にほんブログ村
ぽちっとしていただけると張り切ります。
『不思議なお話を』
再開前にあらすじを書こうと思いましたが、
あらすじの書き方がわからないので、
これまでのほぼ全文を掲載してしまっております。
ざっとお目通しいただければ、これまでの流れが、
見えてくるかと。
お手間をとらせております<(_ _)>
【不思議なお話を これまでのあらすじ(というよりほぼ全文)】
通勤の途中、歩道にたぬきが転がっていた。
そっと抱え起こしたがとても弱っている様子だった。
最初は犬かと思ったが、顔つきが犬ではない。
きつねかとも考えたが顔が長くない。
動物病院に連れて行こうと考えたが、動物病院の場所がわからない。
とそのとき、アタマの中に声が響いた。
「わたしのことをみつけてくれてありがとう。
わたしは、あと数日でこの世を去ります。
最後にひとつだけお願いがあります。」
えっ!なんだこの状況は。
僕は、思わずたぬきの顔を覗き込んだ。
たぬきは、目をぱっちりとあけてニッコリと微笑んだ。
いや、微笑んだように見えた。
それにしてもメスのたぬきというのはあまり見ない。
目にふれるのは、たいていオスと決まっている。
たぬきの声が、また響いた。
「わたしの名前は、”みら”、きのこたけのこ山の山主(やまぬし)の娘。
わけあって下界で暮らしておりました。」
えーっ!
たぬきにしては、斬新な名前だ。
いやいや、たぬきからしたら人間の名前だって変に感じることもあるだろう。
思わず聞いてしまった。
「なんでコトバが使えるの?それになんで下界で暮らしてるの?」
すぐに応えが返ってきた。
「山に生まれ、そこで暮らすもののなかで、希(まれ)に下界の知恵を
持って生まれるものがいます。」
「下界の知恵って?」
「人間達が持っている知恵のことです。」
「そうか。一種の突然変異。天才が生まれたってことか。」
「そして、わたしは、下界の情報収集に来たのです。」
「それはまたなんで?」
「きのこたけのこ山は、あと数年で開発の波によって切り開かれてしまいます。
それは、前任者が突き止めていました。」
「じゃあ、それを食い止めようとしてるんだね。」
「いいえ、わたしたちには、そういうチカラはありません。
でも情報がないと対策も打てません。」
こころなしか、さっきより元気そうだ。
不思議だ。
「わたしたちは、22億回の鼓動で寿命を迎えます。わたしの鼓動は、
さっき21億9900万回を超えました。」
あらら、この娘(こ)が言ってるのは、寿命心拍数説のことだ。
アタマのなかで簡単な暗算をしてみた。
たぬきの心拍数は、体重が5kgだとすると一分間に150回ぐらいだろう。
あと100万回というのは、100万÷150(回)÷60(分)÷24(時間)
で計算すると、4日しかない。
「うんわかったよ。それでキミの願いっていうのはなに?」
みらの言ったことは、驚くべきものだった。
「その前に、わたしのポーチからライチをとりだして口に含ませてください。」
確かに、彼女はウエストポーチを着けている。
そこには、金属製の容器が入っていた。
蓋を廻すとライチが数個入っている。
一緒にフォークもあった。
そこでライチを一個、フォークに刺して口に含ませた。
そのとたん・・・。
それまでぐったりしていたのが、生気が戻ってきているのが見て取れた。
「おや、ずいぶんと効くんだね。」
「ええ、下界で暮らしていくのにライチはかかせません。」
確か、楊貴妃も好んで食べてたんだよな。生のライチは、とても風味に富んでいて
栄養価も高い。
でもいまは、台湾で収穫されたシロップ漬けが手軽に買える。
みらが続けた。
「最初に気がついたのは、台湾に住んでいるコーコ族という仲間でした。
その気づきが、またたくまに世界中に広まりました。
ライチを食べるとヒトのように振る舞うことができるんです。」
「えっ!っていうことは、ヒトに化けることができるってこと?」
「化けるっていうよりもヒトになれるってことです。でも期限はありますが・・・。」
「じゃあ、いまここ愛宕市にもキミたちの仲間がいるの?」
「そうです。コンナ・ミラーズのウエイトレスは、ほとんどが、きのこたけのこ山から
来てます。」
「えーっ、あのピザレストランのウエイトレスって!」
みらは、またたくまに綺麗な女の子に変身していった。
あらら、こんなことって!
僕は、目をまるくして絶句してしまった。
なぜかコンナ・ミラーズのコスチュームまで着ている。
とてもキュートだ。
でも、彼女が言ってた期限はあと4日だ。
どんな願いなんだろう。
「実は、アキバにも仲間がたくさんいます。ほとんどがメイドカフェで働いています。」
「ひゃああ、そうだったのか。」
「でも、その他に芸能界にもいるんですよ。私は、女優として
もう一度映画に出たいんです。」
なるほど、これがみらの願いだったのか。
でも、映画に出るってどうすればいいんだろ。
以前に出た映画ってなんだろうか。
とりとめのない考えがアタマの中を巡った。
しょうがない。とりあえず、今日は、会社を休もうか。
なんだか、不思議な体験だ。
「みら・・・さん!」
いきなり人間の女性になったものだから呼び方に戸惑ってしまった。
「すみません。ご迷惑をおかけします。お名前をいただけますか?」
「あっ! 僕は、うさみ けん(宇佐見 健)っていいます。」
「うさみ さん。すみません。煩わしいことをお願いしてしまって。」
「うんまあ、これもなんかの縁だろうから。できることは、手伝いますよ。」
みらは、ニッコリと微笑んだ。
見た感じは、20歳ぐらいかな。
「それで、以前はどんな映画に出たの?」
「それが、一言では説明が難しいんです。」
「じゃあ、幾つか質問するけど。映画の題名は?」
「”トトロの森の物語”って言います。」
「となりのトトロは有名だけど、それは知らないなあ。」
「ええ、もちろんとなりのトトロへ捧げた作品です。」
「いつごろなの?」
「去年の秋ですね。」
「全国で上映した?」
「いえ、都内の映画館の一部で。」
「そうか。じゃあ知らないのも無理はないか。」
「それに・・・。」
みらは、少し言いよどんだ。
「・・・何?」
「実写じゃないんです。」
「じゃあ、アニメってこと?」
みらは、ちょっとうつむきながら頷いた。
「じゃあ、声優をやったんだね。」
「ええ、声優もやりました。」
「声優も? ”も”ってどういうこと?」
「うまく説明できないんです。最初に監督からこのシーンを思い浮かべて
演技してみてって言われて、
でも監督は、そのシーンは、カメラでは撮らないんです。」
えっ!いったいなんのこと?
「なんだか、アタマに帽子のようなものをかぶせられて
監督は、その帽子をじっと見てるんです。」
いったいなにをしたのかな。
「それで、できあがった画(え)を観ると自分が演じた通りにできあがってるし、
自分だけは、アフレコいれなくても自分の声が入っているんです。」
そりゃあどういうことだ。
でも、なんとなく判ってきた。
たぶん、監督はみらのアタマのなかを覗き込んでそこから映像と音声をとりだした。
それをアニメに変換したんだろうな。
最新の映画技術は、なんだかすごい。
ということは、気づかれたと言うことか。
僕は、ちょっとある懸念をもった。
「じゃあ、その監督さんは、あなたがヒトじゃないって気がついてたの?」
「たぶんそうです。演技指導されたときに”アナタのふるさとではどうしてた?”
ってよく聞かれました。」
「だから、あなたを使ったってことか。」
「他にも仲間が何人かいました。でも、今は音信不通です。」
「監督さんを探すのが一番速いよね。」
「でも、先月も探したんですが海外に行ってるらしくって連絡つかなかったんですよ。」
僕は、みらの願いをかなえてあげたかったけど、あと4日でなにができるんだろう。
ちょっと絶望的な気持ちになった。
「じゃあ、その映画のストーリーを教えてくれる?」
「今から4000年ほど前、屋久島に縄文杉が生まれた頃、森の動物たちは
人間を見たことがなかったんです。
でも、ある年のこと。春から夏にかけて大雨が続いて大きな山崩れが起きました。
山崩れのあとは、一本の道ができたんです。そして一匹のタヌキが
初めて里に下りて行きました。
そこで初めて人間の若い男を見ました。」
「うん、それで!」
「タヌキは、その凛々しさに打たれ、得も言われぬ不思議な気分になりました。
一目惚れしたんです。」
「つまりタヌキはメスだったってことね。」
「そう、それが私の役。役名を”みがさ”といいます。」
「やっぱ、監督は知ってたんだね。あなたが人間じゃないことを。」
「ええ、でも私たちがライチを食べて人になると、
ホントに人間の男性に惹かれる心が生まれるんです。」
やっぱりそうなんだ。
昔話のなかには、人間を好きになる動物たちの話はよくでてくる。
実際に日本人の何パーセントかは、タヌキかもしれない。
僕は独身だからよくわからないけど、同僚の奥さんのなかには、
どうも怪しいという人もいるなあ。
まあ、それもひとつの選択。
人生いろいろなんだろう。
みらが続けた。
「ライチは、自分を人の姿に変えることができるんですが、
実は、私たちが人間の姿に見える果物があるんです。」
「じゃあ、”みがさ”は、それを若い男に食べさせようとするんだね。」
「そうなんです。」
それは、意外な果物だった。
とそのとき、不意に僕の携帯が鳴った。
東京にいる友人、銭州 雪臣(ぜにす ゆきおみ)からだ。
「やあ、さっきのメール読んだかい。」
「いや、まだだ。ちょっとここ30分ほどとりこんでたから。」
「こっちも急ぎなんだ。読んだら、至急返事くれ。」
「うん、わかった。もうちょっと待って。」
僕は、みらの方に顔を向けて
「ちょっと待ってね。なんだか至急のメールが来てるんだ。」
「ええ、わかりました。」
普段は、ショルダーバッグに画面の大きなスマホがあって、
ポケットには小さな音声端末を入れている。
ショルダーからスマホを取りだしてGmailを立ち上げた。
銭州からのメールのタイトルは、【これってどう思う?】だった。
添付している動画ファイルを開いた。
驚いた。
アキバの駅前から電気街に入ったところで、歩道にタヌキが転がっていた。
銭州は、タヌキを介抱して、持っていたポカリスウェットを飲ませたら、
なんとタヌキが見る間に若い女性に変身してしまっていた。
これは、ほとんどみらと同じ展開だ。
銭州は、普段の行動をメガネに取り付けたライフログカメラで録画してるから、
こんなことができる。
なんかヘンなことがおきるといつもこんな風に相談してくる。
早速電話した。
「おいおい、こっちと同じ状況だぞ。タヌキを介抱したら女の子になった。」
「そっちもそういう状況か。こっちのタヌキはなんだか仲間とはぐれたらしい。」
「ちょっとまってくれ。こっちの”みら”を電話口に出すから。
そっちもそのタヌキを電話に出してくれ。」
「わかった。ちょっとまってくれ。」
みらは、音声端末でなにかしゃべってる。
日本語じゃない。たぶんタヌキ語だ。
当然内容はわからない。
五分ほどしゃべってから、みらはこっちに振り返った。
「うさみさん!ありがとうございます。アキバのメイドカフェで
働いている知り合いでした。」
「どんなことを話したの?」
「日本にいる仲間達は、共通の心配事を抱えているようです。」
「どんな?」
「それがよくわかりません。でも残された日はあまりないと言っています。」
「じゃあ、キミの状況となんとなく似てる。」
「実は、一緒に映画に出た仲間でした。」
「じゃあ、東京までいって合流した方がいいね。」
「もちろん、うさみさんも行ってくれますよね。」
女性に懇願されたら、否とは言えない。
会社に電話して、一週間の休暇をとるしかないか。
まだ、繁忙期じゃないから。
ここから東京までは、新幹線で3時間だ。
早速、みらをクルマに乗せて駅に向かった。
駅までは、15分ぐらいだ。
クルマの中でみらといろいろ話した。
「キミの故郷、きのこたけのこ山ってどこにあるの?」
「日本のどっかだと思うんですけど・・・。」
みらはなぜか言いよどんだ。
「えっ!どっかってどういう意味?」
「日本の地図にないんです。」
「意味わからないけど。」
「きのこたけのこ山の中腹に、洞窟があります。
それで、その洞窟の一番奥に青白く光っている扉があるんです。
そこをくぐってしばらく歩くと日本のどっかに出るんです。」
「行き先が決まってないの?」
「新潟だったり、徳島だったり、秋田だったり、でも出ると
いつも森の中なんですよ。」
「じゃあ、そこから歩いて街まで行くんだね。」
「大体は、そうなんですが、電柱が見つかればその電線の上を
走って行くのが多いですね。」
どっかで聞いたことがあるぞ。
そうだ”ねこばす”は、電線の上を走ってた。
トトロの森の住人は、みんな電線の上を走るってことか。
「じゃあ、きのこたけのこ山に戻るときはどうするの?」
「大きな川をたどって上流に向かいます。どんな川でも
必ず大きな山の中腹に水源があります。
その水源の脇には、かならず洞窟があるんですよ。」
「あんまり聞いたことがないけどなあ。」
「それは、人間に見えないんです。それに、ちいさな穴だから
ヒトは入れません。」
「あっそうか。それってたしか”けものみち”っていう名前だっけ。」
「そうです。その穴をたどると必ずきのこたけのこ山に戻れるんです。」
不思議な話だけど、今日起きた出来事を振り返ると
あながちウソじゃないんだろうな。
まあ、しばらくは、みらの願いを叶えてあげられるように頑張ってみよう。
クルマは、駅の駐車場入り口をくぐってから、らせん状の車線を上って
屋上駐車場についた。
ちょうど、直下に”はやて号”が停まっているのが見えた。
ちょっと走れば間に合うだろう。
「みらちゃん!ちょっと走ろうか。」
「ええ、わかりました。」
二人で小走りに改札を目指した。
東京までの新幹線”はやて号”は、出発まであと3分。
ぎりぎりだった。
アキバまで大体3時間の行程だ。
”はやて号”は、8両編成で、先頭車両がグリーン車。
僕達は、3両目の普通車両に乗り込んだ。
10列目のA席がみら、B席が僕だ。
僕は、早速、銭州(ぜにす)にダイレクトメッセージを出した。
”11時半ぐらいにアキバに着く。着いたら電話する。”
すぐに返事が返ってきた。
”了解した。今日は、オレも休みをとった。”
まったく、アイツも僕もひとがイイ。
新幹線は、ゆっくりと動き始めた。
みらが、振り向いてうるうるした目でこっちを見た。
「うさみさん!こんな私のためにいろいろありがとうございます。
ご恩は、一生忘れません。」
「まあ、こんな機会はあんまりないっていうか。
自分は好奇心もある方だし・・・。
それに、乗りかかった船だし・・・。」
なんだか自分のことだけど、はぎれが悪い。
みらが言った。
「あのー。私にはお礼できるものがないんです。それでもよろしいですか。」
「うん、なんかねえ。ほっとけないって言うか、運命的って言うか。
それにこの状況はとっても面白いから。」
と微笑むと、みらは、大きな涙をこぼした。
でもとても嬉しそうだ。
「ところでさ。みらちゃんは、人間に食べさせると
キミ達がヒトに見える果物があるっていったよね。」
「ええ、飲んでみますか?」
「えっ!いまあるのかい?」
みらは、ウエストポーチから小さなピルケースをとりだした。
「それって、錠剤?」
「ええ、生だと強烈すぎて飲みづらいんです。だからエキスを
粉末にして固めたものです。」
「なんていう果物(くだもの)?」
「ノニっていいます。」
ノニ?ノニって聞いたことがあるなあ。
そうだ。思い出した。
独特の強烈な臭いがあり酸味・渋味・苦味もある東南アジア原産の果物だ。
沖縄とか小笠原にも自生している。
現地のひとには、とてもすごい薬効と不思議なチカラがあると
信じられている。
「でも、いまは、ライチのおかげで人間になってるよね。
だったら、いま僕が飲んでもあんまり関係ないのかな。」
「ごめんなさい。これは、人間社会に溶け込むためにときどき使ってるんです。」
「あ、そうかつまり、酔客にそっと飲ませるんだね。」
みらはすまなそうに頷いた。
「飲むのはやめとくよ。必要ないみたいだし・・・。」
「すみません。これからは使わないようにします。」
でも、それがあとであんなことになるとは。
新幹線は、半分の行程を過ぎた。
それにしても、きのこたけのこ山ってどこにあるんだろうか。
みらの話だと日本の地図にはないという。
でも、存在していることは確かだろう。
「ノニの木って、きのこたけのこ山にあるの?」
「ええ、ノニはありますよ。」
「ということは、気温は高いんだよね。」
「そうですね。山の麓は、気温が高いんですが、頂上まで行くと雪があります。」
えっ! じゃあ、自分が考えていたようなトトロの森のイメージとは違う。
もっともっと高い頂をもった山なんだ。
そういえば、映画の中に屋久島って話がでてきたな。
気温が高くて積雪もあるってそのままじゃないか。
確か、屋久島は平均気温は、30℃近くだけど、最高峰が2000メートルで
積雪もある。
「みらちゃん! キミの住んでたところは、わかったよ。屋久島なんだろ。」
「監督もそんなふうに考えて、脚本を書いたって言ってました。」
「あらら、じゃあ違うのか。」
「私たちにもわからないんです。」
僕は、ネットで検索してみた。
”屋久島の生物種のなかには、たぬきは存在しない。
1990年代になってから外来種として登場した。”
Wiki先生によるとこういう記述がある。
まてよ。ノニが育つのは、沖縄ぐらいが北限だ。
ということは、それより南にあるのか。
じゃあ、候補地はあんまりないよな。
ノニは、インドネシアにもっとも群生してるという。
一家に一本は、日よけ用として植える。
高さは10メートルにもなるらしい。
ノニの果実のほかにノニの葉も薬効があるという。
「みらちゃん。」
「インドネシアのコトバってわかる?」
「いーえ、わかりません。私がわかるのは、仲間としゃべるコトバと
日本語だけです。」
そうか。ちょっとあてがはずれた。
あとで、銭州(ぜにす)が助けた女の子にも聞いてみよう。
そのとき、ふと感じることがあった。
この子とは、どこかで会ったような気がする。
横顔になんとなく面影がある。
どこで会ったか思い出せないけど。
新幹線は、上野駅手前で地下に潜った。
上野で1分間停車した後に東京駅に向かって再び走り出した。
地下を出ると左手にUDXビルが見える。秋葉原だ
新幹線は数分後、東京駅に滑り込んだ。
減速して22番線に到着した。
みらには、僕のダッフルコートを着せている。
ひざ下まで隠れているけど、コンナ・ミラーズの制服のままよりは目立たない。
新幹線改札口を出て、京浜東北線下り/山手線内回りのホームを目指した。
今は、11時を過ぎたところだ。
新幹線が着く前に、銭州(ぜにす)には、メッセージを送っている。
だから、アキバの改札口で待っているはずだ。
「よお!」
すぐに銭州の顔を見つけた。
僕より身長が高いからすぐにわかる。
「ああ、その子なんだね。」
銭州の連れてきた子は、みらよりは背が高く黒髪のショートカットだった。
年齢的にも、みらと同じぐらいだろう。
「きゃあ、みら!元気?」
「くうこも元気そうだね。よかった!」
二人は、手を取り合って喜んでいる。
銭州が声をかけた。
「じゃあ、いつものカフェに行ってみようか。」
「わかったよ。」
4人で向かったのは、電気街の小路を抜けた神田明神の手前のお店だった。
とそのとき、ふと見上げたLEDサインで思い出した。
そうだ。みらは、あの時の・・・。
衝撃的な思い出が蘇った。
一年前、僕は、ある場所にいた。
そこへは、あまり観光客がよりつかない。
事前に何度も当局と交渉してようやく許可が下りた。
亜熱帯の高山にしかいない蝶を探すためだった。
2週間の登山に備えて、食糧、燃料、衣類、テントなどを揃えた。
幻の蝶を見ることは、僕の夢だった。
その蝶は、日本のギフチョウに似ているがもっと大きい。
実際に飛んでいるところは、神々しいぐらいだという。
この蝶を探すのが目的だった。
そして、山に入って一週間目。
すでに1000メートルを超えた高地だった。
この蝶は、紫外線に敏感だという。
だから紫外線を出すLEDサインを持って行った。
少し、空が曇ってきていた。
チャンスだ。
紫外線があるとそこを花だと思う習性がある。
ついに1羽の蝶が寄ってきた。
じっと息を潜めシャッターチャンスを狙う。
でもLEDサインにとまる寸前に気づかれた。
蝶は、もと来た方向に逃げていった。
大きな羽に、深紅の瘢痕が見える。
これだ。
そして僕はそのまま蝶を追いかけていった。
20メートルほど追いかけたとき目の前に崖が現れた。
ああっ!
勢い余って、足を踏み外した。
そのまま谷底へ落下していった。
気がついたのは、何日か後だと思う。
全身が焼けるように痛い。
それでもようやく目を開けると、周囲がぼんやりと見えた。
どうやらベッドに寝かされているようだ。
部屋は、8畳ほどか。
ベッドといっても丸太で組んだ簡素なものだ。
若い娘が入ってきた。
「****、*******。***、******。******
*************。********。」
なにを言っているのかはわからない。
でも助けてもらったことは事実だ。
彼女が発するコトバのなかに『パイワン』というのを何回か聞いた。
パイワン?
そうだ。ガイドブックに載っていた。
高山に住む先住民だ。
たしか隔離された地に住んでいて平地の人々とは、果物を売って
交易しているという。
でもよく見ると日本人と似ている。
綺麗な顔立ちだ。
そこへムラオサのような白髪の男が入ってきた。
「オマエは、日本人か?」
「そうです。」
「この地になんのために来たのか?」
「タイワンシボリアゲハを探しに来ました。」
「あのチョウを追って、何人も崖から落ちて命を落としている。
オマエは運を持っている。」
「助けていただいて感謝しております。」
「治るまでここに逗留するがよい。運のあるものは、歓迎じゃ。」
回復するまでは、4週間ほどかかった。
あとで知らされたのだが、僕は滝壺に落ちたらしい。
それがクッションになってそれほどのケガにならなかった。
娘は、献身的に看病してくれた。
毎日コトバを交わしているうちに、娘は日本語をだんだんと覚えていった。
白髪の男は、彼女の祖父でかつて日本語の教育を受けたという。
そのとき使った教科書は、粗末な紙を紐でとじたもので、
ずいぶんと黄ばんでいる。
でも彼女は嬉しそうに1ページ毎に覚えていった。
彼女の名前は、”明明”と書いて、”ミンミン”というらしい。
パイワンの地はほとんどが丘陵と高山で、彼らは、狩猟と採集を
なりわいとしている。
採集してるのは、主に茘枝(ライチ)だという。
交易で穀物や衣服を手に入れるらしい。
娘の祖父がやってきた。
「とても感謝しております。なにかお礼ができればいいのですが・・・。」
「オマエは、クスリ箱を持っているな。この地では、困った病気が流行っている。
効くかどうかわからないが、クスリ箱を置いていけ。」
「それでよければ、喜んで!」
僕は、交易口のある場所に連れて行かれた。
そして平地の人々に引き渡された。
でも、その直前に飲まされた果実酒のためだろうか。
パイワンの地で過ごしたキオクは、すべて無くなっていた。
そうだ。みらは、あの時の・・・。
”明明(ミンミン)”だった。
台湾に出かけたのは、ちょうど一年前。
そして、チョウを追って崖から転落した僕を一生懸命介抱してくれた。
僕はいまキオクが蘇ったけど、みらは僕のことを忘れているようだ。
いったいなにがあったのか。
次の小路を右に曲がると、5階建てのビルが見えた。
エレベータ脇の階段で2階に上がった。
そこがカフェ『オーレ』だ。
メイドカフェではなく普通のカフェバーだ。
ドアを開けて中に入った。
ボックス席が8席とカウンターがある。
銭州(ぜにす)が、カウンターの中にいるオーナーに目配せをすると
奥の個室に案内された。
僕と銭州は、ホットコーヒー。
みらとくうこは、ライチのジュースを頼んでいる。
アキバでは普通に置いているらしい。
「それでね。」
僕が口火を切った。
「キミたちは、同じ日におなじような姿で道に転がっていた。なんでかな?」
「それがよくわからないんです。気がついたらあの場所にいました。」
と、みらが応えた。
「わたしもそうです。自分の部屋で眠ったはずなのにいつのまにか
あそこにいました。」
「みらちゃん!キミが最初に言ったのは、きのこたけのこ山の話と
あと数日しか生きられないってことだったよね。」
「そうです。それは間違いありません。映画に出たときに言われました。」
「もう一度映画に出たいんだよね?」
「ええ、とても楽しかったですから。」
「よし、わかった。じゃあ、アナタは、くうこさんっていうんだよね。」
ちょっとみらより長身の女の子が応えた。
「ええ、そうです。以前にみらと一緒に映画にでたことがあります。」
「じゃあ、アナタももうすぐ寿命が来るのかい?」
「いえ、そのへんはよくわかりません。」
銭州が遮った。
「えっ!寿命の話ってなんだい?」
「えーっとね。みらちゃんはあと数日のいのちなんだって。」
「よくわかんないけど・・・。」
僕は、哺乳類の心拍数の話をした。
カラダが小さいほど一分間の心拍数が多い。
心拍数がある回数に達すると寿命を迎える。
タヌキは、体重が人間の5分の1ぐらいだから寿命も5分の1ということを。
銭州は、ちょっと考えていたけど、
「だって、今は人間の姿だよね。だったら大丈夫じゃないの?」
僕は、驚いた。
そうだ。
もともとみらは人間だった。
それが、なんかの理由でタヌキに変えられて、自分はタヌキだと
思い込んでしまった。
そして映画に出たときに心拍数と寿命の話を吹き込まれたんだ。
じゃあシナリオを書いたのは、だれ?
その監督じゃないか。
僕はそのときある可能性に気がついた。
(続く)
【2014年1月記】
にほんブログ村
お読みいただいてありがとうございました。ぽちっとしてくださると喜びます。
http://blog.ameba.jp/ucs/outsideservice/outsideserviceinfo.do
Copyright (C) 2011-2013 jube_lion All Rights Reserved.
