役者は、芝居の他に


イベントMC


という仕事を振られることがある。


イベント会場で、ヘッドマイクを付け

笑顔で商品の説明をする

いわゆる、アレである。


これは、15年以上も前に

三上が、はじめてMCをやった時に起った

恐怖の体験談である。


30歳になるとか、ならないとか

そんな頃だったと思う。


劇団に入り

小劇場にバリバリ立っていた。


ある日

劇団関係者から、MCの仕事の話がきた。


特に興味はなかったので

断ろうと思ったが

劇団員には珍しい高額のギャラに


割りの良いバイト


として、やることにした。


金に目が眩むと、ロクな事はない


それが、世間の相場だが


この時の三上は、まだ知る由もない。


採用前に面接があったが

当時の三上は、今では想像できないくらい

誠実さが前面に出ていたので

ラクラク採用。


クライアントの方と


当日、よろしくお願いします!


と固い握手を交わした。


三上がMCを担当するブースは

業者向けに巨大な印刷機のプレゼンをする

ブースだった。


後日、専門用語が

これでもか!ってくらい書かれた

原稿が送られてきた。


見たことも聞いたこともない用語の

オンパレードに、読んでいても


なんのこっちゃ分からん⁇


意味が分からないことを説明できるのか?


と若干の不安を覚えたが、そこは三上


まぁ、なんとかなるか!


と、楽観視していた。


そのイベントは、3日間行われる。


男女ペアーの、2組のMCが

1日6ステージを交代で行う。


会場は、東京ビックサイト


巨大なイベントスペースだ。


前日のリハーサル。


あまりの規模の大きさに

若干ビビりながらブースに入った。


誰なんだか分からないスーツ姿の

クライアント陣が大勢いる中で

リハーサルがはじまった。


まずは、もう1組のMCから。


ベテランのようで、トントン拍子に

進んでいる。


MC初体験の三上は


なるほど、そういう感じに喋るんだ!


と、袖から聞き耳を立てる。


雰囲気を見ようと表に回り見てみると


なんとビックリ⁉︎


喋っているMCの手には、原稿がない。


あら⁈

これ覚えなきゃいけないの⁇


考えてみれば、そうなのだが

なんせ初MCなので

すっかり原稿を見ながらやるものだと

思い込んでいた。


ヤベェな〜


いや、大丈夫か…


いや、絶対にヤベェ!


慣れない言葉なので、噛まないようにと

読み込んではきたが、まったく覚えていない。


ワナワナ、ガクガク

そりゃ、もうパニックだ!


そうこうしているうちに

三上のリハーサルが、はじまる。


しれ〜と、原稿を持って出てみたが


原稿は置いてください!


すかさず、指摘を受ける。


ですよね〜


そこから、地獄のリハーサルがはじまった。


え〜と

え〜と

え〜と


一言も出てこない

変わりに出るのは、汗ばかり。


そりゃ、そうだ

だって、ビタ一文覚えていない。


ザワつくクライアント陣。


ため息を残し、次々と帰っていく

お偉いさん達。


三上、居残り練習決定。


現場担当の人にも呆れた顔され

何度も何度も繰り返す。


会場が閉まるギリギリまでやったが

まったくできない。


もう一度いうが

ビタ一文覚えてないんだもん!


担当者から


明日の朝イチで

もう一度リハーサルをしてできなかったら

もう1組のMCだけでいくから


これ以上、落ちないんじゃないかと

思うくらい肩を落としながら

会場をあとにした。


最大のピンチ!


翌朝のリハーサルまで、あと9時間


どうする⁈三上っ〜!


続く