出雲市の鰐淵コミュニティセンター(高橋一夫センター長)は、昭和19年9月にフィリッピン北方海域で戦死した青年兵士が応召前に詠んだ歌集「野虎の叫び」を刊行しました。第2次世界大戦の終結から70年が経過し、戦争を体験した人たちが極めて少なくなって平和の大切さを身をもって伝えることが難しくなりつつありますが、戦後70年の節目となる本年、、遺族から歌集の寄託をうけて発刊に至ったものです。作者の松浦虎三さんは、大正5年2月、鰐淵寺のある別所町に生まれ、河下尋常高等小学校卒業後、昭和12年に歩兵第21連隊に入隊、昭和14年に負傷により除隊後、昭和18年再召集により服役されたとあり、歌集は巻紙に毛筆でしたためられたものです。序文は「わが心の糧として、魂の叫びとして詠うてきた歌をまとめて有事に処するのも、皇国の戦士の嗜みではあるまいか」で始まり、「詠みあげた自作の中から百首を選んで[野虎の叫び』と名付くる」とし、「歌は人の誠の心のほとばしりなるが故に、(中略)無人の大荒野に心行くばかり咆哮する、野虎の叫びであった。」と結ばれ、編纂日は昭和17年6月30日とされています。内容(目次)は「座右愛吟」「死生観」、(第1項天の巻)「聖戦」「戦闘」「討匪」「戦傷」「送還」「営内雑詠」、(第2項地の巻)「職場の息吸」「雑詠」と整理され、「散りて又 来たらん春をしのびつつ 風もさやかに 山ざくら花」(死生観)から「草深き 田舎に住みて年老いし 父母にしあり 吾如何にして」(雑詠)まで100首が収められ、戦時下で揺れる青年の心根を彷彿させる秀作には、万感胸に迫るものがあります。