あの時、どうして。
チリと胸の奥底が痛む。
「大 丈夫ですか?」
思わず胸を押さえたわたしに彼がのぞき込む。
(違う、)
痛んだのは、わたしの胸じゃない。
「先生は結婚しないんですか?」
彼は「え~と、」と目を泳がせる。
ちら、とわたしを見て諦めたように「残念ながら」と答える。
また足をさする。
「あ、すみません」
「え? あぁ。いい、いい。これはもう癖ですから」
足の怪我が原因で、嫌な思いや心ない仕打ちを受けてきたかもしれない。
わたしの質問は、無神経だった。
「あんまりね。君たちのように若い、これからの人に言うことじゃないかもしれないですが、」
彼は一度、外を見てからまたわたしを見つめた。
「自分は親になることが怖い」
少しずつ彼の口調が砕けて来ている。本当は、彼の方が吐き出したいのだろうか。