本年8月にNHKラジオの日曜名作座で放送された山本周五郎著作の『日本婦道記』は、武家の体面を保つために、自らは極端に慎ましい生活を送っていた妻の有り様を、彼女の死によって初めて知ることとなる『松の花』など11編の短編小説で、夫のため、子のために生きる日本女性の清く、優しく、美しく、かつ逞しさ、強さを伝える感動的な作品です。山本風五郎は山梨県に生まれ、小学校卒業後、銀座の質屋で奉公後に小説家として文壇デビューし、直木賞などの文学賞をことごとく辞退し続け、生涯で一個の賞も受けることはありませんでした。代表作には『樅ノ木は残った』『赤ひげ診療譚』『おさん』などがあり、人間に対する深い愛と洞察力で多くの読者を魅了し続けていますが、『日本婦道記』は初期の代表作として高い評価を受けています。生前、「『日本婦道記』は女性に犠牲を強いる日本社会の価値観を押しつける内容」との指摘に「私が書いたのは夫の社会的評価や子の成長を自ら喜びに置き換える日本女性の清々しいまでの強靱さであり、世の男性にこそ読んでもらいたい」とコメントしていますが、紛れもなく、半世紀を経てなお男が涙する秀作です。