彼は振り返らず、そのまま歩いてゆく。

「ユ……呉羽、紀代は何だった?」

(何で紀代は名前で良いわけ?)

 隣にやってきたアキの顔をじっと眺める。アキは先ほどのユキの視線を追うように、友人の背を視線だけで辿っている。

 ユキも紀代も同じ幼なじみなのに。何故、自分だけ扱いが違うのか。

(面倒くさいなぁ、アキは)

 ユキはまた溜め息を吐く。

 芦田の言葉を思い出し「おっと」と思わずこぼし、口に手を当てる。

「イチと何を話していたんだ?」

 何を、と言われるほどの会話はしていない。

 あえて言うなら。

「人生のアドバイスかな?」

 そういえば、彼が溜め息を吐いたところを見たことがない。