報道によると、菅首相は、10月8日に開催された新成長戦略実現会議で、TPP(環太平洋戦略的経済連携協定)への参加検討を含めて、EPA(経済連携協定)への日本政府の基本方針を、11月に横浜で開催されるAPEC(アジア太平洋経済協力会議)の首脳会議までに作成するよう関係閣僚に指示したとされている。15年前、日本は1995年細川内閣の時代に、ガット・ウルグアイ・ラウンド農業交渉において、ミニマムアクセス米の受け入れることに同意した。1999年4月に関税措置へ切り替えたものの、現在でも、WTO交渉の結論が出るまで、年76~77万トンのコメが輸入されている。同じように、1996年から2001年度にかけて「ビッグバン」と呼ばれる大規模な金融制度改革が行われた。グローバルスタンダードという言葉で、「護送船団方式」から大規模な規制緩和にシフトした結果、大手銀行や証券会社の経営破綻が相次ぎ、日本の金融・証券市場の国際的地位は大きく低下した。この2つの事例は、いずれも世界規模の通商、信用のルールを定める上で日本が避けて通れない大きな課題であり、「誰かがどこかの時期に決断・履行しなければならないもの」である。しかし、いずれもが国内対策が不十分なまま、準備不足で確たる将来見通しと対処を持たない、言わば「丸腰同然」で立ち向かったために、日本国内の関係者が被った影響は計り知れない。確かに、TPP、EPAなどの自由貿易協定は、時代が求めている事項であり、避けて通れないものである。しかし、民主党が掲げる農林水産業の戸別所得補償政策のフレームすら固まっていない段階での首相の参加表明は、過去のケーススタディを無視したものであると言わざるを得ない。菅首相は、まず、国内農林水産業の再生産可能で持続的な取り組みを保障する制度設計を急ぐべきではないだろうか。