自民党の考える「改憲」は、「昨日までの日本」の全否定である。 | 語り得ぬものについては沈黙しなければならない。

自民党の考える「改憲」は、「昨日までの日本」の全否定である。

参院選投票日まで一週間となった。

安倍晋三君は、改憲勢力(自公、おおさか維新、日本のこころ)で参院の三分の二以上を獲得して憲法改正に進もうとしている。

国民に向けては「景気回復」とか「アベノミクス」とか経済の話しかしないのだが、本音は改憲だ。

「自分の任期中に改憲を実現したい」と言い続けている安倍晋三君だが、 選挙戦で改憲の話をすると怖がる国民もいるので隠しているのだ。
(野党に追及されると、「改憲は自民党の党是です」とか、のらりくらりかわすが、 前回、前々回も選挙戦では経済を争点と見せかけておいて、結局何をしたかと言えば、メインイベントは秘密保護法であり、安保関連法の強行採決であった)

で。
各種調査を見ると、改憲勢力が三分の二というのはかなりマジにありえるという。
(たとえばhttp://go2senkyo.com/articles/2016/07/01/20783.html

すると、どんなことになるのか?
自民党の改憲草案(https://jimin.ncss.nifty.com/pdf/news/policy/130250_1.pdf)を見れば、彼らの企みがわかる。

結論から言うと、安倍晋三君たち自民党の考えている改憲とは、現行の日本国憲法をちょっと変えましょうというのではなく、 「昨日までの日本の全否定である。

現行の日本国憲法と自民党の改憲案を比べてみよう。

まずは前文。

【現行日本国憲法】
そもそも国政は、国民の厳粛な信託によるものであつて、 その権威は国民に由来し、その権力は国民の代表者がこれを行使し、その福利は国民がこれを享受する。


↑この部分が、自民党改憲草案ではごっそり削除されている。
「国政の権威が国民に由来し、福利は国民が享受する」というのが気にくわないのだろう。そのかわりに自民党改憲草案に加えられたのがこれ。

【自民党改憲草案】
日本国は、長い歴史と固有の文化を持ち、国民統合の象徴である天皇を戴(いただ)く国家


↑「戴く」というのがどんな事態を示しているのか不明瞭なのだが、 自民党改憲草案の第一章、第一条には「天皇は、日本国の元首」とはっきり書かれている。
戦後民主主義で明確に否定された大日本帝国憲法(第一章 第四条「天皇ハ国ノ元首ニシテ統治権ヲ総攬」)の文言を、自民党は堂々と復活させようとしているのだった。
ちなみに広辞苑によると「げん‐しゅ【元首】」とは、「一国を代表する資格をもった首長。君主国では君主、共和国では大統領あるいは最高機関の長など」である。

【自民党改憲草案】
日本国民は、国と郷土を誇りと気概を持って自ら守り


↑国防を国民の義務のように書いている。戦争になったら一億国民はすべからく、気概を持って総力戦で敵国と戦えと言いたいのか?

【自民党改憲草案】
和を尊び、家族や社会全体が互いに助け合って国家を形成する。


↑国民の道徳を書いている。
しかし、そもそも憲法は道徳ではない。ていうか憲法が道徳であってはならない
憲法とは、政治権力者の好き勝手を防ぐため、国民が政治権力者に課す義務であって、その逆、つまり国家が国民に課す義務ではない。 ここにお説教(道徳)の入る余地はない。

政治権力というのは制限を設けないと暴走する。だから、主権者たる国民が権力に対して、「お前たちがして良いのはここからここまでだ」と命令する。これが近代憲法だ。
そんな、「憲法は、国民が国家権力を縛るもの」という考え方は、民主主義国家なら万国共通である。
逆に、民主的ではない国家、たとえば中国の憲法は、国家権力が国民を縛るという内容になっている。

「国家」があまりにも好きな安倍晋三君は、日本でも中国のように、国の言うことを聞かない人を取り締まれるようにしたいのではないかな。 「俺は和を尊ぶのなんか御免被る」という「群れない人」を「非国民」とでも呼びたいのかな?

「家族は助けあおう」とは、一見良いことを言っているように見えるが、問題の本質はそこではない。 どんなに良いことであっても、個人の私生活に関する価値観に、国家が介入してはならないのだ。
世の中には「親が嫌い」「兄弟が嫌い」という人はごまんといる。そんな人の価値観も尊重されなくてはならないのが、民主主義と言うものなのである。

さて。

改憲というともっとも話題になるのが9条だが、今はそこは突っ込まない。
なぜかとうと、「9条を変えなければ改憲も良いんじゃない?」というような人が少なからずいるからだ。
問題は9条ではない。
9条も含め、自民党改憲草案は隅から隅まで倒錯していることだ。
「国民のための国家」ではなく、「国家のための国民」を理想としているのである。

【自民党改憲草案】
(国民の責務)
第十二条
この憲法が国民に保障する自由及び権利は、国民の不断の努力により、保持されなければならない。 国民は、これを濫用してはならず、自由及び権利には責任及び義務が伴うことを自覚し、常に公益及び公の秩序に反してはならない。


現行日本国憲法第十二条には書かれていない「義務」ということばの登場だ。
馬鹿言ってるんじゃない。
基本的人権には一切の義務は伴わない。ていうか、義務なんか関係なく、すべての人が生まれながらにして持つ権利こそが「基本的人権」である。
自民党改憲草案は基本的人権をまるで理解していない、もしくは根底から否定しているのだ。

【自民党改憲草案】
(人としての尊重等)
第十三条
全て国民は、人として尊重される。生命、自由及び幸福追求に対する国民の権利については、公益及び公の秩序に反しない限り、立法その他の国政の上で、最大限に尊重されなければならない。


こちらも同様。
基本的人権を「公益及び公の秩序」で縛っている。
現行日本国憲法でも 「生命、自由及び幸福追求に対する国民の権利については、公共の福祉に反しない限り、 立法その他の国政の上で、最大の尊重を必要とする」(第十三条)とされているが、ここで言う「公共の福祉に反しない限り」とは、「他の人の人権を侵害しないように」という意味である。 だからこそ、(「秩序」などではなく)「福祉」ということばを使っている。これは、国民の間の(個人と個人の)権利の衝突、という問題設定なのである。

ところが自民党改憲草案では「公の秩序」だ。そんな、「公権力が勝手に決められる線引き」で人権を制限するってどうよ?
「秩序に反する場合は人権を認めない」なんて、まるで北朝鮮じゃないか。

第二十一条(表現の自由)でも、自民党改憲草案にはしっかり

【自民党改憲草案】
公益及び公の秩序を害することを目的とした活動を行い、並びにそれを目的として結社をすることは、認められない。

と書いている。
何様のつもりなのだろう?
まさに、中国や北朝鮮がそうだ。反政府的な報道、ネットの書き込みまで「公の秩序を害す」として取り締まられる。 そういう国を理想としているようにしか考えられない。

で、そんなことを踏まえきちんと考えておきたいのがじつはここ。

【自民党改憲草案】 第十三条
全て国民は、人として尊重される。


【現行日本国憲法】 第十三条
すべて国民は、個人として尊重される。


変わんないじゃんと思う人もいるかもしれないけれど、「個人」を「人」と書き換えたことこそ、まさに自民党改憲草案の核心である。

「個人」というのは、もとは西欧の概念。
絶対君主の下、身分で人を差別していた封建社会から、人々の平等を前提とした民主社会に移行する大きな時代の流れの中で、 「個人(In-di-vid-u-al=これ以上分割できない存在=社会を構成する基本単位)」の概念が台頭したのだった。

それゆえ、「個人」の概念は「民主主義」の概念と密接に結びついている。
ていうか、「個人」の概念がなければ「民主主義」は成立しない。

大袈裟に言ってるんじゃないよ。
なにしろ憲法なのだから、ことばの使い方は一字一句までと~~~~っても大切だ。
自民党改憲草案がわざわざ「個人」ということばを削ったのは、 「正直言えば西欧の民主主義なんて否定したい」「国民よりも国家が大事」 という安倍晋三君たちの本音のあらわれなのではないか?

ナチスを彷彿とさせる自民党改憲草案「第九章 緊急事態」については、 前回のブログ(http://ameblo.jp/jun-kashima/entry-12175092898.html)で書いたので省略。

長くなっちゃったぜ。

最初に書いたように、安倍晋三君の考えている改憲とは、現行の日本国憲法をちょっと変えましょうというのではなく、「昨日までの日本の全否定」である。

戦争に関する9条問題だけではなく、戦後71年間、日本を支えてきた基本的な考え方、すなわち、基本的人権や民主主義、立憲主義の全否定なのである。

参院選でもしも自民党に勝たせてしまえば、国民が自ら、「昨日までの日本」を全否定したということになる。
棄権も同じだ。
なぜならば棄権とは、単なる白紙委任にほかならないからだ。

ついでに言うと、安倍晋三君は「アベノミクスをふかす」と馬鹿を言っている。景気が良くなら良いなあと思う人もいるかもしれないけれど、騙されてはいけないよ。

選挙戦で自公陣営はアベノミクスの成果をしきりに強調している。たとえば、雇用が増えたという。 確かに、全雇用者数で数えれば増えたが、その内実は、正規雇用が減り非正規雇用ばかり増えているのはご存知の通り。

安倍晋三君はなぜ、それを誇らしげにと言うのか?

答は簡単だ。
「国民のための国家」ではなく「国家のための国民」が彼の理想。一億総活躍して国家に奉仕するのが「美しい国」の姿だと思っているからだ。 だからこそ、雇用の「質」ではなく、「数」が大事なのである。
全国民が、たとえ「低賃金、重労働、不安定な仕事でも文句を言わずに国に尽くす」のが美徳だというわけ。

これもまた、改憲草案に通底する国家主義炸裂だ。

そういえばさ、この前英国の国民投票でEU離脱が決まったが、決定直後、 英国でのGoogleの検索ワード第1位は「EU離脱の意味は?(What does it mean to the EU?)」だった。これはまあわかるさ。でも第2位がすごい。
「EUって何?(What is the EU?)」
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おいおいみなさん、知らないで投票したのかよ…。

どうか、悔いの残らぬようよく考えて、そして必ず投票に行ってください。
日本もマジで、引き返せなくなります