下界の桜が散り始める頃、箱根仙石原・長安寺では、ひときわ優美な枝垂れ桜が満開を迎える。
この桜は「こいさくら」と呼ばれている。
かつて、境内の池で多くの鯉が命を落とした際、その亡骸をこの桜の根元に埋めたところ、
やがて健やかに育ち、堂々たる姿へと成長した――
そんな言い伝えが残されている。
今年もまた、その圧倒的な存在感と美しさを、静かに味わうことができた。
渋沢栄一財団機関誌、『青淵』4月号の表紙を担当させて頂きました。
「自然との対話” 松田町寄集落の枝垂れ桜」
神奈川県松田町寄集落。町の中心を流れる中津川のせせらぎに抱かれたこの地は、長閑な風景と豊かな自然が凝縮された、知る人ぞ知る癒しの隠れ里。昼間はやわらかな陽光に包まれ、桜の季節には川沿いの枝垂れ桜が咲き誇り、里山を淡い桃色に染め上げる。
そして夜——静寂が深まるころ、樹々にそっと灯された光が、新たな物語を描き出す。闇の中に浮かび上がる幹の力強さ、枝先の繊細な揺らぎ。光は自然を飾るのではなく、その息遣いをすくい上げ、対話するように輪郭を照らす。川面に映る幻想的な影までもがひとつの作品となり、私の心を静かに解きほぐしていく。
見慣れた里山が、光によってもうひとつの表情を宿す瞬間——ここにしかない、静謐で魅惑的な世界が広がっている。
https://www.shibusawa.or.jp/outline/seien/92520264.html
ギャラリーNEW新九郎で開催されている、安藤沙羅さんの個展を訪れました。
福島県の豊かな自然の中で育ち、彫刻家の背中を見ながら創作に親しんできた安藤さんは、2011年3月11日の東日本大震災を機に奈良へ拠点を移し、現在は日本画家として精力的に活動を続けています。
本展のテーマは「TINY VOICE」。
日常の中にあるささやかな時間や、見過ごしてしまいそうな一瞬——そこに宿る穏やかな幸福や静かな感動を、丁寧にすくい上げるように制作してきたと語ります。
慌ただしい日々の喧騒を離れ、この空間に身を置くと、安藤さんの描く世界に静かに引き込まれ、時の流れとともに心がほどけていくような感覚に包まれます。
家に現れた猫たちの姿は、やわらかな色調の中で安らぎに満ちた表情をたたえ、観る者の心を穏やかにします。また、身近な植物や動物たちの描写からは、彼女がそれらと向き合う幸福な時間までもが伝わってくるようです。
会期は3月30日まで。
ぜひ、安藤沙羅さんが紡ぐ、静かな安らぎに満ちた日本画の世界をご体感ください。
会場
ギャラリーNEW新九郎
〒250-0872 神奈川県小田原市中里208
ダイナシティウエスト4F
https://www.dynacity.jp/shop/detail/156
新作含む37点を展示予定