彼は「学生時代に、」と話し始める。
「卒業と同時に、地元を出て行った知人がいるんです。それだけなら、たぶん、よくある話」
視線を窓へと転じる。遠く、窓の外から更に遠くを見ている。
きっと話している人たちを、彼らと過ごしていた自分を見ている。
「まだ、帰って来ない」
わたしがいることを忘れてしまったのではないか。それくらい、小さな呟きだった。
「出て行ったきり、一度も帰って来ていないんですよ。誰とも、連絡を取っていないんです」
彼は瞼を伏せる。ため息混じりにこぼす。
「放ってはおけなかったんだろうな、とは思えるんです」
でも、と続ける。
「それだけだったのかなぁ」
彼の意識は、離れた。過去の知人たちに、過去の自分たちに思いを馳せている。