帰ってきたヒトラー、安倍晋三 | 語り得ぬものについては沈黙しなければならない。

帰ってきたヒトラー、安倍晋三

日本では「大東亜戦争は正しかった」みたいな本が書店に並んでいたりするが、ドイツで「ヒトラーは正しかった」なんて口が裂けても言えない。彼の著作『我が闘争』はなんと戦後70年間(つまり去年まで)発禁本だったのである。
これはつまり、「ドイツはヒトラーを決して正当化しない」「彼のしたことについて(現在も)ドイツは国として責任を負い、謝罪を続ける」という明確な意思表示だ。国会で「あの戦争は間違っていたという認識はあるのか」と問いただされてもはっきり答えない安倍晋三君の態度とは大違いである。

いずれにしてもそんなドイツで、2012年に発表された小説が『帰ってきたヒトラー(Er ist wieder da)』であった。自殺したはずのヒトラーが現代にタイムスリップしてきたという話。
ここでヒトラーは単なる悪魔としては描かれてはいない。だから当然、激しい賛否両論が巻き起こったのだけれど、結局国内200万部を売り上げる大ベストセラーになった。

で、その映画化である。
http://gaga.ne.jp/hitlerisback/



2014年(小説では2012年)にタイムスリップしてきたヒトラーを、誰も本物だと思う人はいない。「変なコスプレおじさん」は、若者たちにバシャバシャ写真を撮られtwitterにアップされる。ベビーカーに子どもを乗せた若い女性に近づけば、唐辛子スプレーを吹き付けられる。
そんなヒトラーに出会ったのが、リストラされたテレビ局員。彼にしてみればヒトラーは「面白すぎるものまね芸人」だった。そこで、起死回生の企画としてテレビ局に持ち込んだら大ウケ。なにしろ本物なのだから決してブレない。首尾一貫してヒトラーはヒトラー的で、その時代錯誤ぶりはブラックジョークとして視聴者の笑いのツボにはまりまくる。こうして「お笑い芸人」ヒトラーはあっという間に人気者になったのだった。動画はyoutubeで無限に拡散され、やがて「彼はcoolだ」という声が上がってくる。

ね? 観たいでしょ?

映画として面白いのは、ヒトラー役の俳優が軍服を着てドイツ各地を回り市井の人々と話をするシーンが、ヤラセなしの取材映像でいくつも挿入されていることだ。本編で使われているyoutubeの動画が実際にyoutubeにアップされていたりもする。「映画」なのか「現実」なのかという区別を、あえて混乱させているのだ。
さらに、劇中劇の手法も取り入れられていて、「映画」なのか「映画の中の映画」なのかわからないシーンもある。

要するにこう言うことだ。
我々に見えている「現実」と、「ヒトラーが現代にタイムスリップしてきた」という「フィクション」、さらに「かつて、アドルフ・ヒトラーという人間がいて、人々は彼の狂気と扇動に載せられ、途方もない悲劇が生み出された」という「歴史的事実」。
これらに「境界」なんてないんだよ、地続きとして考えないといけないんだよ。
本作はそう訴える。

脚本的には、最後の20分くらいをもっと整理すべきかなあと思うのだけれど、それでも、この映画の怖さは、やっぱ君もあなたも観るべきだと思うよ。
(※ついでに言うと、『ヒトラー~最期の12日間~』のパロディというかオマージュシーンもあるよ。「総統閣下シリーズ」「アンポンタン」で有名な例のシーンだ(爆笑なので必見)。

で。
安倍晋三君である。

憲法改正を悲願とする安倍晋三君は、今度の選挙で自公、おおさか維新、日本のこころで参院三分の二以上の勢力を占めて改憲を目論んでいる。
とはいえ「9条を変えます」と言うとさすがに国民投票で否決されそうなので、まずは「緊急事態条項を作りましょう」。「震災などの時に内閣に権限を集中させる緊急事態条項が必要」だと言うのである。

なんとなくその通りだよなとか思ってはいけない。
安倍晋三君を支持する極右連中は「東日本大震災の時にはガソリン不足で緊急車両が出動できず、緊急事態条項があれば救えた命も救えなかった」などという大嘘をつくが、4/30のTBS『報道特集』では、岩手・宮城・福島の被災3県にある全36の消防本部へ取材。「燃料不足によって救急搬送できなかったという回答は一件もなかった」。
災害時の迅速な対応のために内閣へ権力集中なんて愚の骨頂。災害時こそ、上に縛られるのではなく、現場現場での臨機応変な対応が必要なのである。ていうか、そもそも憲法で論じることではなく、法律や条令で充分。
そんなことよりも大事なのは、自民党改憲草案の「緊急事態条項」とは、「独裁」条項にほかならないことだ。

というわけでまとめに入ろう。

今回のブログのタイトルは「帰ってきたヒトラー、安倍晋三」である。
もちろん、安倍晋三君は1945年からタイムスリップしてきたアドルフ・ヒトラーではない。しかし、自民党改憲草案の緊急事態条項を成立させてしまったら、安倍晋三君こそ「帰ってきたヒトラー」になりますよ、ということだ。

ナチス政権は、当時「世界一民主的」と言われたワイマール憲法下で合法的に成立した。ナチス・ヒトラーが行ってきたのは暴力そのものであったが、それらはすべて法的な手続きとしては瑕疵なく遂行されたのである。

どうしてそんなことができたのか?
ワイマール憲法第48条「国家緊急権」があったからだ。
ここには「公共の安全および秩序に著しい障害が生じ、またはそのおそれがあるとき」、大統領は基本的人権の全部または一部を停止することができると書かれている。
ヒトラーは「国家緊急権」を発動して人権を停止し、やがてワイマール憲法そのものも停止した。

問題なのは、自民党憲法草案(https://www.jimin.jp/policy/policy_topics/pdf/seisaku-109.pdf) の「第九章 緊急事態」が、ワイマール憲法第48条「国家緊急権」同様に、内閣総理大臣の独断で「緊急事態」を宣言でき、国家が基本的人権を停止することができるとすること。一応、「事前または事後に国会の承認を得なければならない」と言っているが、これはつまり「事後承認OK!」で、なおかつ「事後」の期限が明記されていない。緊急事態が発せられている間は内閣が「法律と同一の効力を有する政令」を勝手に制定できるのだから、言ってしまえば総理大臣の「好き放題」だ。

僕は、安倍晋三君は馬鹿で嘘つきなのでまったく信用ならぬと思っているのだけれど、安倍晋三君を支持する人にも言っておきたい。
もしも憲法にそんな条項が加えられ、その後いつか左派勢力が政権をとって「緊急事態」を発令したらどうすんの? 極左内閣のやりたい放題になるかもよ。

古舘伊知郎時代の「報道ステーション」は3月17日、いかにしてヒトラーが合法的に独裁政権を築き上げたのかを特集し、日本の放送界の最高権威とも言える「ギャラクシー賞」を受賞した。


「報道ステーション」  なぜ・・ワイマール憲法か...

これはちゃんと観たほうが良いよ。

「独裁」→「決断できる政治」
ヒトラーは、「独裁」を「決断できる政治」、「戦争の準備」を「平和と安全の確保」と言い換えた。

この国を軟弱ではなく強靱な国にしたいのだ
「この国を軟弱ではなく強靱な国にしたいのだ」

この道以外にない
「この道以外にない」

おや?
どっかで聞いたことがあるぞ。

自民党ポスター
↑参院選へ向けた自民党のポスターだ。(https://jimin.ncss.nifty.com/pdf/pamphlet/20160608_poster.pdf)

自民党憲法改正草案の緊急事態条項を読んだ、ドイツ、イエナ大学のミハエル・ドライアー教授はこう述べた。

イエナ大学のミハエル・ドライアー教授
「この内容はワイマール憲法48条(国家緊急権)を思い起こさせます」

1933年、首相に就任したヒトラーは国家緊急権を発動した。1941年にはユダヤ人大量虐殺が始まっていたとされる。
一時的にでも独裁を許せば、たった数年間でこういうことになる。

おっと、安倍晋三君のポスターに、髭を書くのを忘れたよ。