担当医の先生がカーテンを開けながら

 
「目覚めた?」と優しく声をかけてくれました。
 
緊急で全身麻酔の手術をしたから
血液の流れを足元までよくするためにマッサージ機をしばらくつけないといけないことを説明してくれました。
 
私は自分の身体のことなんてどうでもよくて
 
「赤ちゃんは?」と先生に尋ねる。
 
先生はゆっくりと
「赤ちゃんね、今すごく危険な状態」
 
私の頭の中で
「えっ?」と思考が止まる。
 
「緊急やったけどお母さんの手術は無事成功してるよ。」
 
「でも、赤ちゃんの容態が悪くて今日の夜が山かもしれないし、大丈夫だとしても2、3日もつかもわからない状態なんやわ。」と
 
私は、
 
何で?
NICUに入ってるのに何で?
もう9カ月にもなってるのに何で?
 
と頭の中が真っ白になりました。
 
 
 
先生に「赤ちゃんに会えますか?」と聞いたら
 
「お母さん、手術したとこやしほんまは安静にしなあかんのやけど赤ちゃんに会いたいよね。」
 
と、夜になれば会わせてあげると言ってもらえました。
 
「今、赤ちゃん、保育器の中で一生懸命頑張ってるからね。」と先生は優しく励ましてくれた。
 
 
でも、先生がいなくなったあと
私は涙が溢れて止まらなくなって
 
カーテンの向こうに他の患者さんがいるので
声を出してはいけないとがまんして
 
でも、涙と声が溢れて止まらなくて
 
声を押し殺すのに苦しかった。
 
 
 
 
 
夜になり
 
私は夫に車椅子を押してもらってNICUに入っている赤ちゃんに会いに行きました。
 
NICUの中でも一番奥の一番容態の危ない子がいる場所に私の赤ちゃんはいました。
 
保育器に入ってる赤ちゃんは
 
口には人口呼吸器の大きな管
それを留めるために頬には顔の半分を占めるくらいの大きなテープ
 
鼻からはミルクを飲む管
 
小さい細い手や足に太い点滴の針
 
お腹や胸に機械のセンサーをいくつも張り付けられていました。
 
今日の朝まで私のお腹の中にいた赤ちゃんが
目の前で
 
いっぱい管に繋がれている姿を見て
また涙が溢れました。
 
 
「赤ちゃん触ってあげて。」と先生が言ってくれました。
 
そんな、命に関わる非常に危険な状態の赤ちゃんだけど私の手で触っていいんだ。
 
 
保育器の穴から両手を入れて細い腕をそっと撫で
手の平を人さし指で握ってあげました。
 
 
すると今度は
 
「赤ちゃん抱っこしてあげる?」と言ってくれました。
 
もしかしたら今夜が最後になるかもしれないからと
 
いっぱい管に繋がれた赤ちゃんを
慎重に保育器の中から出して
 
車椅子に座ってる私の腕の中に抱っこさせてくれました。
 
もう今夜でお別れかもしれない。
 
妊娠がわかった時から8カ月
ずっと会えるのを楽しみに待っていた赤ちゃん
 
家で待ってる上の2人も
ずっと楽しみにしている。
 
会えないままさよならするのは
あまりにも急なことでまだ頭の中の整理が全くついてないけど
 
産まれてきて
少しの時間でも生きていた証を残してあげようと
 
その姿を夫に写真やビデオで撮ってもらいました。
 
 
赤ちゃんは、やっぱり女の子でした。
10カ月で産まれた上の2人より小さいけど
 
ちゃんと髪の毛も眉毛も生えて
 
手も足も五体満足
 
目はつむっていたので二重かはわからないけど
 
スッとした目尻のとても可愛い赤ちゃんでした。
 
 
 
赤ちゃんを抱っこしながら横で先生が
朝の手術後の赤ちゃんのことを説明してくれました。
 
 
お腹開けた時、赤ちゃんの身体と首に4重にも臍のをが巻きついてて血液が身体に回りにくくなってて心拍が非常に下がっていたこと
 
取り出した時は仮死状態やったこと
 
すぐに小児科の先生に心臓マッサージしてもらったけど、蘇生に20分かかったこと
 
自力で呼吸できるか様子を見たけど難しく
今は人口呼吸器をつけてること
 
脳に酸素が回ってない時間は三分が限度で
赤ちゃんは長い時間かかって蘇生してるから
脳に大きなダメージを受けてること
 
臨月の出産時に仮死で産まれる子がいて同じように蘇生するケースはあるけど
 
私の赤ちゃんの場合
まだ9カ月で、蘇生に時間がかかり過ぎたことで容態がどうなるかは予測できないこと
 
先生も、臍のをが4重も巻いて心拍下がった赤ちゃんを見たのは初めてだそうで
 
何とも言えない状態だということを伝えられました。
 
私はその話を聞き
 
昨晩、お腹の中で胎動を感じれなかったことを思い出し先生に話したら
 
「昨日の夜だったら間に合ったとか、それはわからないよ。」と言ってくれたけど
 
 
 
私は、あの時、夜にでも病院に来てたら
 
お昼に餃子なんか作ってたから
 
ゆっくり休んで胎動確認しなかったから
 
と、悔しくて悔しくて
 
 
 
一昨日の晩まで私のお腹を元気に蹴ってた赤ちゃんなのに
 
今は、口を開けて太い管を喉に差し込まれ
 
機械で動かされ上下する赤ちゃんのお腹を見てると
 
目の前の現実を受け入れられず
 
ごめんねと謝ることもできず
 
ただ、涙が溢れるばかりでした。