マッドマンは地獄で光る〜生きるために暴れる闘魂~/ゲイブ・キッド【俺達のプロレスラーDX】 | ジャスト日本のプロレス考察日誌

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俺達のプロレスラーDX
第217回 マッドマンは地獄で光る〜生きるために暴れる闘魂~/ゲイブ・キッド

 

 

 

日本の首都・東京のビルの屋上。
そこにひとりの外国人の姿があった。
屋上から下を見下ろす。
 
「もうこれで俺は楽になれる」
 
プロレスラーとしてもっと強くなるためにやってきた異国の地。そこで新日本プロレスのヤングライオンとして下積み生活を過ごしていたが、世界各国のコロナ禍に巻き込まれロックダウンしたことにより家族や友達にも会えず、孤独に耐え道場で掃除をして、ちゃんこを作ってトレーニングに励み、前座で先輩レスラーの軍門に下り続ける日々。
 
耐えがたきを耐え、忍び難きを忍んでヤングライオンとして生き続けた。だがそれも限界を迎えた。するといつの間にかビルの屋上にいた。この世からいなくなるために、いやそうじゃない。すべてから解放されるために…。
 
「だが、ちょっと待てよ。俺は何のために日本に来たのか。ここで死んだら俺を育ててくれた母が悲しむじゃないか。プロレスラーとしてもっと強くなるためじゃなかったのか⁈」
 
2021年、自殺を踏みとどまった彼は来日から1年半の道場生活を生と死の狭間で何とか耐え抜き、母国イギリスに帰国する。ゲイブリエル・キッド、この時24歳。男は地獄をさまよっていた…。
 
 
プロレスには多種多様な魅力がある。まるで日めくりカレンダーのように次から次へと魅力が変容していくカメレオンのようだ。私が考えるプロレスの素晴らしさや魅力とは、現代進行形と歴史探求 という二つの異なる学問を同時並行で学べることである。
 

アメリカの文化人類学者・マーガレット・ミードはこう言った。
 
「未来とは今である」

未来は今を積み重ねることで訪れる時間。 今現在が未来に繋がっている。未来とは今と過去にあるという意味だ。
 
一方で日本のファッションデザイナー・NIGOはこう言った。

「未来は過去にある」

新しいものが生まれてくるのが難しいと思ったときに、過去のものを見て未来を作る。それはすごくおもしろい循環であるという意味だ。
 
二人の言葉を踏まえると、未来のヒントは今と過去にある。プロレスとは今と過去をひとつのジャンルで楽しめる娯楽なのだ。
 

リアルタイムと歴史探求を同時に楽しめるプロレスという特異なジャンルの中でマニアからライトユーザーに至るまで「令和プロレス界の要注意人物」「今、最も目が離せないプロレスラー」がいる。
 
その男の名は、ゲイブ・キッド。あのゲイブリエル・キッドだ。
コロナ禍の中で生と死の狭間を耐え抜いたヤングライオンは今や新日本プロレスを代表する危険人物と化した。
 
ゲイブ・キッド、この男のレスラー人生はドラマがある。
 
 
 
 
 
ゲイブは1997年4月24日イギリス・ノッティンガムで生まれた。身長183cm 体重 90kg。得意技はレッグトラップ・パイルドライバー、マッドマンボム(ドクターボム)、 O-KNEE(オーニー)。


11歳の時に母国イギリスでプロレスを始め、2011年11月12日に14歳でデビューしている。デビュー後の数年間は年齢を隠すために覆面レスラーとして活動していた。
 
実はゲイブは「イギリスマット界の重鎮」マーティ・ジョーンズの教えを受けた男。マーティ・ジョーンズはビル・ロビンソンの弟子であり、ウィリアム・リーガルの師匠。「蛇の穴」ビリー・ライレー・ジム出身でキャッチ・アズ・キャッチ・キャンを学んだ筋金入りのランカシャー・スタイルのレスラーである。現在はマンチェスターでレスリングスクールを運営して後進の育成を行っている。ちなみにゲイブは新日本初勝利を挙げた決まり手がダブルアーム・スープレックス。試合後にビル・ロビンソンとマーティー・ジョーンズの名前を挙げ、「俺の原点が勝利をもたらしてくれた」と語っている。
 
そこからゲイブはヨーロッパのWCPW(ディファイアント・レスリング)とレボリューションプロレスでプロレスラーとしての経験を積んでいく。
 
WCPW時代には今やWWEのスーパースターであるコーディ・ローデスが保持するWCPWインターネット王座に挑戦。ジョー・ヘンドリーとのトリプルスレッドでコーディからインサイドクレイドルで勝利し、新王者となっている。
 
WCPWでのゲイブの試合をいくつか拝見したが、本当に典型的なグリーンボーイで、試合でまんべんなく器用にこなしていた。それと現在は強靭な肉体の鎧をまとうゲイブだが、この当時はビルドアップされていなくややぽっちゃりしている印象が強い。
 
現在は新日本プロレス最強外国人レスラーとして君臨するザック・セイバー・ジュニアとゲイブはWCPWインターネット王座をかけた対戦し、ゲイブが勝利しているが、その時も終始ザックが持ち前のテクニックで優勢だった。
 
そんな自分を変えようともがいていたゲイブはWCPWに遠征にきていた鈴木みのるとエル・デスペラードに志願してキャッチレスリングの指南を受け、30分のスパーリングを行ったことがあるという。

 

 

2019年6月29日、レボリューション・プロレスリングの興行に参戦したゲイブは6人タッグマッチに勝利した後に当時新日本プロレスLA道場コーチを務めていた柴田勝頼をリングに上げた。「強くなりたいなら俺について来い」と言う柴田と握手を交わし、LA道場生となった。

 

LA道場では後にBULLET CLUB WAR DOGSのメンバーとして行動を共にするアレックス・コグリン、クラーク・コナーズと出会う。WAR DOGSの絆はLA道場時代に育まれたものだった。

 

2020年に来日したゲイブは1月25日で新日本にデビューしている。タイガーマスクと組んでエル・ファンタズモ&石森太二と対戦して惜敗。試合後に「言い訳はしない。負けに理由なんてない。実力がないから負けたんだ。まだまだ実力不足。まだまだ…」と語った。

 

ここから世界はコロナ禍に突入する中でゲイブはヤングライオン道を歩んでいた。2020年9月23日に上村優也戦で新日本でのシングルマッチ初勝利。

 

試合では勇猛果敢に攻め、向上心を失わなかったゲイブだったが、2021年5月以降に精神的な不調により欠場していた。2021年10月17日のアメリカ・フィラデルフィア大会に姿を現したゲイブは涙ながらに今の心境を語った。

 

「皆にオレの本音を話したい。何百回、何千回と どう言ったらいいか考えていた。オレが言いたいことをわかってくれる人とオレが言いたいことをわかってくれない人もいるだろう。でも、これがオレの本音だ。言わせてもらう。どこで、どのように伝えるか悩んだ。でも本当に伝えたいことは変わらない。18ヵ月もの間、言葉のわからない国で、それもコロナ禍で暮らすのは大変だった。毎日、体力的にもメンタル的にもギリギリのところまで追い込まれていた。毎日だぞ。世界がロックダウンして、何もかも閉まってしまって。みんな、ステイホームしてネットフリックスを見て……。でも、オレはそれができなかった。オレは新日本の道場で修行していた。毎日だ。中には『お前は恵まれている』という人もいるかもしれない。でも、そのようなプレッシャーはだんだん重くなっていくんだ。そして5月……5月に……とうとう耐えられなくなった。ある日、街を歩いていたんだが耐えられなくなって、東京のビルの屋上でもう生きたくないと思ったんだ。屋上から地面を見て、ここから飛び降りたら全てが解決すると思った。オレの気持ち、悩み、すべてが消える、と。でも、その考えを止めてくれるものが2つあった。……一つはオレの母さんへの思い(涙ぐみながら)。そして、二つ目はプロレス! オレはプロレスにすべてをつぎ込んで、ずっと頑張って、ここでその人生を終わらせることができなかった。神に誓ってもいい。18ヵ月の間、家族と会えず、友だちにも会えない。毎日孤独の中 道場を掃除し、トレーニングをして、ちゃんこを作った。18ヵ月頑張った。18ヵ月もだ!」

「遠い国で年老いたオレのおばあちゃんがどうしてるか心配だった。テキストやフェイスタイムでしかおばあちゃんと連絡が取れなかった。……でも、踏ん張って、進み続けることができた。イギリスにやっと帰ることができて、この感情や新たな経験にたいしてモヤモヤしたまま悩んだ。でも“この瞬間”を何度も思い描いて、前に進めた。いつ、どこで、誰の前でかはわからなかったけど、オレはまた新日本のリングに立つ、ということを原動力に前に進めた」

「この一年はとても辛かったと思う。皆そうだった。辛い思いをしている人がいたら、聞いてくれ。オレも同じだった。でも一人で頑張ろうとするな。友達や家族、寄り添える人が必ずいる。誰かと話したければ、その人と話せばいいんだ。大丈夫だ。前に進もうぜ」

 

ゲイブのこの告白は生と死の狭間で苦しみ闘い続けた男だからこそ発することができる魂の本音だった。

 

 

2021年12月12日で復帰したゲイブはアメリカへと旅立つ。そして、2023年6月4日大阪城ホール大会でLA道場の盟友アレックス・コグリンと共にBULLET CLUB入り。そこからゲイブ・キッドと改名。同年7月4日後楽園ホール大会にてアレックス・コグリンとのコンビでSTRONG無差別級タッグ王座に輝いた。ゲイブはデビッド・フィンレー、ドリラ・モロニー、アレックス・コグリン、クラーク・コナーズとBULLET CLUB WAR DOGSを結成する。

 

 

BULLET CLUB入りしてからのゲイブは熱きテクニシャンからクレイジーファイターに変貌を遂げる。試合前には対戦相手の入場を襲い、試合でもひたすら殴って蹴って暴れる、凶器で殴るという暴走に終始する。制御不能、ブレーキの壊れた自動車という表現がピッタリかもしれない。

 

ゲイブは2024年に入ってからシングルプレイヤーとして注目を集めるようになる。2024年5月6日、『ALL TOGETHER』日本武道館大会メインイベント終了後、GHCヘビー級王者の清宮海斗を襲撃し遺恨抗争に突入。6月16日NOAH横浜BUNTAI大会にて決着戦となるGHCヘビー級選手権に挑んだが、清宮の変形シャイニング・ウィザードに沈んだが、5月11日オンタリオ大会にてエディ・キングストンの持つSTRONG無差別級王座に挑戦。ノーロープ、ノーDQルール、決着は10カウントノックアウトのみの過酷なルールのもと、流血交じりの死闘を制し第7代王者に輝く。

 

2024年のG1CLIMAXでは真っ向勝負と新日本への愛を口にするようになったゲイブに大歓声が送られるようになった。ヒールであるはずの彼に全国各地で「ゲイブ」コールが巻き起こるという異常現象。確かにゲイブはヒールだが、なぜか応援したくなる愛すべき人柄を人々は感じ取っているのかもしれない。

 

さて、ここからは私が考えるゲイブ・キッドの凄さと魅力について深堀りしていくことにしよう。

 

1.プロレスラーとしての技量と器量


「イギリスマット界の重鎮」マーティ・ジョーンズの教えを受けたゲイブには確かなレスリングテクニックを持ちながらも、試合ではそのテクニックをあまり開放しない。

 

清宮海斗とのGHC戦をテレビ中継で解説した「天才」武藤敬司が「コイツ技をひとつもやってない。パンチとキック、暴れただけで30分近く試合をやってるから凄いよ」と絶賛している。ゲイブは技を厳選しながら使い、「大暴走」というイメージを植えつけるインパクトを残す。また対戦相手も引き立てる受けの強さがある。しかもいざという時には器用なテクニックを出す。ゲイブの「技を出し惜しみする」試合運びが彼の技量と器量の象徴である。そこに真っ向勝負を信条としているのがゲイブの魅力だ。

 


2.全方位臨戦態勢のリングテロリスト


ゲイブはSNSで対戦相手にも関わらず気に入らない相手を攻撃するポストを次々と投稿している。海野翔太がかつて投稿した悔しさで泣き腫らした顔を映したポストもパロディしたり、団体間の交流のないWWEのザ・ロック、コーディ・ローデスも挑発。辻陽太がロバート秋山竜次に似ていると分かると嘲笑するようなポストを発射。また新日本アメリカ興行のために出演した情報番組のお天気コーナーにも乱入したこともある。いつ何時に何をしてくるのか分からないのがゲイブの魅力である。

 

またゲイブのファイトスタイルは「殴る、蹴る、暴れ倒す」という三原則で組み立てられている。殴打や蹴り方には相手に対する怒りや溢れる情念を感じてしまう。彼の暴走ファイトを見るとWWEアティチュード時代の”ストーンコールド”スティーブ・オースチンを思い起こされる。「気に食わない相手のケツを蹴り飛ばす」「誰にも媚びない無頼漢」という自身のキャラクターを変えないまま、ヒールからベビーフェースにいつの間にか転向したストーンコールドはまさにダークヒーロー。ゲイブはどのような道を歩むのか⁈

3.古き良き外国人を彷彿とさせる”アウトロー”感


「狂犬」ディック・マードック、「アーバン・カウボーイ」ボブ・オートン・ジュニア、「暴走狼」アドリアン・アドニス、「蒼き狼」バリー・ウィンダム、「喧嘩番長」ディック・スレーター、「人間魚雷」テリー・ゴディ…20世紀のプロレス界には素行不良でちゃらんぽらん、悪くて喧嘩が強いけど、プロレスが巧みなアウトローがたくさん存在していた。イギリス出身のゲイブからなぜかアメリカ南部の香りを身にまとった”アウトロー”の系譜を感じさせる。

 


4.新日本プロレスへの深い愛

 

ゲイブは新日本LA道場時代に柴田勝頼に指導を受け、コロナ禍の新日本野毛道場で鍛えられた新日本の蒼き獅子である。かつて「LA道場には、体型の崩れた少年として入門したが、柴田はその少年に何かを見出した」「柴田勝頼に勝たなければいけない」と語るほど柴田に対する思いは深い。ゲイブのプロレスには師匠・柴田を意識したアティチュードに包まれている。また「新日本が自分自身を真の男にしてくれた」「今が新日本の最盛期。本物が見たいなら新日本を見ろ」と語るほど新日本に対する愛も深い。
 

また2013年に結成されたBULLET CLUBは本来、新日本外国人レスラーの「俺たちこそ新日本だ!俺たちはここにいる!もっと上で闘いたい!」という野心も元で誕生した。その後に在籍するレスラーの多くは外国人。新日本で、プロレス界で成功を収めるための航海船として彼らはBULLET CLUBにジョインする。これまでリーダーを務めたのはAJスタイルズ、ケニー・オメガ以外は新日本道場で鍛錬を積んだ叩き上げの男たち。「NJPWボーイズの血族」ともいえるBULLET CLUBのメンバーになったのはゲイブの運命だった。そして、ゲイブはBULLET CLUB内で気に入らないレスラー(特にHOUSE OF TORTURE)に対して容赦なく攻撃を繰り返している。

 
海外でのインタビューでも傍若無人なコメントを残すも新日本への愛を語るゲイブ。
 
「本物が見たいなら、新日本プロレスを見に来てくれ。俺のチーム、俺が代表するものがここにある。最高のレスラーたちがここにいる。みんな、最高の選手がどこで戦うかを話しているよね。最高の選手が集まる場所に俺がいるのは当たり前。なぜなら、俺は最高だから。俺はバカどもをぶん殴る」
 
新日本への愛を言葉と試合で証明し続けることでファンの絶大な支持を集めているゲイブ。この現状を本人は望んでいるのかどうかは本当のところはわからない。だが自然発生的にダークヒーローになってしまっていることは否定できない。もしかしたら時代の要請なのかもしれない。
 
 
日本で最も成功した外国人レスラーの代表格は「不沈艦」スタン・ハンセン。新日本と全日本を主戦場に四半世紀に渡りトップレスラーとして活躍し、輝かしい実績を残してきたハンセンは2001年1月に東京ドームで引退セレモニーを行っている。実はハンセンも暴走カウボーイというキャラクターをずっと変えずにプロレス界で活躍してきた。スタン・ハンセン以来のビンタのうまい外国人レスラーであるゲイブが今後、どのような選択をするのか、ずっと日本に残るのか⁈
 
答えはネバー・セイ・ネバー(絶対にないとは言えない)ではないだろうか。
 

かつて「日本は俺の家」「ずっと日本で闘う」と言っていた外国人の大物選手が本当にその通りの選択をしたケースは少ない。個人的には今のプロレス界の現状、外国人レスラーは将来のWWE予備軍だと考えている。WWEはそれだけ金銭面や待遇面、福利厚生面でも他のプロレス団体(AEWは高待遇だが)に比べて桁違い。プロレスラーとして「WWEに上がって億万長者になりたい」と考えるのは必然である。だからこそ「日本愛」「新日本愛」があったとしてもずっと日本に上がり続けるのかは別物なのだ。ゲイブが今後どのようなレスラー人生を歩むのか注目である。
 
「新時代の狂犬」ゲイブはワールドプロレスリングのゲイブ・キッド特集(2024年9月21日関東地区放映)で次のような発言を残している。
 
「俺はイギリス人だが誰よりも強い闘魂を持ってる。日本人の腰抜けども恥ずかしくないのか!? 何を言おうと勝手だが俺のやり方は否定できない。俺はアントニオ猪木の道をたどるつもりは無い。俺のやり方で俺の物語を作る。神が俺の物語を作る。俺の未来は…新日本を前代未聞のレベルにまで引き上げる。新日本を未来に導くのは俺だ」
「新日本を新たなレベルに押し上げる。それで金をたんまりと稼いでやる。そして颯爽と勇退するのさ。イケてる日本の女の肩を抱き酒を手に去っていくよ。それが俺の未来だ」
 
誰よりも強い闘魂を持っていることを見事に証明したのが2025年1月5日東京ドーム大会でのケニー・オメガ戦だった。新日本とBULLET CLUBのロゴが入った黒のハーフパンツで登場したゲイブはAEWの天才レスラーであり、ゲイブ曰く「新日本を裏切った」ケニー相手の己の生き様を示すような闘いを展開。東京ドームが「ゲイブ」コール、長年日本で闘い「日本は俺のホーム」と公言していたケニーにブーイングが飛ぶという事態に発展。最後はケニーの必殺技である片翼の天使に沈んだが、ケニーの闘魂に解説席にいた棚橋弘至は号泣していた。思えばヤングライオン時代のゲイブを可愛がっていたひとりが棚橋だった。
 
棚橋だけじゃない、師匠の柴田勝頼も、アメリカLA道場の仲間たちも、みんな苦しかった時にゲイブを励まし助けていたのだ。その感謝の気持ちを封印してゲイブは今宵も暴走している。それがゲイブというプロレスラーとしての生き様だ。
 
ゲイブはBULLET CLUBに入ってから自らを「マッドマン」と名乗ってきた。彼の狂気は私が新日本道場時代に培った血と汗と涙から派生した産物ではないかと考えている。元々はどこにでもいるような普通のプロレスラーだったゲイブは新日本というフィルターを通じて「マッドマン」になったのだと。
 
 

 

 

 
ゲイブは覚悟を持って「真の闘魂の象徴」「新日本プロレスの体現者」だと豪語した。「闘魂」といえば2022年に逝去したアントニオ猪木の代名詞。猪木イズムは猪木一代限りのものだ。だが猪木の闘魂から何かしらインスパイヤされて各々が生きるヒントとして闘魂を用いるといういわば「闘魂連鎖」はすでに始まっていて、新日本ではゲイブが一番闘魂を言葉と肉体で体現しているのかもしれない。


闘魂とは何か?
ストロングスタイルとは何か?
新日イズムとは何か?
猪木イズムとは何か?

その答えは各々で出せばいい。ゲイブはゲイブ自身が解釈した闘魂をリング上で表現し続けている。
 
アントニオ猪木は「燃える闘魂」だ。ならばゲイブ・キッドは「暴れる闘魂」なのだ。リング上で狂い、叫び、もがくその様はまるで地獄絵図。だがその地獄絵図のような空間でギラギラに光っているのがゲイブという男。その光は地獄をさまよい、死の淵から這い上がった彼が今世を生きている証なのだ…。
 
(この記事は2024年10月13日大阪・なんば紅鶴で行われた『味園ファイナルプロレストークバウト 』というイベントで私が公開したプレゼンを加筆と修正を加えて文章化したものです)