究極のプロレスを追求した緑の英雄公記~「至高の三冠王者 三沢光晴」おすすめポイント10コ~ | ジャスト日本のプロレス考察日誌

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恒例企画「プロレス本を読んで感じたおすすめポイント10コ」シリーズ48回目です。このシリーズはライターの池田園子さんが以前、「旅とプロレス 小倉でしてきた活動10コ」という記事を書かれていまして、池田さんがこの記事の書き方の参考にしたのがはあちゅうさんの「旅で私がした10のことシリーズ」という記事。つまり、このシリーズはサンプリングのサンプリング。私がおすすめプロレス本を読んで感じたおすすめポイント10コをご紹介したいと思います。


さて今回、皆さんにご紹介するプロレス本はこちらです。

 





内容紹介

幼少期、アマレス時代、2代目タイガーマスク、超世代軍、三冠王者、四天王プロレス……自然体でプロレスに心身を捧げた男の青春期。
関係者たちの貴重な証言を交えながら三沢光晴の強靭な心も解き明かす!
「本書は、純プロレスを貫き、プロレスファンを魅了した、三沢光晴を分析・検証するものである。それは〝三沢光晴〟というフィルターを通して、80年代、90年代の全日本プロレスを描くことでもある。また、三沢の一生涯を描くのではなく、あえて1998年5月1日の東京ドームにおける川田利明戦までに焦点を絞った。なぜかは最後まで読んでいただければご理解いただけると思う」(著者より)

著者について

小佐野景浩(おさのかげひろ)…1961年9月5日、神奈川県横浜市鶴見区生まれ。幼少期からプロレスに興味を持ち、高校1年生の時に新日本プロレス・ファンクラブ『炎のファイター』を結成。『全国ファンクラブ連盟』の初代会長も務めた。80年4月、中央大学法学部法律学科入学と同時に㈱日本スポーツの『月刊ゴング』『別冊ゴング』の編集取材スタッフとなる。83年3月に大学を中退して同社に正式入社。84年5月の『週刊ゴング』創刊からは全日本プロレス、ジャパン・プロレス、FMW、SWS、WARの担当記者を歴任し、94年8月に編集長に就任。99年1月に同社編集企画室長となり、2002年11月からは同社編集担当執行役員を務めていたが、04年9月に退社して個人事務所『Office Maikai』を設立。フリーランスの立場で雑誌、新聞、携帯サイトで執筆。コメンテーターとしてテレビでも活動している。06年からはプロレス大賞選考委員も務めている。主な著書に『プロレス秘史』(徳間書店)、『昭和プロレスを語ろう』(二宮清純との共著/廣済堂出版)、『独学のプロレス』(ウルティモ・ドラゴンとの共著/徳間書店)、『永遠の最強王者 ジャンボ鶴田』(小社刊)などがある。



2021年にワニブックスさんから発売された小佐野景浩さんの「至高の三冠王者 三沢光晴」をご紹介します。

以前、私はワニブックスさんが運営するウェブサイト「ニュースクランチ」さんから依頼を受けて、「至高の三冠王者 三沢光晴」のレビューも兼ねた記事を書かせていただきました。


そして今回はブログの名物企画プロレス本レビューで、「至高の三冠王者 三沢光晴」についてなるべくネタバレ少なめにプレゼンしていきたいと思います。本当に素晴らしい本です!よろしくお願いいたします!


★1."不世出の天才プロレスラー"三沢光晴の全盛期をまとめた作品


"プロレス界の盟主"や"不世出の天才プロレスラー"と呼ばれた三沢光晴さんの書籍はこれまで数多く世に出ていますが、この本の特徴は、三沢さんの全日本プロレス時代に絞って深掘りしている点です。幼少期、アマレス時代、2代目タイガーマスク、超世代軍、三冠王者、四天王プロレス……自然体でプロレスに心身を捧げた三沢さんの青春期こそが、1981年~2000年まで在籍した全日本プロレス時代なのです。


また、三沢さんのレスラー人生を通じて1980年代、1990年代の全日本プロレスもクローズアップしている作品です。


しかも、この本の取材に応じた関係者が天龍源一郎さん、川田利明さん、小橋建太さん、田上明さん、秋山準選手、谷津嘉章さん、越中詩郎さん、渕正信さん、ザ・グレート・カブキさん、佐藤昭雄さんなど錚々たるメンツ。そこに元週刊ゴング編集長である著者・小佐野さんのデータと文章力で壮大な作品に仕上がっています。ページ数は約540ページ。


これは三沢さんの伝記としても、全日本プロレスの歴史本としても、貴重な価値のあるプロレス本と言えると思います。



★2."熱血プロレスティーチャー"小佐野景浩さんだからこそ書けた「三沢本」


この本の著者がプロレスライターの小佐野景浩さんという点で、クオリティーは高いものになるのは確定しています。それを断言できるほど小佐野さんの文章力、分析力、情報力は凄いのです。


小佐野さんは2020年にワニブックスさんジャンボ鶴田さんの本を出されていて、その時のレビューでも書きましたが、小佐野さんならば「これは凄い本だから買って読もう!」という保証があるんですよ。


バックボーン~「永遠の最強王者 ジャンボ鶴田」おすすめポイント10コ~ 


 

 


小佐野さんはプロレス専門誌・週刊ゴング元編集長であり、全日本プロレスやさまざまな団体のテレビ解説をされている"熱血プロレスティーチャー"、"龍魂伝承記者"と呼ばれるプロレスマスコミ界の重鎮。


小佐野さんは解説でもそうですし、記事でもそうですが、とにかく知識量と客観的視点、物事を伝える的確さが凄いんです。またプロレス関係者も「小佐野さんが書くならここまで言える」という信頼もあるんです。そしてその信頼は見ている側にきちんと還元されているんです。単行本の著者としての小佐野さんの実力は鶴田さんの本できちんと証明されています。

小佐野さんが鶴田さんの長編を書かれて次に誰について書くのか。小佐野さんとワニブックスさんが選んだのは三沢さんだったのです。鶴田さんはあまり関連書籍は少ない。でも三沢さんは関連書籍が多く発売されている。鶴田さんよりもハードルが上がったことは間違いないと思います。だからこそ私は敢えて、全日本プロレス時代の三沢さんに絞って他の「三沢本」との差別化を測ったように思います。

さらに小佐野さんと三沢さんはプライベートでは友人関係でした。そんな小佐野さんだからこそ書ける一冊であることは間違いないです。

ここからは本の中身について触れていきたいと思います。


★3.足利工大付属高校レスリング部時代


この本ではまず三沢さんが高校生の時に過ごした足利工大付属高校レスリング部時代についてかなり深掘りしています。特に三沢さんの同級生で、初代修斗ウェルター級(現在はライト級)王者、さらに初代タイガーマスク佐山聡の愛弟子であり、リアルジャパンプロレスでは仮面シューター・スーパーライダーとしてリングに上がっている渡部優一さんの証言が興味深いです。プロレスラーになる前の三沢さんを知る数少ない関係者の一人がこの渡部さんです。


渡部さんにとって三沢さんは戦友。三沢さんがなくなった時に同級生である渡部さんは多くの取材を受けて苦しかったそうです。三沢さんの死を受け止められていないのに、語ることは渡部さんにとって苦痛でした。それでも佐山聡さんから「そういう機会があるってことは、三沢がお前を選んでいるんだから、正しく語ってやれ。それが供養になるんだよ」という励ましを受けて覚悟を決めて取材に応じていたといいます。


ものすごくジーンときましたね。だからこそ今、渡部さんにとって三沢さんは「神に近い存在」なのだそうです。



足利工大付属高校レスリング部で三沢さんはどのような生活を送ったのか、プロレスラーとしての強靭な心が育まれたのはこの時代での厳しい日々だったのかなと思える内容でした。


★4."全日本プロレスを変革した男"佐藤昭雄


この本で重要なポイントになるのは、1980年代に全日本プロレスでブッカーを務めて、数々の変革を推し進めた佐藤昭雄さんの証言が読めるということです。小佐野さんはプロレスムック「Gスピリッツ」(辰巳出版)であらゆるテーマで佐藤さんのインタビュー記事を担当されています。小佐野さんにとって、佐藤さんはプロレスの先生といえる存在です。


小佐野さんは以前、自身のサイトで佐藤さんについてこのように書かれています。


「全日本の歴史を語る上で、裏方で手腕を振るった佐藤は重要人物。16歳でジャイアント馬場の弟子として日本プロレスに入門し、新弟子時代から馬場さんのプロレス哲学を植えつけられている。そして長年のアメリカ生活の中でプロレスの創り手としてのノウハウを学び、81年から84年には全日本のブッカーを務めた。 ブッカーになった佐藤は若手の育成に力を注ぎ、全日本の伝統でもあった年功序列のマッチメークを廃止した。そうした環境から越中詩郎、三沢光晴、ターザン後藤、冬木弘道、川田利明らが育った。(中略)彼らはいずれも影響を受けた人物、尊敬する人物に佐藤の名前を挙げる。若手の育成もそうだし、その他、諸々の細かいところで全日本を大きく変えた功労者なのだ。佐藤昭雄の教えは全日本のみならず、日本マット界のあちこちに受け継がれている。インディー団体もそうだし、冬木を通して新日本でも邪道&外道がちゃん受け継いでいる。私にとっても尊敬するプロレスの先生。リング上の技術的なこと、サイコロジーからマッチメークの仕方等々…“プロレスそのもの”をレクチャーしてくれた人である」

感激!15年半ぶりの佐藤昭雄さん!! – Maikaiダイアリー


三沢さんにとって佐藤さんは「心の師匠」です。この佐藤さんの証言内容についてはネタバレになると思いますので触れませんが、とにかく終始頷きっぱなしでした。プロレスティーチャーの小佐野さんが先生だと語る佐藤さん、さすがです!そして三沢イズムと呼ばれるプロレスの源流には佐藤昭雄イズムといっても過言ではないと思います。


★5.受け身とシュート


この本の62ページに「受け身とシュート」という項目があるのですが、全日本プロレスの受け身についてさまざまな書籍や記事で言及されていますが、シュートについて触れているものは少ないと思います。この項目で書かれているシュートは、関節の取り合いのスパーリング、俗にいう「極めっこ」と呼ばれるものです。


この項目はかなり興味深かったです。


★6.2代目タイガーマスク時代


1984年にプロレスキャリア3年の三沢さんはメキシコ遠征から帰国して、2代目タイガーマスクに変身します。2代目タイガー時代についてここまで深掘りしているのはこの本くらいだと思います。やはり2代目タイガーは苦悩と不遇の時代というべき頃だったという認識があるためで、これまでの三沢本でも取り上げていたとしてもそこまで踏み込んでいないものが多いです。


個人的にめちゃくちゃ興味深かったのが、2代目タイガーマスクがデビューに向けて、埼玉県所沢市にある空手団体・士道館の道場に泊まり込んでキックの猛特訓を積んでいて、2代目タイガーにキックを仕込んだ添野義二館長に当時、「ゴング」誌の記者だった小佐野さんがインタビューを敢行したものが再現されています。


これは必見です!士道館・添野館長、キックボクシング井原道場・井原会長、キックボクシング藤原ジム・藤原会長、ボクシング輪島ジムの輪島会長など格闘技界隈の癖の強い漢たちは本当に痛快で最高なんですよ!



あと2代目タイガーマスクのデビュー戦やダイナマイト・キッド戦、ミル・マスカラス戦、リック・フレアー戦、天龍源一郎戦、ジャンボ鶴田戦などの試合を小佐野さんが再検証していて、やっぱり三沢さんの凄さを感じましたね。その一方で本人はかなり苦悩していたのだとも…。



★7.超世代軍時代


1990年春、全日本プロレスに激震が走ります。団体の看板レスラーである天龍源一郎さんをはじめとした全体の半数弱の日本人レスラーが全日本を離脱し、巨大企業メガネスーパーが立ち上げた新団体SWS旗揚げに参加することになります。団体存続のピンチに立ち上がったのが、2代目タイガーマスクのマスクを脱いで素顔となった三沢さんをはじめとした20代の若者たちでした。


ただここで問題が発生するのが、著者の小佐野さんが1990年~1994年まで全日本を出禁になっていたことです。要は天龍さんの番記者だった小佐野さんの存在が全日本サイドから煙たがれてしまったということです。だから大事な時期に小佐野さんは現場にいないんです。そこでこの時代について記述として、当時マッチメーカーを務めていた渕正信さん、超世代軍時代の仲間である川田利明さん、小橋建太さんの証言がメインになっています。


でも小佐野さんの卓越した文章力もあるやっぱり内容は面白いです!


★8.四天王プロレス時代


三沢光晴さん、川田利明さん、小橋建太さん、田上明さんの全日本四天王による限界ギリギリの大技の攻防、完全決着の闘いで平成プロレスファンの絶大なる支持を集めた四天王プロレス。


この本では四天王プロレスの深層に小佐野が迫っています。


これも面白いんですよ。ちなみに四天王プロレスになってからの全日本は、ギブアップ決着が少なくなって、3カウント決着が多くなります。特に四天王プロレス絡みのタイトルマッチはギブアップ決着はほぼありませんでした。その理由を和田京平レフェリーが証言しています。これは「なるほどな!」と唸っちゃいますよ。


やっぱり四天王プロレスは深いですね。


★9.あくまでもプレイヤー三沢光晴としての生き様を描いたノンフィクション


小佐野さんはこの本で1998年5月1日東京ドーム大会での川田利明戦までに焦点を絞って書かれています。なぜなのかについては最後まで読めば分かるのですが、その理由は触れませんけど納得しました。


これは私の意見ですが、この川田戦以降に三沢さんは3ヶ月欠場されて、復帰後にマッチメーカーとなり、ジャイアント馬場社長逝去後に、新社長に就任しています。つまり三沢さんは1998年の夏以降は現場や経営に関わるようになるので純粋に一プレイヤーではなくなっているのです。


そう考えると小佐野さんとワニブックスさんは、現場責任者や経営者としてではなく、一プレイヤーとしての三沢光晴を抽出したノンフィクションを描こうとした時に、1998年5月1日の川田戦までに絞るしかなかったという考え方ができるのかなと思います。


あとスポーツジャーナリズムでプロレスを捉えた週刊ゴングイズムというものをこの本で感じることができました。写実的に文章を書くスタイル。主観ではなく、物事の事実や史実を伝えることを優先していて、そこにスパイスを加えて仕上げる手法です。以前も説明しましたが、ターザン山本さんが編集長時代の物事の事実を追いつつも、主観も入れ込む週刊プロレスイズムとは違う方法論ではあります。


ただ、全日本時代にスポットを当てた作品ですが、きちんとノア時代の情報もいれたり、2006年11月に収録したノア社長時代の三沢さんのインタビューなども読めます。


なので今のプロレスリングノアのファンの方にも楽しめる一冊となっております。


★10.究極のプロレスを追い求めた緑の英雄公記


この本のタイトルは「至高の三冠王者 三沢光晴」です。このタイトルを聞いた時、私は少し違和感がありました。「至高」という言葉を聞くと、人気漫画「美味しんぼ」の「究極VS至高」を思い出し、海原雄山の「至高のメニュー」が頭を過ります。そうなった時に三沢さんは、どちらかというと山岡士郎の「究極のメニュー」タイプだよなという印象があり、個人的には「究極の虎」、三沢さんの宿敵だった川田さんに「至高の侍」なんてキャッチコピーを勝手につけていたこともありました。


なぜ「至高の三冠王者」というタイトルなのか。その理由も小佐野さんは言及しています。納得しました。


そして三沢さん、四天王プロレスが追求した「究極のプロレス」とは何か?それは肉体も精神も技術もとことん極めて、突き詰めていって限界越えを挑み続けた「命の芸術」だったのではないかと思います。その一方で彼らはただ過激な攻防、受け身の取れない技の応酬をしていたわけではなく、その過程を大切にしていました。四天王プロレスの序盤はきちんとレスリングの攻防や肉体での会話があり、そこから徐々に相手を倒すための危険な攻防に発展するのです。


その「究極のプロレス」を追求し、1990年代の全日本プロレス、いや日本プロレス界を試合で牽引し続けた男…それが三沢さんなのです。


この本は「究極のプロレス」に全てを捧げた緑の英雄公記なのです!


 

 


この本は多くの皆さんに読んでほしい名著です!チェックのほどよろしくお願いいたします!