないんですから」

「だいたいのことはもう話してるから、簡単な自己紹介でいいよ」

「然様か、では…」

「伽楼羅が言ったんじゃ自己紹介になんないよ。お姫様の方から頼むよ」

「あっはい。えーっと…本日から伊丹伽楼羅さんと正式にお付き合いさせていただくことになりました、林田美咲と言います。不束者ですがどうぞよろしくお願いします!」

 

 YFB一同が歓声を上げる。

 

「は~い、ここで質問コーナー。お姫様に聞きたいことあるやつ挙手」

「はい!」

「えっと、お名前は…」

「森里和馬です」

「じゃあ森里さんどうぞ」

「お2人はいつどこでどのように知り合ったんですか?」

「はい、私と伽楼羅さんは3日前に学校の近くの図書館で…」

「運命的な出会いをしました。ですよね?」

「ああ、まぁそうですね!」

「その時どんな気持ちでしたか?」

「そりゃあもうずっと好きだった人に声をかけられたんだからうれしいじゃないですかぁ…でゅふふ」

「いつプロポーズされたんですか?」

「初対面でいきなりでした…しかも結婚を前提に…あ~夢みたいでした」

「じゃあその時の気持ちを!」

「和馬質問多い」

「あっ、すんません」

「じゃあ次、他に誰かいる?」

「はい!はいは~い‼」

「はいバニィ」

「隼人先輩に告白されたとき、どんな気持ちだったんスか?」

「あっ!それ俺が聞こうとしてたことじゃねぇかパクんなよな!」

「アァ?何言っちゃってんのこのウザロン毛」

「ウザくねぇよ!お前こそそのハナピウゼェンだよ!」

「あ、あの……」

「弛んでおるわ‼」

 

 伽楼羅の怒鳴り声にその場が静まり返る。

 

「貴様らどいつもこいつも皆弛み切っておる。見ろ、姫にこんな顔をさせたのはどこのどいつだ!今日は姫に楽しんでいただく日。貴様らにパーティーの用意をさせたのは何のためだと思っている!いつから我が軍は客人1人まともに接待できんほど情けなくなったのだ。パーティに浮かれはしゃぎ喚く貴様らはただの鶏だ!…このコーナーは中止とする、早急にパーティーを開始せよ」

「じゃあ最後は俺に質問させてよ」

「よかろう、申してみよフェニックス」

「お姫様は伽楼羅のどんなとこに惚れたの?」

「へっ?」

「鷹志じゃないよ、伽楼羅のこと」

「ですよねー…えっと…」

「全部好きだから分かんないとかいう適当なのは禁止ね」

「おいフェニックス!」

「大事なことだから聞かせてよ。ズバリ言ってくんなきゃ、伽楼羅の親友として俺はこの子を信用できない。勿論、鷹志と同一人物だからとかだったらその時点でアウトだから。それじゃあ伽楼羅は鷹志の代わりってことになっちゃうじゃん。そんなの伽楼羅が可哀想だ」

「……」

「答えられないのかい?言っとくけど、他の相手のこと考えてるやつに、人と付き合う資格ねえから。本気で伽楼羅と付き合いたいんなら、鷹志のこと忘れろ。どうなんだお姫様、いや…玉泉の友達の『林田』」

 

 翔は右手を研ぎ澄ます。

 

「き、貴様姫に何を⁈」

「今から5秒数える。それ以内に言葉が浮かんでこなかったら…お前の首搔き切る」

「……⁈」

「なっ…⁈」

「ご、5秒って…」

「考える暇もねぇじゃん!」

「理由もなしに付き合って俺の一番のダチをたぶらかしてる尻軽女に、生きてる意味ねえだろ」

「や、止めろフェニックス!止めてくれ‼」

「5…4…3…2…1…ぜ(ry」

「私は、私のことを本当に大切に思ってくれる人の為に人生を捧げたいと思っています!羽田先輩には渡来明日香さんが一番大切な人であり、自分のことを誰よりも分かってくれる唯一の希望だったんだと思います。私はあの人のことを何も分かってなかったにわかでした。あの人が心の弱い人だなんて知らずに、只々憧れの眼差しでばかり見て、あの人の本質を見抜こうともしていませんでした。自分が羽田先輩と言葉を交わすことすらできないのを神様のせいにして、被害妄想してストーカーして…最低ですよ私は。伽楼羅さんにお逢いしてから、そんな自分が愚かしく思えてきました。考えてもみれば、あの日羽田先輩が私に傘をくださったことも、誰にでも優しくできる羽田先輩の通常営業に過ぎなかったはずです。伽楼羅さんからの熱いアプローチに比べれば、そんなモノいずれ忘れ去っていく思い出の一部に過ぎません。羽田先輩にとって渡来さんが唯一の希望なら、私にとっては伽楼羅さんが最後の希望です!」

「もし、伽楼羅がまた他のやつに変わったらどうする」

「それも覚悟はできています。皆さんが羽田ヨージさんから生まれた別人格で同じ一人の人間だということも知っています。全ての人格を受け入れられないようでは真にその人を愛しているとは言えないはずです」

「冷てェじゃねぇか…」

「えっ…?」

「伽楼羅のことが本当に大事なら、伽楼羅だけを愛してやれよ。他のやつらの存在なんか否定しろよ。アイツがこのクソ長い時間奈落に幽閉されるハメになったのは誰のせいだと思ってんだ。伽楼羅に逢えて嬉しかったんなら、伽楼羅が最後の希望なら、伽楼羅だけの女になってやれよ…。じゃねぇと…伽楼羅がいたたまれねぇじゃんか」

 

 翔は腕を降ろす。

 

「伽楼羅、1発殴ってくんない?」

「言われずとも…」

 

 伽楼羅は翔を殴り飛ばした。

 

「鳳さん‼」

「皇帝‼」

「次はないぞ」

「そけだけ?他にもたくさん言うことあるでしょ、伽楼羅の大事な人殺そうとしてたんだから」

「死しても尚余りある!」

「だよね…」

「いづれ訪れるであろう大いなる聖戦には貴様の力が必ず必要となる。そこで我と姫への忠誠の証を示してみよ!」

「大いなる…聖戦?」


 重いプロローグとなってしまったが無事パーティは開会された。
 伽楼羅は真剣に『美味しい大人の食べ方』の本を読んでいる。

 

「伽楼羅さん、何読んでるんです?」
「口移しがしたい」
「へっ?」
「せっかく姫とお食事をさせていただくというので、男女のコミニュケーションを養う食べ方を調べたところ、そのような方法が上がってきました。姫、口移しとは何かご存知ですか?できればこの場で私に披露していただけませんか」
「ああ、あの、よろしいんですか?」
「ん?何か危険を伴う食べ方なのですか?でしたら別に結構ですが」
「や、やります!やらせていただきます!」

 

 美咲はスプーンでプリンをすくい…

 

「はい、アーン…♡」
「アーン」

 

 美咲が伽楼羅の口元までプリンを運び、食べさせる。

 

「ど、どどどうですか?」
「うむ、このカラメルと呼ばれるダークマターのような部分がこんなに甘く美味だとは思いませんでした」
「いえ、プリンのお味ではなくて…あの…口移しというものはお分かりいただけました?」
「ああそうでしたな。口移しとは女性に口まで食べ物を運んでもらう食べ方なのですね」
「ま、まぁそゆことです。よくお母さんが小さい子にしたりしてますけど、私たちぐらいの男女だと求愛の行動になりますよね」

「ほぅ、姫は既にいずれ生まれるであろう我が子のことを考えておいででしたか」

「い、いえ!決してそんなつもりでは……」

「ではまず名を考えなければなりませんな。私の後を継ぎ3代目国王となるのだから立派な名を授けなければ。んー…国にとってただ一つの輝きになってほしいという願いを込めて『ベヌー』と名付けるのはどうでしょうか」

「カッコイイけど日本人名に訳しがたい名前ですね」

「『伊丹邊怒鵜』という表記になりますな」

「あっ、案外悪くないですね。女の子の場合はどうします?」

「そちらは美咲様にお任せします。もっとも、私の屈強な遺伝子から誕生する子は男と定められているでしょうが」

 

 2人はその後も口移しをしながら食事を楽しんでいたが、その行動がバニィの目に止まってしまった。

 

「はい、アーン♡」

「アーン」

バニィ「あっ、二人ともいいっスねぇ!んじゃ俺も、アーン……グモッ?」

 

 バニィの口に大きなメロンが挿入された。

 

「雑兵の分際で姫から施しを受けようなど頭が高いわ!」

「伽楼羅さんって個性的なお友達が多いんですね」

「そうそう、伽楼羅ってさぁ、ホント、ロクな友達いないよね」

「貴様も含めてな。おい者ども、この場を盛り上げよ、我と姫に賛歌を捧げるのだ!」

「オオオオオオオオオオオオオオオオオオおおおおおおおおおおおおおおおおおおーーーーッ?」

 

 大盛り上がりで大暴れのパーティは1時間後に幕を閉じた。

「姫、お乗りください。私が城まで安全に送り届けましょう」

「運転すんの俺なんだけど」

「ああ、だいじょぶです。駅まで送っていただけたら後は自分で帰れますので」

「何を仰いますか姫。か弱いレディが夜一人で出歩くなど危険極まりません。ましてや貴女はグレタガルドの最有力妃候補。主人である私が護らないでどうするというのです」

「あはは…そうですね。じゃあ今日は暗いのでタクシーに乗って帰ります」

「どうせ馬車を利用するのでしたらやはり私が直接城までお連れした方が得策かと思われますが」

「でも伽楼羅、お前んとこのお姫様から早く帰って来いって言われてんでしょ?」

「し、しまった!もうこんな時間ではないか」

「やっぱり伽楼羅さんは家にお戻りになった方がいいです。妹さんが心配しますよ」

「どうやらそのようですね…せっかくなので姫のご両親にご挨拶をさせていただこうと考えていたのですが」

「あぁ、父も母もお仕事が忙しくてお家にいないし、私、高校に入ってからは一人暮らしなので…」

「美咲様のご両親はどこの方なのです?」

「はっ、私です?父も母もこっち地元ですけど」

「なるほど」

(私はプリンセス・リンダ自身のことは覚えているのだが、彼女のご両親については全く記憶にない。王位継承者である姫のご両親なのだからライトエメラルド王家の前国王と女王なのだろうが…)

「えっ、なんでです?」

「いえ、特にこれといった理由は。しかし、姫の現世でのご両親が旧グレタガルド出身であったとは驚きました。やはり先祖代々さぞご立派な家柄であったのでしょう。カッコイイとはこのような時に使うのでしょうか」

「そんなものです?前にも家政婦さんに言われたことありますけど、べつに普通ですよ?」

 

 家政婦(かせいふ)とは、家庭における家事を補助・代行する職業であり、またその仕事を行う女性のことを指す日本国内での呼称である。 一概にお手伝いさんとも呼ばれるらしい。

 

(だがそんな者はいて当たり前のこと。姫の城には他にも幾千の翼人兵たちが護りを固めていて、外部から内部に侵入することはほぼ不可能と言った鉄壁の布陣。私が姫の城に攻め入った時は一体どれほどの兵が犠牲になったことだろうか…。)

「ふひひひ」

「ん、姫……?」

「いえ、なんでも。ぷふふふ」

「なんでもない方は、くねくねして奇妙な笑い声を上げたりはしないと思われますが。何をそんなに笑っておられるのですか?」

「ええー、それ聞きます?」

 

 美咲はおよそ話したそうに身をのり出す。

 

「だってだってだって嬉しいじゃないですかあ!だってぇー、私でゅふふふふ」

「なんか懐かしいね、小学くらいまでは、そういうキメェしゃべり方するやつ教室にいっぱいいた気がする。楽しい嬉しいっていう素直な感情を、理性や作法でラッピングすることなく、採れたてホヤホヤのまま産地直送する喋り方。けどガキが思春期終わるぐらまでには自然と脱ぎ捨ててく喋り方。俺らがどっかに置いてきたものを、その子はまだ失ってないんじゃないかな」

「だって伽楼羅さんが格好いいなんて言うから急に私シティーガールなんだって思えてきちゃってでゅふふふふ」

「やっぱその笑い方キメェ。つうかシティーガールとか泥臭ェ横文字、大抵の奴が思う格好いいとニュアンス違うと思う」

 

 ゴツン!伽楼羅が翔にゲンコツをした。

 

「痛ってぇ…」

「口を慎めフェニックス!」

「何も殴んなくたっていいじゃん…」

「ふふふ……私、今日、初めて自分が柳木原生まれでやったーって思いました。きゃー、お父さんありがとー!」

「ったく、さっきから伽楼羅に美しいだとか可愛いだとか言われてる癖になんで格好いいとか言われた方がテンション上がってんの」

「姫に喜んでいただけたならそれに勝るものはあるまい」

「そういうもんなの?こんなんで喜べるとかこの子どんだけ燃費いいの」

「だって嬉しいですもんふひひひ」

「そうなの。すんごい顔してるね」

「顔に苦情来た!」

「ああいいよその顔、面白いねキミ」

 

 ゴツン!再び伽楼羅が翔にゲンコツをした。

 

翔「痛ってぇ…」

「姫で遊ぶな!」

「だから殴んなくたっていいじゃん…」

「ふふふ、今日はお母さんにもスペシャルなお赤飯をお供えしちゃおーっと♪」

(むおんむおん、美咲様が機嫌良さそうで何よりだ。)

「あのっ!今度は私が伺ってもいいです?」

 

 美咲は胸の中で拝むように手を合わせた。

 

「なんでしょうか、何なりとお聞きください」

「私も伽楼羅さんのご実家について知りたいです」

「私の城?それでしたらもう既に申し上げたとおり…」

「グレタガルドじゃなくて、こっちの世界のこと言ってんじゃない?」

「ああ…」

「あまり気進まないでしょ」

「えっ?」

「キミにはまだ言ってないようだから一応教えとくんだけどね、俺たち結構悲惨な少年時代過ごしてんの。だからあんま野暮な質問は止めときなよ」

伽楼羅「いいや、美咲様には知っておいてもらわねばならぬことかもしれん。それに先に聞いたのはこちらだ、答えないのも不義理であろう。ですが、さして面白くもない町ですね。田んぼや団地と呼ばれる…田舎じみた農業物しかありませんので」

「田んぼ!ザリガニ釣りです!?」

伽楼羅「弟たちの記憶では、そのようなものはあったかもしれません。やたら赤々としてて芸術的に強そうな個体はマッカチンと呼ばれていて、それを漁り慣れている者が偉いという風潮があったそうな…。しかし田畑の兄ちゃんという昭和の漫画に出てくるようなガキ大将がいて、年下の手柄を横取りして…。まぁほとんど弟たちの記憶なので私自身はまったく詳しい事は分かりませんが、そのような、あふれた田舎町であったと」

「ふふっ、埼玉は田舎じゃないと思いますけど」

「そうは言っても、都会か田舎かって言ったら後者でしょ。てか、伽楼羅の実家が『そこ』ってことまだ言ってなくね?」

美咲「あ……」

「グッ……お、おのれ…心の深淵まで封じ込めていた忌まわしき記憶が!」

「伽楼羅?」

 

 伽楼羅は必死に美咲の姿を目に灼きつけて感情を抑え込む。

 美咲は心配そうな顔で伽楼羅を見つめていた。

 

「はぁ…はぁはぁ…はあ……。…私は何の話をしていたのでしょう?」

「えっ?」

「伽楼羅の実家のこと。んで、伽楼羅がまだ『そこ』だって言った覚えもないはずなのにその子が場所を知ってるってこと」

「ここ数年の間、あの呪われそうな地名を口にした覚えなどない。」

(まさか…これがプリンセス・リンダの能力だというのか。)

「い」

「い?」

「言いましたーー…たぶん(小声)」

(美咲様は良きにつけ悪しきにつけ、感情が行動に即座に反映されてしまう私と同じで、感情が顔にでしまう方だ。盛大な過ちを大胆な嘘で偽っている顔にしか見えない。)

「本当なのですか?」

「お」

「お?」

「おっしゃってましたーー…ような気がしませんか?(小声)」

「はて……」

(質問に質問で返すのは、答えに窮している証拠なのではなかろうか。)

 

 伽楼羅が美咲の髪を優しく撫でる。

 

「……?」

「姫、そんな心配そうな顔をなさらないでください。私が貴女のことを責めているわけではないことぐらい、お分かりいただけるはずです」

「ほ、ほんとです……?」

伽楼羅「勿論です、貴女には悲しみの涙など流してほしくありません。貴女の今にも泣きだしそうなお顔を見ていると、敵の攻撃を受けたときよりも胸が痛みます。単純に、姫の能力によるものである可能性が高いので仕方のない事でしょう」

「す、すみません、調べました……」

「ぬ?」

「前に委員会の仕事で……データの整理をしているときに……その、ちらっと目に入ってしまいまして……」

「データで私のことを知ってもらうというのは気に入りませんな…」

「あぁ…それは…その……」

 

 美咲の目からは今にも涙がこぼれだしそうになっていた。

 

「私のことは、私から美咲様への直接のアプローチによって知っていただかなければ意味がありません」

 

 美咲はいつの間にか伽楼羅に抱きしめられていたことに気付く。

 伽楼羅は美咲の零れそうな泪を指でそっと拭う。

 

「美咲様、貴女との初めてのデート。とても充実した時間でした」

「私の方こそ…貴方とデートができて、その上こんなに優しくしていただいて、本当に幸せです」

「美咲様……本当なら、もう二度と貴女を離したくない。今日一日の別れさえも、辛いのです…」

「同じ学校なんだからいつでも会えるじゃん」

「フェニックス、雰囲気を壊すな!」

「いちゃいちゃすんなら、続きは車ん中でやってよ」


 
「朝の記憶」
 
「昼の記憶」
 
「夜の記憶」
 
「王の記憶……あと一つ足りない。だが、お前たちは永遠に私に辿り着くことはできない。いづれ分かる日が来るだろう、お前たちは、支配される存在であったことを」