2月24日、玉造温泉「ホテル玉泉」で開催された第36回地域農業リーダー会議で、基調講演された鈴木宣弘東京大学大学院教授のインタビュー(抜粋)を掲載します。


 --農地活用に自由度をもたせる農地法改正が、企業や個人など新たな農業の担い手の支援につながると期待されている

 「やる気のある新しい担い手が参入し、従来の担い手と刺激し合い、切磋琢磨することは農業の活性化につながる。ただ、農地法が改正されても、生産効率を上げる農地の集積化はそう簡単には進まない。水田でいえば、コメの生産量の18%は水田面積0・5ヘクタール以下の小規模農家が担っている。自分の労賃も出ないのに、農地を手放さずに稲作を続けているのが実情で、農地を集めて大規模化するのは容易ではない」


 --政府の農政改革は、農地法改正と並行し、コメの生産調整の見直しを打ち出しているがどう評価する

 「今でも、高く売れる良質のコメが作れない地域では、補助金をもらって麦、大豆を作った方が収入を得られるケースがある。強制して行う減反でなく、飼料米など主食以外の用途のコメの生産に対する補助金と、主食用米の生産調整協力者への補助金を、農家や地域が選択できるようにすればいい。また、生産調整から販売調整への移行を進めるには、飼料米や米粉用のコメが、主食用に横流しされないシステムも重要だ」


 --若い人の農業への関心が高まっているようだ

 「食料自給率40%というのは先進国中最低で、不測の事態に十分に対応できるか心配だ。昨年、世界的な食糧危機を経験し、若い人たちの間で、自国で食糧を確保できるようにすることが必要という認識が広まったのだと思う」

 --政府は、自給率の将来目標は50%に設定しているが

 「莫大な財政コストをかけて、何が何でも50%にすればいいというわけではない。40%を50%にすると、どういうメリットがあるのか、そのための財政負担はいくらかかるのかを国民に説明するべきだ。その上で、確証の持てる施策を推進する必要がある」


 --自給率をどう高めるか

 「日本は土地が狭いので、輸入に依存している小麦、トウモロコシ、大豆を大幅に増産するのは困難だ。いざというときには、コメで急場をしのげる態勢をつくるべきだろう。水田をフル活用し、バイオ燃料、飼料、米粉用のコメ生産を拡大する。輸入品の代替になり、自給率も上がる。フィンランドは1年分、スイスは半年分の小麦を備蓄しており、日本のコメの備蓄も、1カ月半で十分なのか考えるべきだ」


 --コメがあれば安心か。また、WTO交渉やFTAの流れをどう見る

 「現在の稲作の状況では、コメの生産も立ち行かなくなってしまう。海外のコメ暴動のように、日本でもコメの流通量が足りなくなる事態がひとごとでなくなるかもしれない。中断しているWTO(世界貿易機関)農業交渉が現段階の議長案で合意されても、コメも含めて相当な影響を受ける。日豪などのEPA(経済連携協定)政府間交渉も加速しており、日豪で相互に関税がゼロになれば、日本の食料自給率は10ポイント低下して30%に、日米、日EUでそうなれば、日本の食料自給率は12%まで低下するという試算もある。オーストラリアや米国とのFTA交渉がまとまれば、食料自給率は12%まで下落するだろう。穀倉地帯である西オーストラリアの1農家あたり平均作付け面積は5800㌶で、北海道の農家の160倍であり、それをわずか2-3人で耕作しているのが実態であり、競争とか比較にはならない。むしろ、バーチャルウォーターや窒素などの環境負荷という観点から、食糧取引のトータルコストを再計算することが、日本の国土と農業、ひいては国民の安全な食糧確保という国益を守る縁になるのではいか。」


 --今、何をするべきか

 「世界の食糧危機に対し、日本が貢献するという視点も含めて、戦略的にコメの備蓄を見直すべきだ。世界の食糧安全保障上、日本が貢献できるのはコメだ。世界では9億人が栄養不足といわれている。援助するためにコメを備蓄するという視点があっていい。主食用のコメ価格が下がったからといって、場当たり的にコメを市場から買い増して備蓄するから問題になる。価格支持が目的でなく、世界貢献のためにコメを備蓄する仕組みを作る。それならば農水省予算でなく、外務省予算でコメを備蓄してもいいだろう」

 

--外国から日本は政府が価格支持政策を続けていると非難されているが実態はどうか

 「冗談ではない。農業所得に占める政府からの直接支払いの割合は、日本は15.6%で、米国は26.4%(小麦62.4%、トウモロコシ44.1%、大豆47.9%、コメ58.2%)、フランス90.2%、イギリス95.2%、スイス94.5%となっている。また、日本の農産物価格は高いと言われるが、外国産のものとは明らかに品質が異なるのであって、オージービーフと松坂ビーフを同列に論じる方がおかしいのである。」


 鈴木宣弘(すずき・のぶひろ) 昭和57年東大農学部卒。農林水産省、九大教授などを経て平成18年から東大大学院教授(農学国際専攻)。食料・農業・農村政策審議会委員(会長代理、企画部会長、畜産部会長、農業共済部会長)、農協共済総合研究所客員研究員などを兼務。50歳。三重県出身。