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【恋はあせらず】

Lytroカメラをご存じでしょうか。

後でピントを合わせることができるカメラです。

米国スタンフォード大の教授が発明した

「Light Field Camera」という理論が基礎になっています。



原理は、格子状に配置されたたくさんのレンズであらゆる方向からの

光を記録し、そのデータを高速に演算することでその視点からの

写真を合成するというものです。


さあて、S氏が考えました。

Lytroカメラに音声記録も含めて、ヒトの行動を記録する。

そう一年分ぐらいですね。

膨大なデータ量になりますが、

そこは半導体技術の進歩によりなんとかクリアできました。

彼はそれを、Lytro+(ライトロプラス)と呼びました。



何に使うのか?

ヒトの行動様式は、そのひとの考え方、性格、好みなどが反映されます。

Lytro+(ライトロプラス)でそれを全部記録して高速に演算すると

ひとの行動様式がデジタルデータとして残せます。

つまりそのひとの人格がコンピュータ上に再現できるようになったのです。



いろんな用途が考えられましたが、S氏は婚活産業に応用することを

選択しました。

交際を希望する男女は、あらかじめ自分のデータを

Lytro+(ライトロプラス)で記録します。

そして、コンピュータ上でいろんな異性と擬似交際します。

これは、受けました。


生身で傷つくことがないため、特に女性から賞賛の声があがりました。

擬似交際で計算された体験データは、あとで自分のキオクとして

取りこむこともできたからです。

特に、擬似交際は、一年間の交際期間をたった一週間で計算できるのが強みでした。



つまり一年間で、50人もの異性と擬似交際できたのです。


これはスゴイ反響を呼びました。

ぞくぞくと会員数が増えました。


でも三年も経つと徐々に脱退者が増えていきました。

女性は、理想とした男性がひとり現れるとそのキオクを取りこんであとは

その余韻にひたりました。

男性は、一年間に50人と擬似交際すると、次の年も、その翌年も

新たに50人と交際することを選びました。

まったくオトコは浮気性です。

そして実際に結婚に至ったカップルはほとんどなかったのです。


その結果、徐々に地球の人口は減っていきました。

S氏の胸中に、こんなはずではなかったという思いが湧いてきました。


S氏はある唄を思い浮かべて、つぶやきました。

「Love don't come easy!」

そう、「恋はあせらず」です。

生身の男女がいてはじめて恋が生まれることは、普遍だったのです。

(了)

【2013年10月記】




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