わたしは水藍の横顔を眺める。

 黒い瞳、切れ長の目。化粧っ気のない肌は、つるりとしている。

 小さな頃、わたしたちはとてもよく似ていた。

 水藍とは従姉妹だから、別段おかしくはない。

 むしろ今、似ていないことの方が気になる。

 友人やクラスメイトも、知り合いは皆が言う。わたしと水藍が「全然、違う」と。

(あぁ。一人だけ、)

 一人だけ、わたしと水藍を似ていると言った。

「幸村(コウムラ)、」

 わたしと水藍は同時に振り返る。

 副担任の紫藤(シドウ)だ。

 若いせいもあるのだろうが生徒から慕われている。

 女生徒から人気なのは、その甘いマスクだろう。

「二人いてちょうど良かった」

 彼だ。

「後ろ姿だと、特に似ているな。まぁ髪の長さで判るけれど」

 彼だけだ。

 ただ一人、わたしと水藍を「似ている」と言った人だ。

 どんなにたくさんの誰かに愛されても意味がない。

 愛されたい誰かに愛されなければ、全部、無駄でしょう?




 緩んでいる頬、口元には自然と笑みが浮かんでいる。

「菖蒲(あやめ)? 何を見ているの?」

「水藍(スイラン)、」

 窓の向こう、中庭を挟んだ反対の校舎を示す。

「あ。桐島(キリシマ)先輩たちだ」

 北棟は3年生が使い、南棟は1・2年生が使う。受験勉強に配慮された校舎の使い方らしい。

「仲が良いよねぇ」

 水藍は窓越しに見える先輩たちを眺め、優しい笑みを浮かべる。

 彼女の、そんな表情を見ているのは。見られるのは、わたしだけだろう。

 水藍はわたしの傍にいる。

 わたしを守ろうとしてくれる。

 水藍とわたしは、学校では有名な『騎士(ナイト)と姫』らしい。

 尚真さんは「それが全てだろ」と短い。

「そう、ですね」

 沈黙。

 尚真さんの、朝食を作る音が響く。

 僕は抱えたタオルや着替えに目を落とす。目を閉じると、亡き母の姿が浮かんだ。

 父と母がいて僕が生まれ、陽にも彼女の父母がいて陽が生まれた。

 僕の母が亡くなり、陽の父が亡くなり、やがて僕の父と陽の母が出会う。そうして僕らは兄妹になった。

 尚真さんは「それが全て」と言う。

 彼の言うことは何となく解る。

 その通りなんだと思う。

 けれど。

 やはり不安定さは消えない。

 僕の、心持ち次第なのかもしれない。陽の、心持ち次第なのかもしれない。

 ただ。

 先を見通しても見えず、振り返ってみても何も見えない。

 足元がぐらつくような不安定さ。

 もしも陽がその不安定さに転びそうな時は、支えてやれたらと思う。

 兄として。家族として。年長者として。


 僕はようやく、己の足元が見えた気がした。

『君の話 僕の話sideR』了