仕事を終えて事務所を出ると、外はまさかの暴風雨。


最寄りの駅までは走れば30秒もかからないのだが、この雨ではさすがに無理。


いったん事務所に戻り、ビニール傘を差して駅へ向かった。


が、10歩も歩かないうちに、ビニール傘は骨だけに。


意味もなく骨を頭上にかざし、とりあえず駅までたどり着いた。


家まではどうしよ・・・・。。そうだ!長男クンに車で迎えに来てもらおう。


というわけで、長男クンの携帯にメールをした。



 -もう家にいる?


すぐに返信があった。


 -まだ大学にいる。たぶん今日は帰らない。


がびーん。。。


 -事務所から駅まで歩くあいだに、傘が崩壊した。


とりあえず、状況を説明してみた。


 -えー、マジか。ごめん、俺は迎えにいけないけど、○○(次男クン)に迎えに来てもらいなよ。


・・・あれ?!なんか、今日の長男クン、やさしくないか?!


普段は家でもムスっとしてるし、メールも「そう」とか「飯いらない」とかそっけないのに。。。


いつもとは違う長男クンの心遣いに感謝しつつ、次男クンにメールをした。


 -そっちは雨降ってる? 傘壊れちゃったんだけど。


次男クンは、家でもいろんなことを話してくれる、我が家のムードメーカーである。


次男クンだったら、傘を持って駅まで迎えに来てくれる。



と、次男クンからの返信。


 -ふってない


そっけな。。。

日曜日。快晴、そして30度を超える暑さ。


不思議なもので、休みの日に自宅にいると、なぜか汗をかきたくなる。


仕事で事務所にいるときは、外になんて出たくない!って思うのに。



昼食を済ませたあと、財布と定期、そしてハンドタオルをジーパンのポケットに押し込んだ。


二駅となりの大型書店を目指して、ウォーキングを開始。


片道およそ45分。


距離はそれほどないが、起伏が激しい道程。


自宅を出て、15分ほどでTシャツは背中に貼りついた。



最後の難所。


緩やかだけど、長い上り坂。


アスファルトの歩道から、熱気がこみ上げてきて、息が苦しくなる。


思わず俯いて、足元を見ながら歩いてしまう。


俯くと喉が圧迫され、鼻の穴が自分の体側に向いてしまうので、余計に息ができなくなる。


苦しい。。。


顔を上げると、少し呼吸が楽になった。


・・・・ふむ。。。


苦しいときこそ、前を向かなきゃいけないのか。


苦しいからって下を向いちゃうと、余計に苦しくなるんだ。



目的地に到着。


自販機で水を買い、火照った体に一気に流しこむ。


結局、読みたい本は見つからず、往きとは別のルートで自宅へ向かって歩きはじめる。


タオルで汗を拭いながら、妻にメールをした。


 「ビール、キンキンに冷やしといてね!」

彼女が洗面所で髪を乾かしている。


彼女は背が低い。


でも、彼女を知らない人が、洗面所で髪を乾かす彼女を見ても、背が低いとは思わないだろう。


誰かが彼女の隣に、あるいは自分が彼女の隣に立って初めて、彼女が小柄であることに気付く。



私たちは、誰かと、あるいは何かと「比べる」ことで、その人を、あるいは自分を評価する。



「いい人」は、そうではない人と比較されることで、「いい」と評価される。


「仕事ができない人」は、そうではない人と比較されることで、「仕事ができない」と評価される。


「歌がうまい人」は、そうではない人と比較されることで、「歌がうまい」と評価される。


でも、その評価って、見ている側の、比較している側の評価でしかない。


「いい」 「わるい」 は別にしても、「背が低いからダメ」 「背が高いからイイ」 ということでもない。



ぼくの視線を感じたのだろうか、彼女がドライヤーを止め、ぼくのほうに顔を向けた。


「なに?!」 とはにかみながら、彼女が言う。


「別に」と、目を閉じながら、ぼくは答える。



彼女を後ろから抱き締め、少し背中を屈めて、彼女の小さな頭に顎をのせた。