禁断~プロレス王と暴走王 唯一の遭遇~【緑の虎は死して神話を遺す・三沢光晴物語】 | ジャスト日本のプロレス考察日誌

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緑の虎は死して神話を遺す
平成のプロレス王・俺達の三沢光晴物語
禁断~プロレス王と暴走王 唯一の遭遇~

三沢光晴&力皇猛 VS 小川直也&村上一成



2001年3月2日、ZERO-ONE旗揚げ戦のメイン終了後、

勝利した三沢光晴に思わぬ挑戦状が叩きつけられた。

プロレス界、格闘技界を暴れまわりセンセーションを巻き起こしていた暴走王小川直也。

小川は試合後に乱入し、マイクを持ってこう言った。

「三沢、受けてもらおうじゃないか!勝負を!」


三沢はこの小川発言になんと、エルボーという手荒な挨拶で迎え撃った。

緑色の王道と魔性の闘魂が交錯した瞬間だった。

三沢は後にこう語っている。

「俺から振ったわけではない。振られた喧嘩は無視できないということだよ。」  


小川直也…あの橋本真也戦でプロレスというジャンルを破壊し賛否両論を巻き起こした暴走王。

その後も新日本、PRIDEで大暴れをし、時代の寵児となったプロ格サイボーグ。

小川が橋本の次に標的にしたのがプロレス界のエース・三沢だった。  






2001年4月18日、日本武道館。

ZERO-ONE旗揚げ第2戦のメインイベントとして

三沢光晴&力皇猛VS小川直也&村上一成(和成)が組まれた。

実はこの大会には不穏な噂が流れていたという。  


メインのタッグマッチと、前座のアレクサンダー大塚VS杉浦貴は

「プロレス」ではなくセメントになるかもしれない。

セメントとは、真剣勝負、潰し合い、喧嘩という意味のプロレス界の隠語である。

つまり、相手の技を受けるのが流儀の「プロレス」ではないということである。


このような不穏な噂が象徴するように「プロレス」ではないリングに立つ三沢。

しかし、この試合こそ後世に三沢の強さを証明した伝説の決闘となるのである。

そして三沢が「プロレス」ではないリングに立った唯一の試合であった。  


四人が入場後に武道館を三沢コールが爆発する。

小川と三沢はお互いに目を逸らさずに睨み合う。

互いの視線は険しい。

まずは小川が先発ででようとするが、三沢は下がり、力皇が出てくる。

ベテランの特有の駆け引きである。  


小川は力皇だと不服だったのか、村上が先発。

力皇と村上のマッチアップでゴング。

いきなり力皇を襲撃する村上。

得意のパンチラッシュの嵐。

力皇はガードして耐えて、両手で村上の腰にしがみつき相撲で言う寄り切りをしてロープ際。  




ロープ際の状態から力皇はすくい投げをしてからぶちかまし、村上は吹っ飛ぶ。

さすが元大相撲前頭4枚目である。

手を叩いて「来い」と言う力皇に村上は鋭い眼光でアップライトスタイル。

村上は左ジャブ連発する。  

しかし力皇は村上の打撃に自らのほほをたたき「もっと打て!」とアピール。

そして村上のパンチに大相撲仕込みの突っ張りで応戦する。

村上の左ジャブに合わせて、懐に潜り込みコーナーにもっていき、三沢にスイッチする。  




力皇からタッチを受けた三沢。

三沢VS村上のマッチアップ。

場内は再び三沢コール。

マウスピースを投げる村上は再びアップライトスタイル。

三沢も珍しく構える。左ローと左ジャブを放つ村上。

しかし、三沢は片足を取ってからのテイクダウンに成功する。  






上になった三沢だが、下から足関節を狙う村上。

しかしロープに逃れる三沢。両者中央に立つ。

村上の左ジャブに合わせて、首を抑えてからのエルボー3連発を放つ三沢。

あまりのダメージに後ずさりして村上は小川にタッチ。

しかし、三沢は力皇にすかさずタッチし、小川をじらす。

セメントでもベテランならではの心理戦を仕掛ける三沢。






力皇は「相手は俺だ」といわんばかりに突っかかり、コーナーに追い詰める。

コーナーで態勢を入れ替えた不満顔の小川はパンチ、キックを放つも力皇には効かない。

「来いよ!」とアピールする力皇。

場内は力皇コール。

力皇が小川の懐に入るが、小川はこらえて逆に大外狩り(STO)で倒す。

マウントになった小川に三沢が動く!  


マウントになった小川に三沢はエルボーでカットする。

そして三沢がリングイン。禁断の三沢VS小川が実現した。


そういえば当時全日本にいた三沢が、

あの小川VS橋本戦後にテレビ中継内で異例のコメントをしている。  

「あれじゃいくら何でもプロレスラーが弱くみられる。

もっとプロレスラーは強いんだぞってところを見せてもらわないと困る」

三沢はこのコメントを身を持って小川に証明する機会が来た。

お互いに間合いをはかり、構える。緊張感がある場内。  





緊張感がある中で右ミドルの三沢。

左ミドルで返す小川をエルボーを打ち落とそうとする三沢。

タックルに入る小川。しかし、三沢は倒れない。

元レスリング国体優勝のバックボーンがここで活きる。

三沢が小川の首を押さえてコントロールする。









バックに回ろうとする三沢に小川は逃れようとする。

しかし、先を読んでいた三沢は再び小川の首を上からがぶって押さえる。

そのままスタンド状態になる。

小川の体をコントロールし、腕をとった状態で足を掛けて投げにいこうとする三沢。  

しかし柔道王・小川。三沢の投げを堪えて強引な腰投げで投げる。

フォールカウントが入るがカウント1。


そのままマウントポジションに入った小川はパンチを放つが、三沢は腕でガードする。

そして誰かが小川の背後に飛び込んだ!力皇だ!  


力皇はマウントになった小川の背後から体ごとぶちかました。

そのまま小川は村上にタッチ。力皇は小川を場外に蹴散らした。

一部では三沢を護衛するためのポリスマンとしてパートナーに選ばれたといわれている

力皇は小川を押さえ、三沢に勝負を託した。

村上は三沢の背後から細かいパンチ連打、首を絞めるもロープブレイクする。

「来いよ!」と叫ぶ村上。  




場外では力皇が小川を分断していた。

見事なまでのガードっぷりである。

三沢はプロレスではまず見せない危険な反り投げ一閃。

バックドロップともジャーマンとも違い急角度な落とし方なのだ。

さらにもう一発、反り投げ!三沢の独壇場となる。  





危険な反り投げ2連発に村上はグロッキー状態。

三沢は強引にバックを取り、またしても反り投げ!

そのまま固めてフォールした。

公式発表、6分40秒、バックドロップホールド。

三沢が勝ったのだ。

プロレスの威信を守ったのだ。  






大歓声の日本武道館。

試合後、納得のいかない小川は三沢を襲うも、ノアのセコンド陣が乱入し、またしてもガードする。

場内は三沢コール。

三沢はノアのセコンド陣も含めて勝ち名乗りをあげた。

小川直也の三沢破壊は不発に終わる。  

小川は試合後マイクで叫ぶ。

「三沢、数さえ揃えれば勝てると思ってるんじゃねぇよ!

今度まとめて勝負してやるからな!」

結果も内容も三沢に敗れた小川の負け惜しみだった。

ちなみに小川と三沢の対戦はこの一度きりだった。  


三沢は試合後、こう語る。

「三沢万々歳なの?どこが(笑)。内容なんか期待されてないと思うし巧さを見せなくていい。

強さを見せればいい。いい試合を見せなくちゃならない普段の試合よりも気持ちの上では楽なんだよ。」  


三沢光晴が一度だけ解禁した「プロレス」ではない真剣。

しかしプロレス界のエースは真剣の舞台でも強かった。

そしてこの一戦以降、三沢は何事もなかったかのようにプロレス道を邁進していく。

この日、三沢の新たな神話が生まれたのである。  
(禁断 完)