滑りの悪い扉は、今日も不機嫌そうな音を立てている。

 放課後。静けさを取り戻しつつある校舎。グラウンドからは勢いのある掛け声。

「扉は閉めてくれますか?」

 彼は開けたままの扉から一歩、室内に足を入れる。後ろ手で扉を閉める。

「一応、礼を、」

言おうと思って、と来室理由を口にする。

 扉を背にしたまま、動こうとしない。口唇を引き結んだまま、何も言わない。

 頑なそうな、その姿に意地悪をしてやりたくなった。

「お礼ねぇ…謝罪ではないんですね」

 彼は益々、口唇を閉ざす。下唇を噛む。

(苛め過ぎかな?)

 彼はキッと睨み付けてくる。だが胸に手を当て、深呼吸を繰り返す。

 吊り上がった目尻を戻すと「ちょっとくらいは悪いと思っている」と告げた。

 意外だった。彼からそんな言葉を聞くなんて。

「言い訳になってくれて助かった。ありがとう」

「お礼は早いと思いますよ。先は、長い。ずっと、使い続ける理由でしょう?」

 彼は「それでも、けじめだから」と撤回しない。

それだけだ、と扉を開く。

 立て付けが悪いのか、扉はまた不機嫌そうな音を立てた。

「先は長いので、バレないよう頑張ってくださいね」

 彼は睨むように私を見ると「当たり前だ」と吐き捨てて行った。

 息を吐く。

 本当は、礼も謝罪も望んでいない。むしろ礼を言うのは自分の方だ。

 直接は関係ないにしても、償いの場を与えてくれた。罪悪感の行き先を作ってくれた。

 足をさする。

 全て明らかになった時、今度こそ本当に「終わった」と思えるだろうか。

 若い頃のツケを支払ったと思えるだろうか。

 やっと本当に穏やかに生きられるかもしれない。

 窓辺に向かう。

 部活をしている生徒たちが力強く走り回っていた。