漢の高祖である劉邦は秦の都である咸陽を制圧した後に、始皇帝時代につくられた煩雑・苛烈な法律を廃し、「殺すな、傷つけるな、盗むな」とした3か条の法律を施行したと言われています。近年の労働時間の規制や子に対する虐待、いじめの防止などに対する法制化の流れを見ていると、人類の歴史の中で積み重ねられてきた大切なルールや規範、必ずしも法として規定されていない社会常識と言われるものを含めて「法を守る」という意識が「法に書かれていないことなら許容される」という風潮に変質してきたように感じます。日本人の精神文化は、すぐに結果が出る狩猟ではなく、ある程度の時間がかかる農耕が価値観の原点ですが、「国際化」「競争原理の導入」「効率化」などの流れは共同生産社会であったムラを弱体化させ、倫理や社会モラルといった規範まで大きく変化してたように思います。松下幸之助氏は「法治国家というのは究極の姿ではなく、法三章の故事のごとく、国民の良識によって社会を律していく姿こそ理想。」と語られていますが、法令は権力によって人を強制的に規律するものであり、最小限であることが望ましく、「人としてどうあるべきか」とする倫理・道徳教育のあり方が問われていると感じます。