池袋で一人暮らしをはじめた。 

ゆかり荘 桐の間
大家さんが、ゆかりおばあちゃん
分かりやすいネーミングだ。

2階の角部屋で、雨が降る日は
湿気で窓が開かなくなるという
なんとも趣きのある木造作り。

家賃2万円 
4畳半 
風呂なし 
共同便所 

役者を目指すには最適な部屋だ。 

引越しした日の事をよく覚えている。 

部屋の隅々まで、雑巾をかけ 
大家さんに深々と頭を下げて帰っていった 
母親の後姿が、今も忘れられない。 

はだか電球の揺れる部屋にひとりになった時 
これからはじまる生活への不安から涙した。  

泣いてんじゃねぇよ 
自分で決めたんじゃねぇかっ! 

自分で自分に喝を入れ、毛布にくるまった。 

お風呂は、銭湯が少し離れていたので
近所のコインランドリーにある
コインシャワーを利用した。

3分300円という高級コインシャワーだ。

最初は延長を余儀なくされるが 
シャワーに600円も使ってられん!

試行錯誤の結果、3回目には
近くの公園の水道で頭を濡らしてシャンプーを
しながらコインシャワーに行くという技で
持ち時間を1分余らすまでに成長する。

人間は環境に応じて進化できるものである。


さて、まずはバイト探し 
バイト雑誌を読み漁る。 

そこで見つけた「劇団木馬座 出演者募集!」

劇団⁈

出演して、お金が貰える? 

超ラッキーじゃん! 

ソッコー電話をかけ、面接してもらう。 

結果、合格。 

やったー!劇団木馬座なんて知らないけど 
よろしくお願いします! 

トントン拍子に初稽古 、演出家が言う

「では、海底に漂う昆布を演じてください」 

は? 

え? 

はっ⁇ 

演劇の奥深さを知る。 

おいおい
昆布って、まだ陸にもあがってねぇじゃんか 
こりゃあ、人を演じるまで何年かかんだ? 

三上、大きな不安に襲われる。 

劇団木馬座は児童向けぬいぐるみ劇団の老舗。 
着ぐるみを着て、声優さんの録音したセリフに 
合わせて演じる。 

初舞台でいただいた役は「子ブタ」でした。 

子供たちのアイドル、子ブタちゃんとして 
全国を飛び回った。 

はじめて演劇に触れ 
いろいろ経験させてもらった。 

 1年が過ぎた頃 

そういえば、顔を出してみたいな…
そういえば、セリフ喋ってみたいな…
  
もっと芝居がしてみたいと 
生意気ながらに、木馬座をあとにした。 

木馬座は、役者への最初の一歩。 
右も左も分からない若僧にご指導して頂き 
本当にありがとうございました! 

次なる勉強の場に移った。

劇団あすなろ養成所。

同時に池袋東武デパートの「高尾」 
という飲食店でバイトをはじめた。 

高校は高尾山の近く、バイトは「高尾」  
何か縁でもあるのだろうか? 

しかし
高校の先輩たちや「高尾」の先輩たちとは
今だに付き合いがあり 
芝居にも足を運んでくれ、応援してくれる。 

人の出会いと繋がりには、本当に感謝したい。 

バイト&養成所通いの生活がはじまった。 

養成所では新しく新設されたアクション科にも 
所属し、新たな勉強をはじめた。 

はじめてのアクション 

はじめての殺陣 

ワクワクしていた。 

しかし、このアクション科に所属したことが 
今後の役者人生を左右することになるとは …

この時の三上は、まだ知る由もない。