「イラク人質事件」の”被害者”である高遠 菜穂子さんが、
人質事件と彼女自身のイラク支援ボランティア活動について書いた本である。

「イラク人質事件」において、小泉首相の「自己責任」発言と、
それを煽ったマスコミ各社の報道により、
国民の多くが政府寄りの意見を持ち、
彼女たち被害者がマスコミの執拗な取材や、
煽られた人たちからの脅迫などの「報道被害」を受けた。

この事件は、被害者が政府発表とマスコミ報道により、
さらなる被害受けるという「日本の病巣」を浮き彫りにしている。

本書から、マスコミに関して書かれた文章を引用しておく。
米軍は末端の兵士を道具のように使い捨て、
イラク人に対しては日常的に非人道的行為を繰り返していた。
ただ、世界がそれを知らされていなかっただけなのだ。
<略>
戦火のイラクでは、病院への薬の供給が途絶し、子どもたちがバタバタ死んでいったが、
イラクに抗がん剤を運ぶNGOへのインタビュー記事は、
「ネタとしての賞味期限が切れている」という理由で没になった。
私はイラクで、戦禍が残る現場に何度も記者を案内したが、
それが記事になることはほとんどなかった。
<略>
あの「人質事件」で、私たち家族はメディアの怖ろしさを、いやというほど思い知らされ、
メディアに不信感を持ってしまったからだ。
<略>
実際は、まず何度も頭を下げて謝罪の気持ちを述べたが、その場面はすべてカットされ、
自分たちが激怒するシーンばかりが繰り返し流された。
その結果、日本中から、謙虚さのかけらもない「最低の家族」とレッテルを貼られることになったと、弟たちは嘆いていた。
<略>
あきれ果てたのは、私たちに関する週刊誌の記事だ。書かれたことの7、8割方がウソだった。

これは、9.11事件以降、政府発表の身を報道し、
愛国心を高揚させる報道を行い、イラク戦争に猪突猛進したアメリカに、
似ていないだろうか。

「イラクの治安を回復させる」というアメリカ政府の思惑とは反対に、
アメリカ軍が駐留することによって、イラクにおけるテロが増えたことは、
その後の歴史が明らかにしている。


張本人である日本のマスコミと、それに煽られて偏った言動をとった
日本人から、これまでこの件に対する反省の弁が聞かれたことはない!

これは、「マガジン9条」の記事「9条は日本人には"もったいない"」
伊勢崎賢治さんが怒る日本人と全く同じものではないだろうか。


もし希望があるとするなら、本書に書かれた以下の文章であろう。
イラクに行って良かった。3か月の間に私はイラク人たちを、心から愛し始めることができたのだ。
<略>
本来、イラク人はとても真面目な人たちです。「中東の日本人」と呼ばれていたことがあるほどで、彼らもそのことを誇らしく思っているのです。
<略>
それまで、私たちを知らなかった人たちが私たちに関心を持ち、何か自分にできないかと立ち上がり、行動に移してくれた。だから、私たちは助かったのだ。
<略>
もし戦争を止める力があるとするなら、それは、戦争への無関心と無力感から決別した人間の「意志」以外にあり得ない。私はそう思っている。

戦争と平和 それでもイラク人を嫌いになれない/高遠 菜穂子
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Amazon のレビューで、低い評価をしている人の言葉は、
どう考えても本書の内容を読んで書かれているとは思えない。

以前紹介した、以下の2冊の本と合わせて読み、
「イラク人質事件」をもう一度振り返って欲しい。

- 『世界を不幸にするアメリカの戦争経済 イラク戦費3兆ドルの衝撃』
- 『ハロー、僕は生きてるよ ~イラク激戦地からログイン』

『ハロー、僕は生きてるよ』の著者であるカシームは、本書ではカスムとして登場している。
彼から高遠さんに送られたEメールは、感動的ですらある。

これら3冊を読めば、マスコミに煽られて行動する日本人の問題が
浮き彫りになるのではないだろうか。
日本人は、この事件で起こったことを忘れてはならないと思う。