彼は私の反応に苦笑を浮かべる。どこか諦観めいた表情だ。

 彼の口唇が動く。私は何を言われるのかと身構える。

「紫藤(しどう)先生、見ていない?」

 私は力を抜き「いえ、」と知らないことを伝える。

「参ったな」

 彼を見上げた。

 その言葉。一言だけの短い単語に重なる姿。覚えがある。

 溜め息混じりに静かに呟き、遠くを見ていた。

 だが目の前にいる彼は、私から目を逸らし口を噤む。

 別の人物を重ねて見られたことで不快になったのだろうか。

 確かに、別の誰かを重ねるなんて失礼なことだな。

「そういえば」

 私は自分の非礼を誤魔化そうと頭を回転させる。

 彼が尋ねた教員は、私たちのクラスの副担任だ。

「紫藤先生は最近、準備室にいらっしゃいますよ」

 紫藤が職員室にいることは少ない。

 私は思わず、くすりと笑ってしまう。

 彼は怪訝そうに私を見る。