「自分は警察官の嶋木といいます」

 男が良く通る声で名乗る。

「少し、お話を伺いたいのですが、」

 男の視線。真っ直ぐ見る黒い瞳。立ち方。

(どこで、)

 私はこの男を知っている。

 私が無言で凝視していたせいだろうか。嶋木と名乗った男は、ちらりと西日を見て「お時間はとらせません」と告げた。

 甘めの声だと思う。さらりとするよりは粘りがあり、ねちこいよりは清潔感がある。
 その声に、凛とした芯のような響きがあるのだ。特別整った顔ではないが、声や話し方、立ち居振舞いが美形に見せている。

「里緒さん」

 威圧的な調子ではないのに、否やを言わせない。嶋木の声は、絶対的な力を持っている。
 射抜くような鋭さも、責めるような冷たさもない。

 それなのに私は何も、何も出来ずにいる。

―里緒、

 口唇が震える。

「桜坂さんの死因は、事故と思われます。彼女について少し、教えてください」
「何で…?」

 私の震える声に、嶋木は初めて表情を変えた。それは一瞬だったけれど、顔が強張った。

「桜坂さんは、そそっかしい人では?」

 私は頷く。

―里緒、

 無邪気な声で私を呼び、手を振る。そのことに気を取られ、階段から落ちたこともある。段数が少なかったのが幸いだった。

「……」

 黙ってしまった私に嶋木は「そうですか」と応える。
 内ポケットから黒い手帳を取り出し、さらさらとメモを書いて切り取る。

 制服の内ポケットに、私たちもよく生徒手帳を入れていた。
 唯はいつも、いろいろなメモを書いていたっけ。

「私の携帯番号です」

 私は「はぁ」と心なし、気の抜けた返事をしてしまう。

「何か思い出したことがかったら…何でも良いので、連絡してください」

 嶋木の表情は変わらない。ただ、目が。声が。

 真剣さを伝えている。