創業が天保13年の老舗である益田市の島田家が、経営破綻したと報じられたことは極めて残念である。「いわみ益田は なつかしところ 水も枕の下をゆく」と、野口雨情が逗留した折に詠んだと言われる益田川畔の和風旅館には、天皇陛下も宿泊されたことがある。雪舟庭園の万福寺や演劇、コンサートの会場であるグラントワにも近く、立地に恵まれないわけではないが、老舗であるが故に業態転換が難しかったのだろう。島根県では平成25年度に出雲大社の大遷宮によって、玉造温泉をはじめ松江、出雲の観光関連業種が大きく収益を伸長させた一方で、石見や隠岐への波及が少なく、周遊観光というコンセプトが不足していることが課題だ。来訪者が島根の魅力を評価し、リピーターとなって何度も足を運んでくれるか否かは、常に「新しい発見」を可能にする必要があり、航空路線や高速道路、高速船、高速鉄道などの整備によって、時間あたりの動線距離が拡大することを意識した取り組みが急務である。自治体の地域連携はもちろん、観光素材の魅力を引き出し、クローズアップできるようなハード、ソフトの整備を図ることが求められている。石見の老舗の事例を塞翁が馬として今後に活かしたい。