『風雲之志』が終わり
落ち着いた頃だった。
これまで外組を支えてくれた
番頭 野村かおりが
自団体を立ち上げるために
外組を脱退した。
野村は現在 ABsun(アブサン)
という団体を立ち上げ、いくつもの
翻訳劇を上演している。
自分たちで稽古場を持つまでに
急成長させるあたりは、さすが野村だ。
譲にしろ、野村にしろ
外組を去ったあとの成長には感心する。
一方の外組はというと
座長 中野マサアキ
若頭 三上潤
船頭 ヒロキチ
世話役 吉田望
現在の4人体制になり、次公演の
準備に奔走していた。
外組特別番外公演
『刀が無いっ!』
キャスト六人の枠にとらわれない
特別公演。
特別というか
一般的な公演の形なのだけど。
六人でやってきた外組としては
ダブルキャストを含む総勢17名という
大所帯に戸惑いを隠せなかった。
台本は、吉田が以前から公演したいと
熱望していた作品。
新選組をモチーフにしたコメディ作品を
外組風にアレンジしてもらった。
稽古も今までのように
行き当たりバッタリでは無理だろうと
綿密にスケジュールを組んだ。
と思う。
それでも
「これ、間に合いますか?」
という声は、相変わらず聞こえ
「大丈夫だから!」
と相変わらず答えていた。
客演さんは若手から実力派と
個性派揃い。
とにかく稽古が楽しかったのを
覚えている。
稽古をずっとしていたいと思ったのは
はじめてだった。
芝居の不思議も体感した。
稽古に、一人の役者が二日酔いで
遅刻してきた。
その役者は
遅刻した時に怒られないようにと
不機嫌な感じを全面に出して稽古場に
入ってくるという技を持っている。
なかなかの強者だ。
名誉のために名前は出さないが
その役者には芝居に艶っぽさを出して
ほしいと要求していた。
何度稽古しても出てこなかった
艶っぽさが、その二日酔いの稽古では
滲み出ていた。
二日酔いの気怠さで演じているのが
なんとも艶っぽいのだ。
「それだ!本番中も
毎日、二日酔いで来てくれー」
と、庄田侑右に頼んだほどだった。
あ。
やろうと思ってもできないことが
思いもよらない感情や身体の変化で
できることがある。
芝居とは、実に不思議なものだ。
そんな芝居の魅力に取り憑かれた
ぼくらの挑戦は、まだまだ続くのである。
