彼は知っていたはずだ。

「残酷だろ? 好きな男から、別の男に嫁げって言われたんだ」

 艶やかな黒髪、白い肌。花の顔(かんばせ)。

 告げられた時の彼女は、一体どんな表情をしていたのだろう。

「彼女は彼を慕っていた。彼も知っていたはずだ」

 それなのに。

「その姫ってのは、まぁ、一人娘だから我儘ではあったみたいだけど、」

 紫藤はニヤリと口の端を上げる。

「美人だった」

 彼らはいとこ同士だったが、あまり似ていなかった。彼が母親似で、彼女が父親似だったからかもしれない。

「美しいお姫さまから好かれて、拒んだんだよ。少年の主は」

 彼は見て見ぬ振りをしたのだろうか。