プロ野球で選手、監督として活躍した野村克也監督は 「勝ちに不思議の勝ちあり、負けに不思議の負けなし」という言葉を残していますが、その出典は、江戸時代に肥前平戸藩の藩主で、心形刀流の達人であった松浦静山の随筆集である「甲子夜話」の中にあると言われています。278巻におよぶ著述には、その時々の政治や外交、軍事、市井の逸話、風俗など20年間にわたる幅広い出来事が書かれており、「剣談」として取り上げられる文章は、『予曰く。勝に不思議の勝あり。負に不思議の負なし。問、如何なれば不思議の勝と云う。曰く、道を遵び術を守ときは、其の心、必ず勇ならずと雖ども勝ち得る。是の心を顧るときは則ち不思議とす。故に曰ふ。又問う。如何なれば不思議の負なしと云ふ。曰く、道に背き術に違へれば、然るときは其負疑ひ無し、故に爾に云う、客の伏す。(私は、『勝つときには不思議の勝ちがある。しかし、負けるときには不思議の負けということはない』と客に言った。客は『なぜ不思議の勝ちと言うのか』と質問をしてきた。私は『本来の武道の道を尊重し教えられた技術を守って戦えば、たとえ気力が充実していなくても勝つことができる。このときの心の有り様を振り返ってみれば、不思議と考えずにはいられない』と返答した。そうすると客は、『どうして不思議の負けはないと言うのか』と質問してきた。私は『本来の道から外れ、技術を誤れば、負けるのは疑いのない事だから、そう言ったのだ』と答えた。客は恐れ入って平伏した)」とあります。 負けの因子を徹底的に消滅させる不断の努力が成果を得る瞬間をつかむ秘訣とする教訓は、「敵に負けない態勢をつくって、勝てるチャンスを待つ」という孫子の兵法の基本です。日本選手の活躍が続いているパリオリンピックも後半戦に入りました。WEBには日本選手に不利な判定を云々する書き込みが数多く見られますが、『怠ける者は不満を言うが、努力するものは目標を語る』で、いまひとつであった競技の選手諸君には、新しい目標に向かって、捲土重来を期してほしいものです。